ゼロで終わりだと思ったら大間違いだ!
濁流で泥水まみれになり、その後火で焼かれた酷い姿の工藤を見て俺は挑発するように笑う。
「なかなかいい格好だな!」
なんて鼻で笑えばものすごい顔で睨まれてしまう。
だけどそんなの関係ない。
なにせこれから沢山お金を使ってもらわないといけないからな!
それを考えるとどれだけ怖い顔をさてもかわいくてかわいくて仕方がなくって笑みさえ浮かべてしまう。さらに挑発するように工藤が求めていた魔狼の宝箱から出る剣を取り出せば一瞬で目がギラついて奪いに来たけど……
そこは歩きにくいくらい泥水でぬかるんだ床。滑る足元では本来の速さで走れるわけがなく、それに合わせて俺は床一面に泥水を追加した。
俺は苦手だけど魔象の宝箱から出たブーツを履いて足元は全然問題ない状態。意外と優れものだったなとさりげなく雪にも後ろ脚だけ履かせている。前足は雪の武器が装備されているからね……
不思議と履いている感覚がないなんとも言えぬフィット感。
このブーツなら履いても良いかなと思ってしまうくらい優れものだった。
雪には何回か履かせてみたものの全身で嫌がられたので後ろ脚だけでも履かせれば泥道では滑らない事を理解してくれて雪はブーツをはかないといけないこの状況に渋々と履いてくれた。
長靴をはいたネコ、かっこいいよ。
そんな状況なのでブーツを履いていない工藤は期待を裏切らない。
「いってぇっっ!!」
漫画のようにすっころんでひっくり返ったのGように悶えていた。
勝手に転んでおいて俺へと睨み付き
「この野郎…… ぶっ殺す!」
すべてが俺への怒りに変わる。
もうこのころから回りなんて見えてないのだろう。
その証拠に俺が工藤のステータス画面を出しっぱなしにしている事も、剣に炎を纏われたもので切り付けながら炎を浴びせているのに火傷一つ負ってないのも気にしていないし疑問にも思っていない。
そして俺は時々ちらりとステータス画面を見てニヤリと笑う。
八桁の、むしろ九桁に近い数字は既に七桁まで落ちている。
あと数回仕掛ければこのフィーバー状態は終了するのだろう。
折角なのでドライヤーから発生した
「熱風!」
眼球を乾きつくさんとする風ですら目を開けたまま突っ込んでくる工藤に
「雷撃!」
12階の小さな池に電気カミソリを落とした時に覚えた技。
物は試しにと故意に落としたわけじゃないよ?
単に俺が釣りをしても釣れないからなんとなくやってみただけだよ?
数十個落としたことは事実だけど乾電池が水に溶けだすのはよろしくないのでその度に水の池を抜いて回収する俺はそれでも故意ではないと主張しますよ?
さすがに雷撃は痺れた様で髪の毛が面白いようにパンクになってるけど鏡なんてないこの状況では工藤が気にするわけもなく、そして俺のレベルまで合わせてきた工藤は足を止めても膝を折る事無く耐えきってみせた。
「おおー……」
これにはさすがに拍手。
だけどそこで止める俺ではない。
「砂嵐!」
濁流の水を炎で蒸発させて、さらに熱風で乾燥させれば当然土はサラサラになり、工藤の回りにだけ風を巻き起こすように操れば
「くそっ!目が!目がっ!!!」
立ち止まって目を覆ってでも守りに入っていた。
だけどそこで疑問。
「そういや工藤、片目血まみれで半分開かない状態だけど何があったの」
素朴な疑問。
そこは医者でもある林さんが
「どう見ても猫のひっかき傷だろ。
耳もサクラカットされているところ見ると軍曹の仕業だな」
「なー」
なんて鳴きながら林さんにもっとちゅーるをくれと甘えている雪さん。
俺にはそんな風に甘えてくれた事なんてないのに……
ちょっとジェラシー……
そんな寂しさは当然工藤に向かう。
もちろん攻撃特化しているとでも言わんばかりの工藤はどれだけ攻撃しても俺にかかってきて来るので
「秘儀・河童の川流れ~」
全く秘儀でもないけどと遊んでやると言ったようにストックしてある水であと数センチで俺に中りそうになる拳を工藤事壁に叩きつけるように水を放つ。
「がっ!」
さすがに軽く脳震盪したように足元はふらふらしている。
普通ならそこで気絶してくれてもいいのにしっかりと立っている様子にステータス画面を見ればまだまだ残額が残っていた。
ただしやっぱり命に係わる出来事だったらしくごっそりと減っていて……
「雪、交代頼めるか?」
「にゃ~ん!」
さすが我らの特攻隊長。
水と栄養補給、そしてわずかな休息があればいつでも戦場に戻るその覚悟……
声をかけたとたん林さんの腕を飛び出したとたん最高スピードで工藤に駆け寄り脇腹に向って突きを繰り返していた。
もともと軽い雪なのでスピードに乗った程度しかダメージは与えられないけど、攻撃が終わればさっと距離を開けた後の工藤はわき腹を抱えて蹲る……
「さすが雪軍曹!第11助骨、第12助骨をやったか!」
林さんの嬉しそうな呪文になにそれと林さんの隣まで下がった事を後悔しながらも視線を向ければ
「あばら骨の事だよ。一番下の二つ第11助骨、第12助骨だね。
胸椎の椎体とのみ連結しているからな。別名浮肋なんて呼ばれるように浮遊したようになっているから骨が折れやすいんだよ。
今軍曹にそれを教えたばかりでね、的確に工藤の骨を折らずとも罅を入れてくれたようだ」
「それ、ヤバいの?」
「折れて肺に突き刺さればアウトだけど罅を入れた程度なら笑うと辛い程度だな」
「なにそれ、効果あるの?」
「重いものも持つのもイラつくし、何よりいちいち気になるから集中なんて出来ないだろ?」
渾身の笑みを浮かべた林さんにこの人を怒らせないようにしようと思いながらのカウントダウン。
別に工藤に大ダメージを与えなくても数値は勝手に下がっていく。
寧ろ工藤の行動すべて、というより相手のレベルに合わせている間ずっとカウントダウンされていくようだ。
下手したら世間話でだべっているだけでもカウントダウンされていくのではという恐ろしいスキルに震えてしまうも、暫く雪がかわいがっていただけで……
「これで残額ゼロになる。
さあ、どんな絶望するかな?
まるで悪魔のような口ぶりの林さんに俺は身を震わせるも、不思議と雪との戦いは同じテンションで続けていた。
どういうことかと思えばカウントダウンしていた数字にはマイナスという「-」という記号が付いていて……
「ちょ、林さん!ゼロで終了しないってどういう事だよ!」
「俺が知るか!
寧ろ折角だから工藤も借金まみれにさせてやれ!」
マジな顔して吠えた林さんにさっき工藤に借金の事を鼻で笑われた事に対する腹いせだと思えば止めようとした手を下げるしかない。
林さん、本当に怒らせたらダメな人……
心の中で記憶するように何度も繰り返す相沢だった。
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