心の余裕に新たな挑戦!は始まる前に終わる気がする。

 散歩から帰ってきたら皆さんの生暖かい視線にお出迎えされた。

 おっさんたちの良かったなあと言う視線。

 ガキだなと言うような工藤のバカにする視線。

 によによする村瀬と藤原。

 素直にどこまで行ってたんだよーと村瀬たちとサバイバルなシュノーケリングをしてたとご満悦な岳。

 岳、おま、ほんと俺の癒しだよ。

 とりあえず水着を着替えてくるとログハウスに飛び込んだ沢田が出てくるのを待ちながら砂浜に広げられたままのバーベキューセットとかビーチチェアを先に収納で片づけておく。

 沢田が着替え終わって出てきたらすぐ出発できるように。

 デートの終わりとしてはあまりに盛り上がりに欠けるのだがそこは悲しい事に結城さんに借りをしてる以上約束は守らなくてはいけない。

 だけどそこは沢田。

 さっぱりという様にこの短時間でシャワーを浴びて何時もの冒険者スタイルになって表れた。

 そう、ジャージスタイル。

 あの何とも言えない甘酸っぱい空気を見事断ち切ってくれて少し寂しく思うも


「さあ! さっさとマゾを倒して山の家に帰りましょう!」

 

 そんな気持ちのいい宣言。

 そうだ。

 俺達はもうこの大学ダンジョンでのトラブルも解決したし、ダンジョン踏破もしたのだ。

 さらに当面俺達の名前を聞きたくないくらいの荷物を押し付けてきた。

 むしろさっさと山に帰れと言うくらい罵られるくらいしでかしてきた自負はある! ふっ……

 まったく褒められるべきではないけどね。

 その上沢田の問題も解決したし。


 いやいや、街金から借りた沢田から金を巻き上げた人。あの後すぐにダンジョンに連れていかれたそうだ。  

 着の身着のままで……

 何をやらされているのか気になるもさりげなく結城さんと弁護士さんが話をしている会話が聞こえた。

 

「いや、レベル10もないけどそれなりにレベルがあるのの紹介ありがとうございます」

 なんかにこやかに始まった会話だけどまったくもって声に似合わない物騒な出だしから始まったなと思って耳を傾けていれば。

「もとは料理人と聞く。使い勝手は悪くはないだろう」

 結城さんの問題ないだろうという声に街金の人は嬉しそうな声で


「ええ、肉をばらすだけならともかくはらわたの確認は屈強な戦士でも嫌がる仕事でね。

 強力な胃酸に手が溶けた奴もいてね。

 でもここだけの話。ちょっと大きめな個体の魔物の心臓の中に時々綺麗な宝石が入ってるのですよ。

 全部が全部にあるわけではないのですが、それがまだまだ知られてなく、そしてびっくりするほどの高値になりましてね。

 我々の世界ではその取れた魔物と宝石を組み合わせた武器がなかなかに強力らしくてね。

 だけど魔物の心臓ってそのお宝を守るようにできているのかなかなか切ることが出来ないのですよ。

 そして守る様に強い毒を含んでいて、うまーく切らないと血液が空気中に飛び散って大変なことになるのですよ。

 ああ、毒と言っても体にしびれが残るとか、飛び散った血液を摂取して呂律が回らなくて上手くしゃべれなくなるとか、眼球に入れば視力を失うとかその程度のよくある事ですよ。

 いやいや、その程度でよかったです。なんせその程度だから借金返済の為にまだまだ働くことが出来ますからね」


 思わず無言の結城さん。

 俺も言葉をなくしてしまう。

 あいつらはそれだけの事をしたのだろうか。

 したな。

 とはいえなかなか恐ろしい展開だ。

 いくら借金という形であいつらは自身を担保にしたとはいえ恐ろしい所に行ってしまったなと思いながらも今更ながら俺達も臓器とかダンジョンの中でぶちまけてたな冷や汗を流す。

 って言うか、誰も飛び散った血に触れて毒に侵された形跡はない。

 しかも腸の中身まで見て笑ったりしたこともあったしもつ煮とかも食べた事がある。

 うん。

 うちと違うダンジョンだからな!

 決して俺がまき散らかした毒霧のおかげでみんな耐性が出来てちょっとやそっとの毒じゃ問題ない体になったとは思いたくない。

 いや、一番の有力説だけど。

 スキルダンジョン外使用許可と無限異空間収納もいきなりMAXなぶっとんだスキルだけど、ステータス接続権利に限っては成長段階があるようだ。

 限りなく成長は遅いけど。

 他人様どころかダンジョンのものすべて見ることが出来るし、挙句に人様のスキルを変える事も出来る。そして詳しい説明も見れるようになった。

 もっともいじれる範囲は狭いが、ダンジョンが出し惜しみをしているのならもっと詳しく見る事も出来るだろうし、今いじれない所もいじれるようになるかもしれない。

 例えば数値を爆上げできるとか……

 工藤の金の力って言うバカチートを思い出せば絶対リスクが付いてきそうだからそんなことしないけど……

 そういやステータス接続権利のレベルって最近上がらないよな。

 まあ、最近そこまでいろんなものを見てチェックしたりという事をしなくなったのが原因だろう。

 魔物は調べる前に普通にぶっ飛ばせるから見なくなったし……


「これか!」


 ステータス接続権利が成長しなくなった原因。

「相沢どうした?」

 いきなり叫んだ俺に沢田が駆け寄ってきてくれて、おっさん達がニマニマとした顔で俺達を眺めてくる。

 うぜぇ……

 少しは工藤みたいにどうでもいいという顔をしてみろよと言いたかったけど

「ちょっと思いついたことがあってね。

 少しまじめに勉強しようかと思ってさ」

「真面目に勉強って……」

 むしろどうしちゃったという目で見られたけど

「たまには世間様にも貢献しようと思ってね」

「もう十分してるよ?」

 これ以上何をやるのという様に逆に不審な目を向けられたけど

「ほら、よくゲームで魔物図鑑とかあるよな?

 最近ちょっと余裕が出てきたから作ってみようと思ってさ」

「そういう所まめよね?」

「まあ、ご当地ダンジョンごとに魔物が違うからね。記念に」

 言えばだったらと言って


「いろんな魔物をつかまえなくちゃね!

 虫とかも?」

 

 そういえばあいつらがいたという事を思い出して

「ちょっとくじけそうになったかも」

「まだ図鑑の一ページも作ってないよ」

 なんて笑う沢田。

 もうラスボス以外は大体余裕を持って対処できるようになったから少しはダンジョンを楽しむのもいいかな?

 なんてうちのダンジョン以外の様子を見てもっと楽しんでもいいのではと少し思うようになった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る