普段人が居ないので人が多いとちょっと不便を感じています

 お家に帰るまでが遠足です。

 なんて言わんばかりにおとなしく俺についてきた千賀さんと林さんは見慣れていない部屋だけどなじみのある畳を見て少し横になりたいと言って眠ってしまった。

 未知の世界にショックだったのだろう疲れ果てた心と体には寝るのが一番。ただ畳の上で寝ると起きた時体が痛いのにと心配しつつそばに枕と肌がけをかけて置いた。

 土木課の皆さんはプレハブの小屋を作ってそこで寝泊まりしているけど、橘さんを含めた四人の部屋はまだなく、無駄にデカい我が家の客間で当面寝泊まりする事になっている。

 もちろんダンジョンの入り口の警備も兼ねて。

 よくある古い農家の家にある田の字型の一部屋に四人で寝泊まりをしている。

 四人は狭くないかと聞いたものの常に一人はダンジョンの入り口で見張りをするから三人なら問題ないと言う。

 普通に自衛隊で鍛えた人が三人並ぶと何も荷物を置いてない部屋でも圧迫感あるのだが、という俺の意見は皆さんなれているようなので問題ないと言ってくれる。

 ここに来て誰も来てくれない家にお客さんが来るようになったから仏間の方を広げて

「よかったら使って下さい」

 なんて、田舎あるあるやたらと大きな仏壇と鴨居の上に掲げられ沢山並べられたご先祖様一族の白黒写真の中、直近のじいさんとばあさんがカラーな彩りが少しなんとも言えないおどろおどろしさを和らげてくれる。

 そんな部屋なので皆さま少し固まってしまう。だけどそこは大人。この家一番のあまり光の射しこまない部屋ににっこり笑って

「では、荷物を置く部屋として利用させていただきます」

 なんてやんわりと辞退されてしまった。

 とりあえず布団三組と荷物の山と言う部屋いっぱいにものが置かれなくなっただけで少し圧迫感はなくなったが……


 今度は家の中に俺の居場所がなくなってしまった。


 今は橘さんが囲炉裏の部屋で待機しながらダンジョンの様子を監視している。

 だけどそのすきをくぐって一眠りした雪がするりとまたダンジョンに潜っていくのを俺はちらりと見たけど、ダンジョンに入ってすぐにひょこっと顔を出して一瞬だけ目があってまた潜って行ってしまった。ダンジョンの中では雪は知能も上がっているようなので目を細めて俺にお出かけの挨拶をしていた。まるで


「やっと静かに狩りが出来る」


 そう言わんばかりにご機嫌にしっぽが揺れていたのを見送ればもうダンジョン内の平和は約束された。


「じゃあ、俺は岳の方手伝ってきます」

「留守は任されました」


 土木課の皆さんと一緒にダンジョンに潜ってあっという間に上司のレベルを超えてしまった橘さんは今は優雅に緑茶を啜りながら業務報告をしている。

 ダンジョンでの有益な情報、そして討伐の時に得たダンジョン産の肉、ではなく素材をそろそろ引き取りに来てほしい旨を連絡しないと朝言っていたのでその依頼もしているのだろう。

 となるとダンジョンがあるかぎり自衛隊の人達がいて人の出入りが頻繁になるのかと、それでもすぐにいっぱいになってしまう納屋に置かれた昔田んぼをしていた時に使っていた業務用冷蔵庫と狩猟解禁時の保管用にと購入した業務用冷凍庫がここに来て大活躍するとはばあさんに怒られてまで買ったじいさんも喜んでいるだろうと立派に活用させてもらう。

 クズの角とかは一度凍らせてから冷蔵庫に移動して保存している。冷蔵庫のほうが大きいからね。

 他にも出汁用に沢田がキープしている骨や肉も冷凍庫に置いてあったりするし、自衛隊の人達の食料にも冷蔵庫を使ってもらっている。

 一応食料は自衛隊の人達の分はお金が出ているので購入しているらしいが、その辺の無人野菜売り場があまりにも安くて歓喜していた。

 

 浮いたお金でお肉が買える! と……


 自衛隊の人達、ダンジョンで狩った魔物はすべて国の物なので自分達では食べれないとか……

 モチベーションが保てないだろうとあの肉たちの美味さを知ってしまった俺は沢田にお願いして一品だけで良いからダンジョン産の肉料理を提供するようにしてもらっている。

 もちろん沢田も料理は好きだし、皆さんの味の好みの研究も兼ねて喜んでいろいろ作ってくれる。勿論自衛隊の人も食事当番の人が手伝ってくれるので解体とかも楽しんでもらっているらしい……本当か?

 前にダンジョン見つけた時にオープンかクローズかなんて事を決めるようにと小田の爺さんに言われたが、自衛隊の人達と共同で管理という形にしてもらった。

 結構融通が利くじゃんなんて思うもたんに俺達が強くってダンジョンに一番詳しいと思われているからの措置。

 まあ、魔法使えるようになったりマロを瞬殺したりなんてやってるの俺達ぐらいだし。

 おかげで橘さんも最近では普通にマロを倒すようになってしまいました。


「岳ー、なんか手伝おうか?」


 改装中の納屋を見れば

「見えないようにちょっと柱を支えていて。

 柱の根元崩れそうだからカットして補強するから」

 普通ならジャッキアップして入れ替える所を俺に持てという事らしい。

「了解。もってればいいんだね」

「普通持てないんだから。それよりも気を付けてね」

 なんて沢田も見張りをしながら気遣ってくれる。

 その間にも岳はすでにサイズを測った木材と入れ替え、大工みたいな凹凸のある切り方なんて出来る分けがないので切り目の所に鉄板を添えてボルトで締め上げていく。

「まあ、これで耐震問題は大丈夫だろ」

 多分問題は継続しているかもしれないが、それでも腐って虫食い状態のままではない分少しは安心だと思う。

「じゃあ次、壁に漆喰を塗りたいから漆喰を混ぜて!」

 よろしくと言う笑顔に

「今度はミキサー変わり!」

「ふふふ、今の俺ならコーヒーに砂糖を混ぜる程度に楽勝とかw」

 どんどん人間離れしていく肉体強化に笑ってしまいそうになりつつもその恩恵にしっかりあずかっているので利用しないわけにはいかないと思いつつも


「あ!相沢!猪親子来たよ!」

「クッソ!今日こそ勝つ!」


 なんて一睨みしただけで殺気を察してささっと逃げていく猪親子を見送り


「強いのも問題よね?」

「自衛隊の人が居なかったら捕まえて牡丹鍋にするのに……」

「止めてよ。夏の猪は美味しくないんだから冬の脂肪をたっぷり貯えた状態になるまで我慢して」

 俺と岳の畑よりそっちの方が重要なのかと少しだけ寂しく思う相沢だった。


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