構造はどこも似ているようです?

 とりあえずみんなで結城さんに長時間のおしゃべりをさせる方法を考えることでこの話題を終わらせたところで

「一番の問題は学生たちが無事かどうかってところですね」

 沢田が心配げに言えば

「蚊とかの何かで病気に感染してなければいいのですが……」

 林さんが一番危惧するところ。

 手持ちの薬が効くか、発症状況はどうなっているか。

 受け入れ態勢は一応想定して作ってあるし、そのためのプレハブも建てたという。

 未知の病原菌に対しての対策と管理はできるだろうか、そんな不安を医師の顔で呟くのは何度も聞いてきたが

「まあ、無理でしょ。

 うちと同じように毒霧は撒いてあるけど、虫ってやつは何処からでも湧くからな。とりあえず蚊取り線香焚いてあるから蹴とばさないように注意してね」

「……」

 林さんの不安を一蹴するかのような俺の対策は結果絶望しか残らなかったのは気にしない。

 だけどここをまた火の海にしてくれとはさすがにあの時ボロボロになった俺を知る林さんが言うとは思えず、だけど結城さんだったら有効ならやれと言うのだろう。

 うん。俺、どれだけ結城さんのこと鬼畜キャラだと思っているのだろうかと初対面の印象大切だよねと反面教師とすることにした。

「とりあえず対策で発見したらあの源泉から汲んだ水を飲ませてみよう。

 そのあと相沢が戻り次第ステータスチェックを入れれば状態もわかるだろう」

「それまでは個別で無菌室で待機してもらうしかないな」

林さんと千賀さんがそんなことを話しているけど

「いっそのこと相沢のダンジョンの源泉に放り込むのも有効かも」

 なんて岳が笑いながら笑えないことを言う。

 なんてったってケロイド状の林さんの火傷痕とか千賀さんの切れた腕の縫合した痕はもうほとんど残ってない。さらに言えば俺の虫歯もなくなった。

 これってホントにありかなんて思ったけどそれを踏まえればよくわけのわからん病気にも対応できるだろう。

 だけどそうなるとまた知らん人が家の中をずかずか通り過ぎていき、そしてダンジョンの入り口に嫌悪と爆笑を繰り広げ、同情する視線を集めるのだろう。

「ログハウスのバスタブになんちゃってポーション入れておくのでその中につけるというのはどうです?」

 そんな提案に

「ありだな。だが、そうなるといちいち風呂を借りるのもなんだから自衛隊の方でトロ箱でも用意してもらいましょう」

「トロ箱か。さすがに準備してないな」

「となるとまた外に出ないといけないか。

 早く念話を覚えてもらいたいものだな」

 しみじみと言う千賀さんの意見には大賛成。

「では後程ダンジョン対策課の本部が来たら用意してもらう様に連絡を入れますね」

 それなりに階級が高いのか林さんが当然という様にぱしらせればいいという。一見いい指示出しているようだけど、どう見ても林さんの実験の準備が整っていくようにしか見えないのは考えないようにする。

 この人医師としての腕はどうなのだろうか。ちょっと実験に偏り気味だと思うけどそういう人にはかかわってはいけませんという世の中の常識(?)を信じて口を挟まないようにする。

 そしてこの場から逃げるように

「じゃあ沢田。食料はクーラーボックスに入れてあるから。あとなんちゃってポーションもボトル詰めしてあるの使ちゃって。戻ってきたとき補充するから。

 岳も探索に行くのなら気を付けて行けよ?」

「おう、12階の入り口とか場所分かったらまた案内してな」

「相沢も気を付けてよ。雪お願いね?」

「にゃ!」

 なんて任せておけと言わんばかりの良い返事。

 俺ってそんなにも頼りないかなと思ったところで足音が近づいてきた。

 俺がダンジョンの入り口に視線を向けたところでみんなも視線を向ければ


「ここが11階か。相沢の家のダンジョンと変わらない景色だな」


 水井班の皆様と一緒に結城さんもやってきた。

「待たせたみたいだな……」

 なぜか俺たちの拠点のログハウスを見上げながら言うおっさん。ちゃんと顔を合わせて話をしようぜと突っ込みたかったけど沢田のガーデンキッチンセットへと視線を移してから俺達をやっと見る。

「楽しそうだな?」

 しばらく無言の後やっと口から出た言葉。

 俺たちに合わせて言葉を選んでくれたのだろう。

 有能な男は柔軟に相手に合わせることもできるようで多少の皮肉さは感じるものの

「でしょ?

 相沢が結城さんに沢田の安全をお願いするために一生懸命設置してくれたんだ。テラスの所で仕事ができるように机と椅子を用意しておいたから好きに使ってください。あ、家の中が良かったらどうぞ」

 なんて岳のおもてなし。

 裏がない分さすがの結城さんも困ったような顔をするあたりまだ岳の取り扱い方がわかってないのだろう。

 絶対自衛隊にいないタイプだしね。

 少しだけ逡巡する視線。ひょっとして岳みたいなタイプが苦手だったら笑えると思うも

「ではダンジョン対策課がそろってから中をお借りしよう。

 それまではテラスの方を借りるよ」

 なんか子供か孫を相手にするような表情と柔らかな声で返してきた。

 ムカつくほどできるおっさんだ!

 その優しさのかけらを俺にも少し向けてくれ!なんて思いながら

「じゃあ、水井さんたちと結城さんも来たところで俺と雪は出発します」

 言えばさっきまでテラスの手すりの上で寝ていた雪が俺の隣にやってきたところで

「行ってきます」

「気を付けろよ!」

「なんか面白いもの見つけたらお土産よろしく!」

 岳の気づかいと沢田のまだ見ぬお肉への期待に苦笑しながら俺は11階のダンジョンの出入り口を背にまっすぐ走りだした。

 

 俺の想像だけどうちのダンジョンでは15階まではダンジョンの出入り口はほぼ直線上にある。

14階までの魔物は基本知能指数が低い。そんな魔物が地上を目指すにはほぼ一直線に目的地を目指す、そんなルート。

「雪、迷子の捜索は帰り道でまっすぐ15階へ向かうぞ」

「にゃー!」

 言えば俺の前を走って魔物を倒していく雪だが、俺は代わりに


「毒霧! そして毒霧! さらに毒霧っっっ!!!」


 フィールドダンジョンでこれがどれだけ役に立つかなんてわからないけど、とりあえずレベルアップした所を見るとかなりの魔物が生まれて溜まっていた事を嫌でも理解してしまう。そして俺の毒霧がかなりの広範囲の魔法に育っていたことも理解してしまう。もちろんハンド扇風機で発生させた風魔法を育ててよく芸人が巨大扇風機で飛ばされる、それ以上に育てた魔法で毒霧を拡散させたのも原因だと思うけど。

 あまりにもダンジョンってちょろくてほかの世界を侵略したいのかダンジョンを攻略してほしいのかちょっとわからなくなったところで……


「にゃー!」

「うん。想像通り12階の入り口みっけ!」


 なんて下に降りる階段を見れば積もり積もった土埃には複数の足跡。

 肉球ではない複数の靴の跡に俺は軽く絶望を覚えた。




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