ここはダンジョンだ

 やばいっ!!!


 黒い球体を相殺できるぐらい発生させても爆発の威力は全部消せないから慌てて防御壁を張る。

 聖域を何重に重ね掛けをして、ダメ押しに俺が持つ魔法の中で一番育った毒魔法で俺達に向けられた力を全力で押し返す。

 この無茶苦茶なごり押し加減、なんか初めてマロと対戦した時もこんな感じで必死だったな、なんて懐かしい過去を思い出す。

 ……ちょっとまて。

 これって走馬灯って奴じゃないよな?

 一瞬狼狽えるけど12枚様の気配は今も感じる。

 油断できない!

 舞い上がった粉塵と共に爆風が落ち着けば室内の壁、床、天井といたるところに穴ぼこが開いていた。

 もちろん壁の向こうは真っ黒な虚無。

 虚無って真っ黒?闇?

 いや、真っ黒だけどなんかうねっていているように見えて気持ち悪いって言うか本能的な恐怖が襲い掛かってくる。

 さらにこの不足な事態に背後を見なくてもみんなの不安を感じることが出来た。

 何をやってもこんなにも崩壊することのなかったダンジョンのボロボロ具合にビビる俺もその一人だから。

 工藤は爆風をまともに受けたようで部屋の隅に転がっていたけど飲み終わったアクエリのパウチに源泉水を詰めて制服のいたるところに忍ばせていたようで微力ながらもクッションになりつつ今はこっそりとそれを飲んでいた。

 もちろん超軽量級の雪も保護してくれていて、雪にも源泉水を飲ませていた。 

 超仲良しでジェラシーなんですけど……

 さりげなくちゅーるまで取り出して雪に食べさせる工藤。

 やけになれているその手つき……


「お、おま、実は猫好きだろっ!!!」

「先輩のお世話程度だっ!!!」


 何それ?!

 思わずトリセツ代わりに林さんを見れば

「雪先輩のお世話は一番下っ端の仕事に決まってるだろ」

「ちょ、何それ?!」

 雪先輩なんて何そのパワーワード?!

 雪軍曹よりぐっとくるなんてどんな破壊力?!

 先輩何て響きにきゅんとしたのは当然秘密。皆さんの白い目にバレバレだけど。

 だけどよく見れば工藤の汚れ具合に比べて雪の真っ白なその体にところどころ赤い色が浮いていた。

「……」

 よくよく見れば雪には水をかけられたという様に濡れていて、工藤は12枚様の横顔を睨みつけていた。

「なにがあった……」

「先輩が俺を助けてくれただけだ」

 殺意のこもった視線で12枚様を見る。

「あの爆風の中で俺に仕掛けてきたあいつから距離を取るために先輩が俺を咥えて逃げてくれたまでは良かったけどその時にあいつの羽が襲ってきて……」

 よく見れば周囲に白い羽がちらばっていた。壁や天井にも刺さっていて、あの羽一枚一枚がナイフだと思えばその数によけきれなかったのも納得した。

「あの布で作った服だから俺に被害はなかったけど……」

 今の雪の装備はあの布で作ったリボンの首輪とマゾシューズ。軽装備が仇になってしまった……

「やっぱり雪しゃんにもお洋服が必要でしゅね……」

 雪しゃんに似合う服が脳内一杯に妄想してしまう。

 季節ごとのイベント衣装はもちろん真っ白のキャンバスを持つ雪しゃんならどんな色彩の服でも似合ってしまう。

「な、なんて罪作りな……」

 止まらない妄想についに鼻血が出てしまった……

「相沢ー、戻ってこーい」

 遠くで岳が俺を呼んでいる気がしたけどそんなのは無視して何事もなかったかのように鼻血を拭いて

「よし決めた。

 帰ったら結城さんにお願いして開発部の久野さんにおねだりしよう。

 雪しゃんの衣装日替わりで着れるように用意してもらおう!」

「開発部は相沢の御用達店じゃないぞー」

 千賀さんに突っ込まれてしまった。

 どうでもいいけど。

 そう、どうでもいい。

 雪の怪我を見て妄想を経てからやっとこの状況を上手く飲み込むことが出来た。

 少なからず俺は12枚様にビビっていたらしい。

 今まで対等に戦ってきた経験のない俺、格上と相まみえるなんて経験のない俺。

 まともになんて戦ってきた事がないからこそ、まともに戦おうとして自分からリズムを狂わした結果、雪が怪我をする事態になった。

 ちらりと背後を見れば誰もが不安な顔を隠している。

 ここまで鍛え上げた精神力が誤魔化すぐらいの経験をつんできたのだろう。

 だけどそんなみんなを俺がここに連れてきた。

 記念受験ではないけど経験値を積む程度の軽いつもりで連れてきてしまった。


 過去何度もダンジョンに嵌められたというのに今回はないだろうとどこか高を括っていたつけだ。


 深呼吸を一つ。

 大きく息を吸って、吐いて。

 決意は語らずに静かに気合を入れる。

 俺のやり方で行かせてもらおう。

 みんなを守る、なんて器用なことはできるかどうかわからないけど負けないために全力で策をめぐらせる。行き当たりばったりの策だけど。

 今までこれで何とかやって来た。

 かっこいい所は何もなかったけど、それが俺だ。

 そしてそう意味じゃダンジョンは裏切らなかった。


 これは一つの賭けだ。


 だからこそこの状況をより俺のフィールドにしなくてはいけない。


「みんな、協力してくれ!」


 12枚様含めて声を出しての作戦に視線の注目を集めた。


「そんな大声で言ったら仕掛けるのがばれるでしょう!」

 

 林さんに怒られたとおり12枚様も雪より俺を警戒してしまっている。

 だけど12枚様。

 ここはダンジョンだ。

 あんたの知らない理不尽がまかり通るこの世界。

 篤と味わえばいい!




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