金の鳥に願いを込めて
11階より12階。12階より13階……
より複雑になっていく地形にこれは見つけ出せるのかと考えながら拠点にいる沢田に連絡を取る。
「沢田、今良いか?」
なんてまるですぐ隣にいるように語りかければ
『相沢?いいけどひょっとしてもう見つけたの?』
ありがたいことにすぐに返答をしてくれた。
「今12階の入り口を見つけたんだけど、うちのダンジョンと同じように11階のダンジョンからほぼ真っ直ぐの所にあった。
だけど階段を下りた複数の足跡も見つけた」
『うわー、最悪。12階に行ってみた?』
「まだこれから。
今雪に靴履かせている所。うちと同じようならたぶん12階は水郷の世界だから……」
なんて言いながら靴を履いたそばから階段を駆け下りていった雪を追いかけてなるべく学生さんたちの足跡を消さないように進めば……
「冗談だろ……」
思わずつぶやいてしまった言葉に沢田がまるで隣にいるかのように『なにが?』なんて返してくれたおかげで俺はすぐに声に出してこの状況を言えた。
「うちのダンジョンみたいな綺麗な川じゃなくって泥だらけの沼だ。
田んぼの水を抜いた時じゃなく貯水池の水を抜いたばかりのヘドロの溜まったようなドロドロで、足跡なんて消えていて……」
反射的に毒霧を撒きまくっていた俺だけど異常なまでの虫の気配に
「雪!一度戻るぞ!」
「なーっ!」
虫の羽音と腐った水の匂いに辟易したと言わんばかりの雪とまっすぐに11階へと戻る途中の階段の中で気付く。
「虫はついてくるなっ!!!」
力の限り火魔法を放ち、俺達についてきて11階に上がってこようとした虫の気配に俺と雪も炎を浴びることで一匹残らず焼き切って……
しばらくして林さんと水井班の雪担当、じゃなくって藤原さんだったか、あと何人かの知らない人を連れてやってきてくれた。
「相沢!雪どうした!」
12階の出口の所で座りこけている俺を見て珍しく林さんも慌てた様子をみた気がしたけど俺はうんざりだという様にため息を吐く。
「この先かなり虫がいます。
しかもあいつら降りた人間についてきて11階に上がってこようとします。
強くはないので俺と雪も一度焼きましたが、とにかく数の気配がやばいです」
まるで蚊柱の中に飛び込んだようだと言えば林さんは難しい顔をして階段に残る複数の足跡を眺めながら
「降りて行った学生たちを助けられるだろうか?」
そんな自分への自問に俺が言えるのは
「とりあえず装備を整えましょう。
さすがにシャツとジーパンで突っ込むのはだめだと思いました」
言えば俺を知らない人たちは当然という様に頷いてくれた。
「それにしても相沢のそんな姿は珍しいな」
大体魔法のごり押しで押し切って来たけどフィールドダンジョンという広大な世界の中で俺が放つ魔法なんてほんの一部ではしゃいでいる程度の出来事。あらためて実感する。
「耳元で鳴る蚊の羽音、一匹だけでもうっとうしいのにそれが一斉に襲い掛かってくるの、体験してきてください」
「防護服が必要だな」
しれっと自分の身の安全を確保する林さん。工藤の件以来少し仲良くなれたと思うももうちょっと優しくしてほしいと思うのはなぜか。容赦ない人だというのを知っているからか?今度はどんなえぐい作戦を持ってくるのか少し構えてしまうも
「沢田君少しいいかな? 申し訳ないが今から言う事を結城一佐に伝えてほしい。
要救助者はすでに12階に侵入したもよう。未知の病原菌の感染の可能性在り。感染防護服の用意と着用の手配をと伝えてほしい」
『え?ちょっと待って?
ええと、未知の病原菌の可能性があって、感染防護服を準備して着て待っていればいいってこと?』
ものすごい要約だなと俺もその会話を一緒に聞いていたので沢田の柔軟性に驚いたけどさらに驚いたのは
『だって結城さん。
なんか学生さんたち12階に突入しちゃったみたいだよ』
あまりに俺たちと話すように結城さんとおしゃべりする沢田の口調。俺たちと別れから何があったのか不安になる。
何せクズでダメな男を引き寄せる謎の能力を持っているのだ。頼むから結城さんはなしでいてくれ、なんて願いつつもふと気づく。
俺も岳もクズでダメな男のうちか……?
ダンジョンがなければ不労所得だけで生きるヒキニートと家事手伝いのコンビ。なんてことない評価だと思ってたけど沢田の元カレや工藤たちと同列の部類になることに気付けば思わずうなだれてしまうのは仕方がない。
「な、相沢…… いきなりどうした?」
なんて林さんもびっくりな俺の変化に
「いえ、ちょっと。改めて自分の評価が最悪なことに気付きましたので」
「なにを言っているかわからんが、まだまだこれからの年齢だ。いくらでも何とでもなるから……」
何を慰めればいいんだという顔の林さんだけどそこは千賀さんをコントロールするお方。
「とりあえず防護服を取りに帰ろう」
そうやって強引に話をそらせて促すもその前に俺は
「じゃあ、せめてその前にちょっと仕掛けてきます」
言いながら俺は収納から一つの丸い缶を取り出した。
何を取り出したという様に好奇心いっぱいの皆様は俺の手の中に納まった鳥のイラストが描かれた……
「蚊取り線香か?」
それは何なんだというような視線をたくさん受ける中で俺はニコイチになってる蚊取り線香を幾つも分離させてチャッカマンから育てた火魔法で蚊取り線香に火をつけた。
「効き目あるかわからないけどあいつらにはこれでしょ。
バルサンよりも弱いけど効果の時間は長いしね」
「いや、そういう問題か?」
「蚊取り線香の匂いってなんかお外で遊んでる気分になりません?11階以降では結構俺達使ってるよ?」
「言われたら思い出した。そういえば使ってたな……」
俺があまりに普通に使ってたから林さんは気にとどめなかったようだ。
だけどあの音を聞けば焚かずにはいられない蚊取り線香に中央の部分に針金を通して煙たいほどの煙を浴びてにんまりと笑う。
「ちょっと行って仕掛けてきます。
効果あったら笑えますね!」
俺の睡眠と精神を逆なでするモスキート音の撲滅を願いながら階段を降り、マゾシューズのおかげでぬかるみに足を取られることなく近場にあった木にぶら下げてから一応また自分で出した火の魔法を浴びて万が一蚊が付いてこないか十分注意して戻れば
「とりあえずマログッズの装備は必須と連絡しておこう」
なぜか林さんの言葉に皆様全力で頷いていた。
「そうっすね。一瞬とはいえシャツがボロボロ……テンション下がるわ……」
普段服が破けたりすることがないだけに自分でした事とはいえ直ぐに着替えて
「じゃあ、一度拠点に戻って装備を見直そう。
雪、ちゅーる食べ終わったならいちど沢田の所に戻るぞ」
「にゃ~」
なんて満足したという顔に膝を着いてちゅーるを食べさせていた藤原さんにそれ、俺の特権なのにと微妙な気分を覚えながらも感謝はしておいた。
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