誰もが一度は通る道だと思う
11階から15階のダンジョンの出入り口はほぼ直線上にあるという事。
そんな分かりやすいルールがあるので出入り口にある川べりからまっすぐ走る先はほぼ川の秋葉ダンジョン。
そう、真っ直ぐ。
分かっていたじゃないか。
川幅ン㎞はありそうな巨大な川の先にある出入り口は
「やっぱり川の上にあるとかwww」
岳が大爆笑をしてくれた。
「いや、これ本当にどうなっているんだ?
水面に建つダンジョンの入り口とかどんな仕組みになっているんだ?」
林さんもびっくりなようで四角い箱のような入り口に上ってみたり調べだす始末。
俺達はうろうろと入り口の周囲を歩いては何もないところにぽつんとある13階に向かうための入り口を眺めていた。
材質は10階までと同じく淡く光るレンガ調の作り。
「水は中に入らないみたいだよ?」
一足先に水面に立つダンジョンの入り口にもぐりこんだ沢田は軽くジャンプをしながら
「揺れないし、沈まないし、ほんとダンジョンってわけわからないわね」
「だな。増水したり渇水だったりしたらここだけ宙に浮いてたり水に飲まれたりするのだろうか」
まじめに橘さんは考えているが俺はそれよりも気になる事を一つ。
「工藤は14階まで潜ったことがあるんだろ?その時はどうやってここをくぐったんだ?」
たぶん全員の素朴な疑問。
だけど工藤は当然のように
「泳いで渡っただけだ。まさか水面にあるなんて想定外だし、ボートなんて用意しちゃいねえ。水中の魔物に咬みつかれながら進んだだけだ」
言いながら工藤も階段へと乗り込めばすぐに林や三輪もダンジョンの中に入る。
よくよく見ればすでに小さなかわいらしい足跡が階下へと向かっていて雪がこの先で待っていることを教えてくれた。
不思議なことに魔物は下から上がってくることはあっても下に降りる事はない。どれだけ地上に出たいんだよと思いながら俺も下へと向かおうとすれば背後から何かゾクゾクッとした気配を感じた。
何もわからないのに得体のしれない恐怖を覚えて振り向けば遥か遠くに何か黒いものが水面の上に立っていた。
瞬間ブワリと全身の鳥肌が立つ。
「なっ、あれ……」
「クッソ、ここで来やがったか借金鳥!」
まさかあれが工藤を追いかけている……
歩いているわけではないのに水面を滑るように逆流してきて俺達に迫ってくる。
どうすればいいかなんて
「千賀さん!」
「いったん戻……」
戻ろうなんて言おうとしたところで急にスピードを上げて俺達の目の前まで来ていた借金鳥の異質さに
「階段を降りろ!」
逃げ場は階段しかなく急な方向展開は仕方がない。
一斉に階段の中に逃げ込む最後尾から俺は迫ってくる借金鳥に
「収納!水!」
俺的禁忌の技。
一瞬で干上がった川と取り残された大量の魔物たちが突然の出来事におろおろとしている光景を千賀さん達はもちろん岳も息をのんで見ていたけど俺はお構いなしに借金鳥に向かって手を向けて
「水!吐き出せっ!!!」
収納した水を借金鳥に向かってぶち当てた。
あっという間に水の勢いに飲まれてその姿が見えなくなってしまったが、後にはあふれ出した水の大洪水……
これを二度もやるとはと削れていく岸からの地形の変化。あふれ出した水によって川の底に堆積したどす黒い泥を押し流して景観を汚していく。
魔物以外にも平穏に住んでいる者たちを巻き込んで樹木をなぎ倒しながら津波のごとく飲み込んでいけばダンジョンの入り口は俺を起点に発動したこの行動によっていつの間にか減った川の水面まで下がっていた。
あまりの惨状、誰も声を出せない中で
「相沢スゲー……
かめはめ波みてぇ……」
岳の感嘆の声に普段ならンな事ないだろうと笑い飛ばすところを上手く声が出せず、俺はみんなに背中を向けたまま少し震える手を強く握りしめて
「物理的な攻撃は、効きましたね……」
声も震えてしまい誰もすぐには返事をしてくれなかったけど
「だけどあれでもアイツは死んでねーぞ。さすがにすぐには来ないだろうが」
いつもの工藤の声に緊張した空気が払しょくされた。
まじか……なんて声は岳だろうか。信じられないという声を聴きながら俺はしばらくぶりに自分のステータスをチェックする。
ほぼ未開だからか魔物の多さもありしっかりレベルも3つほど上がってレベル73になっていて……
「岳のバカ野郎……」
スキルの水魔法の横にnewの文字。
指先で触れてみれば嫌な予感が的中で
「え?相沢か〇はめ波使えるの?!マジそれ俺も覚えたい!」
「あほか!こんなの叫べるか!悟〇だからかっこいいんだよ!って言うかか〇はめ波は水魔法じゃないし!ダンジョンがポンコツなの知ってるだろ!なんで余計なこと言ったんだよ!!!
おかげでか〇はめ波なんて、小学生の時みんなで遊んで以来この歳でいまさらできるかよっ!!!」
「でも遊んだんだ」
三輪さんにかわいい時代もあったんですねと突っ込まれてしまったけど
「みんな人生一度は通る道じゃないか?! なのに水魔法なんて絶対間違ってる!」
そんな俺の主張。
「つまり、水魔法じゃなければいいってこと?」
沢田の知ってはいるけど大して興味なさげなその冷静な声に俺はとりあえず
「うん。絶対光魔法の方がかっこいいと思うんだ」
開き直ってみた。
「分かるー!やっぱりエフェクト的にも光魔法だよね!」
がっつりと岳が盛り上がる横で俺はこんなの嫌だとしくしく泣きながら階段を下りていくが
「ナー……」
一番下の所で雪様が遅いという様にご立腹だった。
思わずさっきの借金鳥とは違う恐怖に身を震わせてしまうもここはひとつ
「雪しゃんお待たせー!
ちょっと疲れたから休憩するー? それともちゅーるタイムするー?」
なんてごまをすればふんと鼻を鳴らしながら俺が取り出したちゅーるを早くよこせと猫パンチ。
うん。いつもなら爪は出さないけどオコなのですね?
地味に痛いんだけどとりあえずは遅くなってごめんなさい。急いで用意いたしますという様に猫のイラストの描かれたお皿を用意してチュールを絞り出し、その隣にもう一つお皿を出してカリカリもお出しする。
すっかり借金鳥の恐怖は吹き飛んで、あの大災害な水魔法を使った後悔も押し流していた。
「じゃあ、我々も少し休憩しようか」
千賀さんが声を上げる理由はやっぱり借金鳥の情報不足という様に俺達はペットボトルに入った源泉を飲みながら前に山で作ってくれた沢田のおにぎりを頬張るのだった。
ほんとこの収納は時間経過しないの助かるよ。
岳の家のお米のもっちりとした食感と甘みの強いご飯が今は何よりも有り難かった。
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