ダンジョンの判定がほんと意味わかんないんだけど!

 顔面に痛みからの浮遊感。

 殴られたと思った驚きと共に背中から床に叩きつけられて全身で痛みを感じた。

 どういう事だ?

 殴った当の本人も驚きの色を瞳に宿していたが、そこは工藤。

 すぐに状況を理解して走ってきて俺に二発目を与えようとまた腕を振りかざした。

 だけど素直に殴られるわけにはいかないので転がるようにして交わし

「にゃーっっっ!」

 雪が俺と工藤の間に入ってくれた隙に態勢を整えれば林さんもそばに駆けつけてくれた。


「工藤の様子がおかしいぞ!」

「急に動きが良くなった。力も急に上がったし!」


 言いながらペットボトルを取り出して11階の温泉水を飲む。

 途端に全身の傷みがひいたのは良いが、目の前ではマロの部屋を所せましと駆けまわって工藤の拳と雪の爪がぶつかり合っている。

 唖然としながらその様子を目で追うのは雪の圧倒的なスピードに工藤がちゃんとついていっているから。


「どういうことだ、工藤があいつレベル25だと聞いたばかりだぞ?

 まさか偽装したのか?」


 ぶつぶつと言いながら林さんは考えていた横で俺は雪の異常なスピードにも追いつける工藤を見て一つの嫌な事を想像した。

 

 このダンジョンは想像の斜め上をいくポンコツダンジョンだ。

 バルサンで毒魔法が発生したり、ダンジョンの壁に火を押し付けただけで火魔法が発生したりダンジョンの常識から理解できないようなことが起きると一番近い何かのスキルという形で発生するのは経験から理解していた。

 しかも本当にチョロくて自分たちでいろいろしでかしておいて何度涙が出かけた事か。

 いや、今は過去を思い出している場合ではなく


「スキルオープン!」


 俺は工藤を指さして叫べば空中に工藤のスキル一覧が浮き上がった。


「てめー! 何勝手に人のスキルを盗み見てやがる!」


 秒でばれた。

 まあ、ばれるよなと俺に向かってくる工藤を雪が邪魔をするように爪を立てる。


「称号が金の亡者?いや、格闘家だっただろ……」


 ぶつぶつ言ってる林さんだけど最近魔象のマゾを倒しまくったおかげでステータス接続権利のレベルが上がりました!

 最初は人のステータスを見れてちょこちょこ触れる程度だったけど今は文字の所長押しすると詳しく説明分が出るようになったのだ!


毒魔法とか火魔法はホイホイ上がって行ったのにダンジョンからもらったスキルは全然成長しない、むしろそれが全部だと思ってあきらめていたのに、ほんとザル設定だよなダンジョンって思ったけどね。

 だけどおかげで工藤の称号が詳しく見ることが出来た。


「ちょ、所持金によってレベルアップって……

 最大値は対象のレベルまでっておかしくね?」

「君がそう言うとは思わなかったが……」


 林さんも意味わからんと言うのだから俺が判るわけもない。

 だけど工藤はその言葉を聞いて


「はーっはっはっはーっ!!!

 今の俺の所持金は0円だからな!

そうか!手持ちの金がなければお前らなんぞ怖くないって事か!」


 なんて大声で笑っているもののそれだけでは説明しきれない。

 だっていくらレベルを合わせても雪のあのスピードに合わせるなんて、雪と俺の10のレベル差があっても埋める事の出来ないあの速さに勝負できるなんて他に何かが……


「そうか、スキルか……」


 称号で変動する能力値、何がきっかけで発生するか分からないスキル。

 この部屋に来た時はまだ普通の、ただのレベル25の格闘家だったはずだ。

 この部屋に来て工藤がした事と言えば金への執着。

 確かに金の亡者と言うにはふさわしかった。

 林さんも俺と同じ考えにたどり着いたようで


「ダンジョンが工藤の金への欲望を認めたって事かよ……」


 信じられんと言うのは俺も同じ意見だが俺は工藤のステータス画面に指を伸ばして次のページへと移動する。

 ありがたい事に直接画面に触れなくても遠くからでも指を合わせれば接続できるようになったこの能力が見せてくれたのは


「スキル、金の力……」


 またも俺と林さんは一体何なんだよと頭を抱えたくなるもののその前に雪が時間を稼いでくれている間にスキル:金の力を見せてもらう。

 1秒ほどの長押しで見ることが出来た説明分には


「お金と引き換えにステータスUP。

 ただし称号:金の亡者のみ発動」


「ステータスってお金で買えるんですねー」


 林さんが呆然とつぶやくもその下には8桁の数字が並んでいてものすごい勢いで減っていく。

 止まらずくるくると減る数字の意味が分からないけど、ちょうど雪がトップスピードで距離をとろうとした所で同じスピードで追いかける工藤が見えた。

 それと同時にさっきよりも一気に七桁の数字が減ったのを見て理解が……


「相沢君、工藤の称号を変えよう!

 いくら何でもあれでは小さな雪の方が体力的に無理が来る!」


 焦る林さんに肩をゆすぶられていつまでもステータスを見てる場合じゃないと言うが


「いえ、このままいきましょう。

 危険なかけですが、10分ほど頑張ります!」


 言って俺は魔法で行く事に決めたもののその前に林さんにペットボトルとちゅーるやかりかりを預けて

「雪を休憩させます。

 何とか頑張るので林さんは巻き込まれないように気を付けてください」

 そう言ってしっかりとマロマントとマゾマントをリバーシブルに縫い合わせた効率だけしか考えられていないマントをかぶせればすごく嫌な顔をされた。

 俺がこれからやる事を想像してか、それともこのセンスのかけらのないマントを嫌ってかなんて考える理由なんてない。

 

「雪!交代だ!」


 言えばそうはさせないと工藤が邪魔をしに来たがそれより先に俺が工藤の視界から雪を隠すように


「くらえ!濁流!」


 あの日やってしまった考えなしの魔法はしっかり俺の中で呪いのように住み着いてしまったが物は使いよう。工藤の視界から雪が消えたとたんがくんと下がった速さの能力値に笑ってしまうのをこらえながら濁流に流されつつも耐えきった工藤の健脚ぶりとまたまたがくんと下がった数字に堪えるのが出来なくなり……


「よし工藤!しばらく遊んでやるよ!」


 多分、きっとあの数字は……


 工藤の全財産だ。


 工藤の大切なお金、どこまで削ってやろうか考えただけで笑いが止まらんと言うように


「おら!水でぬれたら今度は炎で乾かしてやるよ!」


 言いながら室内を炎で埋め尽くせば魔力抵抗値があっても熱いようで悲鳴をあげながらも耐えきったその姿とまたがくんと減った数字。

 どうやら林さんは理解したようで


「相沢はほんと人でなしだな」


 そんな評価に何とでも言えと返すのだった。




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