金が欲しくて何が悪い!
うだつの上がらない覇気のない顔、それがこの家のヤローだったはずだ。
だけど目の前にいる男は何だ……
体を重そうに起こしながらも隙一つなく、それ所か一挙一動次の動作に体が反射的に身構えてしまう無意識の警戒。
一体この男は何なんだとじっとりと背中に汗が流れていく。
だからと言ってここで止まるわけにはいかない。
どこに隠したのかあいつから魔狼の剣を奪って11階以降に潜伏しないといけない。
それなのに、それなのに!!
「そこをどけっ!!!」
駆け寄って二、三発殴って言う事を聞かせればいいだけなのに足が言う事をきかない。
こんな奴が、こんな奴が俺より格上だと言うのかよ!!!
武器も持たずのそりと歩く奴の一歩一歩。
無意識に足を下げてしまう俺の一歩一歩。
埋める事の出来ないこの距離がすべてを物語る。
完全に俺はあのクソニートに脅えているという事を。
だけど心だけは負けてたまるかと言うように睨みつければ、強者は困ったかのように顔を歪ませた。
「俺、あんたに話が聞きたくて待ってたんだけど」
想定外の言葉に俺の方が意味わからんと言うように眉間を狭めれば
「あんたさ、なんでそれだけ腕っぷしも良いのに、世間で言うパラハラとモラハラをセクハラのハラスメント三昧してるわりに仕事はきっちりするし、ダンジョンだって部下の人全員それなりに均等に育ててさ。
なのに人にトラウマ植え付けてるくせに未だに自衛隊なんて組織の中にいるの?」
本当に意味が分からないと言う顔に俺はそんなこと聞くためにここにいたのかと聞きたかったが
「んなもん長いものに巻かれていた方が良いに決まってるだろ。
てめーみたいなヒキニートにはわからんかもしれんが人社会の群れの中で俺みたいなやつが独立したらそっこーで潰されるに決まってるだろ。
群れの中に居れば群れのメンツにかけて守られる、それがこの社会ってやつだ。
多少悪さしても全力で守られる、こんな居心地の良い場所をでる必要あるか?」
「だけどあんたはここの任務が終わったら辞めるつもりなんだろ?」
「まとまった金が手に入ったからな。金の力で何とでもなるからな!
まあ、ガキには判らんだろうがな!」
「あんたがクソだと言う程度は判ってるつもりだよ」
なんて呆れたと言うようにひょいと肩を竦める。
「そんでお前はこんな質問をするためにここで待っていたのか?」
「まさか。
俺の家の中に直結しているダンジョンにあんたみたいな物騒な人が潜んで居たら安心して寝れないじゃん。ただでさえGの奴が地下をウロチョロしてるって言うのにさ。
まあ、今夜何か起きるのが判ってたから雪さんにお願いして沢田の事守ってもらったけど、岳まで手を出すとはさすがに、ね?」
許さん、そんな風に睨みつけられたけどもともとそう言う感情を持ってこなかったのだろう。かわいらしく睨まれても恐怖のかけらもないと言うように鼻で笑い飛ばす。
「盗聴器でも仕掛けてたか?
やけに詳しいな」
なんてどこまで俺達の計画を知っていたのか今後の為にも聞いておけば
「自慢じゃないが目と耳は良いんだ」
そんなわけないだろうと千賀達が居る場所だから警戒していたのに聞かれているわけがないと言うようにこれははったりだと睨みつけるも
「にゃ~ん」
悪魔の声が響き渡った。
「このクソネコ……
ダンジョンの中まで追いかけてきたのかよ……」
「雪さん沢田の事ありがとうね。
あと、監視をしてくれていた皆にもありがとうって伝えてね」
「にゃ~」
そんな会話にも似た問いかけに何なんだよと思っていれば
「知ってた?
動物もダンジョンでレベルを上げれるの。
そんでもって知能も高くなるから会話が成立するんだよ」
その後ダンジョンの外に出ても記憶が残るから問題がないと言う
「なんてクソダンジョンだ!」
「ダンジョンって元々クソじゃん。いや、ポンコツか?」
うーんと悩む野郎に仲間が増えた。
俺の顔に、そして耳を切り落とした憎たらしいクソネコ。
血は止まったものの傷みはまだじんじんして俺をイラつかせる。
だけどひとつわかった事はこいつは賢いかもしれないがそこそこの程度。
他に俺の計画を台無しにした奴がいる。
そんなのはあの場に居なかった奴ただ一人。
「林!どこに隠れている!出てこいっ!!!」
叫べば背後の階段から降りてきた。
こいつはガキや猫と違ってフル装備してきたがそもそもの基本値が低い。その代わりの装備。後で奪えばいいと笑ってしまう。
「ずっとそこに居ましたよ。
気付かずに目の前を通り過ぎていくので寂しかったですね」
なんて言って指を刺したのは階段の天井。
「んなとこに隠れてたのかよ」
「さすがに見つからないわけがないとは思ってたのですがね」
「激昂している時は簡単な罠でも引っかかるもんだよ」
なんて適当な口ぶりでガキが言うから余計に腹が立つ。
「あなたの事は被害者の方から聞いています。
多少荒っぽいあなたですが、仕事を真面目にこなしてきて上手くごまかしてきましたね」
「騙された方が間抜けなんだよ」
お前は騙されなかったんだな、だから計画が失敗したのかとイラつけば
「それであなたの目的は一体何なのです?
女性隊員や男性隊員まで脅えさせ、派遣先々でトラブルを起こし、そのくせ自衛隊にしがみ付く。給料だってほとんど手つかずで残しているのでしょ?やってる事と行動が一致してないのですよ」
「やけに詳しいな……」
「決まってるじゃないですか。
私の患者達があなたの被害者です。
何一つ悪くないのに退役する悔しさを何人見てきたか分かりますか?
千賀は最後まであなたの事を信じたかったようですが、今日のこれで目を覚ましたでしょう」
なんて説教されるけど
「だからなんだ?
金の為に多少の悪さして何が悪い。誰だってやってる事だろ?!」
「金、ですか……」
呆れたような声に
「そうだ!金だ!
医者になれるボンボンには判らんだろ?!
小学時代から新聞配達のバイトをさせられて稼いだ金を巻き上げられて!
自分のガキを殴るしか能のない男がやっと死んでほっとしたと思ったら俺を見捨てた女が母親面してまた一緒に暮そうとかそんな気持ち悪い世界の中で唯一俺にあったのがほんのわずかな金だけだったんだ!
金を求めて何が悪い!
奪われる程度の金なら俺が使ってやって何が悪い!」
「すげー意味不明な理論」
「子供の頃の環境には同情しますが、人のお金を巻き上げて開き直るのは一切理解できませんね」
「はっ!これだからこんな大地主のガキやお医者様には理解できるわけがない!」
だから金持ちは嫌いだと言うように言えば
「いや、広いだけの生産性のない土地は固定資産税とかでマイナスの負動産だし、売っても国産車ぐらいにしかならない上にダンジョンつきの事故物件だぞ?」
「勝手に金持ちにされてますが教育ローンを借りたり学園支援機構から借りまくったりこう見えても借金漬けなんですよ?おかげでマンションを購入しようとしてもローンの審査通りませんでしたよ」
はははと笑う林の死んだような目にこれマジかとその程度は見抜いたが、それでもここで稼いだ分で十分払い終えることは出来るだろう。
やっぱりどいつもこいつも
「人を馬鹿にしやがって!
そんなに金を求めて何が悪いって言うんだよ!!!
怒りが恐怖を超えて足が迷いなくあの何も考えてない奴の元へと向かう。
驚いた顔は困ったように、まるで諭すかのような口調で
「だから方法が悪いって言ってるじゃん」
俺の怒りの沸点を超えた瞬間。
ごっ!
肉を叩きつける音と気持ちよく吹っ飛んでいくその姿。
知らない間に俺は強くなっていたようだ。
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