おしゃべりな結城一佐を想像してみよう

 2時間もせずに11階で軽く整地をしてログハウスを設置。

 自衛隊の人たちも拠点を作ったようでうちの敷地内にもあるようなプレハブハウスが何棟も設置されていた。

 まあ、邪魔にならないだろうと近からず遠からずの場所にここに残る沢田の為に持ってきた庭に設置したものではないけど似たようなものを岳に頼んで作ってもらったガーデンキッチンとレンガ竈も設置する。

 サイクルポート、いわゆる自転車置き場を購入したので岳に作ってもらい、その屋根の下に設置して完了だ。何気に岳に頼りすぎているけどそこは素直に感謝だ。

 雨よけではないがうちのダンジョン同様このサバンナ地帯だと日よけという意味合いが大きく、ログハウスのテラス部分にもターフを張って日陰の場所をしっかりと作っておく。これだけ場所を準備しておけば沢田も暇をせずに料理を作りながら待っていられるだろうし、お目付け役の結城さんの日陰対策もばっちりだろう。

 岳たちを迎え入れる態勢が整ったところで


「到着~!」

「おまたせーって、私のキッチン!

 用意してくれていてありがとう!」


 さっそくという様にコップを取り出して水を飲む沢田。現実的だ。

 水は魔法で作り出したのにわざわざコップに入れるところも器用だなと一息ついたところで

「遅くなりました」

「お待たせしてすみません」

 橘さんと林さんもやってきた。

 到着順はダンジョンにもぐっている時間の長い順になっていたが千賀さんが混ざると沢田より早く着くのであてにならない。そしてもともとの肉体のポテンシャルがパラメーターに加算されているのがよくわかる。特に怪我をしてからは足腰を鍛えているのでそこは当然だろう。


「ところでここの11階の様子はどうですか?」

 

 周囲をぐるりと見渡す林さん。

 魔物がいないか確認しているだけではないという顔は緊張していて


「溢れかえってましたよ。

 ここに来るまででも十分退治したつもりだし、11階から上がって来た奴らも雪が退治して俺が収納しています。

 とりあえずこの周辺は退治しておいたけど草の根っこに虫の卵が植え付けられているから土壌改良しないと無理でしょ」

「ああ、それを聞いて水井たちに農薬撒くように言ったがどれだけ効いたか……」

 まさかの農薬の投入。

 まあ、農業するつもりじゃないからやりたい放題だろうけど、その草を食べた魔物を俺達が食べる……

 毒霧で倒した魔物を食べていた俺たちがとやかく言う筋合いはないが

「およそに卸しちゃだめですよ?」

「なに、普通の農家さんも使ってるやつだから」

 謎の笑みには経費削減という文字が読み取れた。

 って言うか効くのか?まあ、バルサンが効いたから十分あり得るのだろうけどさ……

 あれだけ稼がせているのに経費削減それ必要?と思うもやっぱり討伐でどうしても出てしまう方達の残された家族への補償や復興作業の為に持っていかれるのだろう。

 横領から懐に入れられることを考えたら全然使ってくださいと言うところだ。

「それよりもダンジョン課が来る前に作戦を練ろう。

 相沢と雪はこのまま15階まで行くのか?」

 千賀さんの質問に

「とりあえず15階突破してないか確認してから16階に毒霧撒いて一度戻ってきます。目標は19階まで行って未開のダンジョンの様子を見て回りたいです。

 どうも自衛隊の討伐力では虫対策が不完全で、体育館にも少しいました。

 まだ体育館の外で見たことがないのがせめてもの救いかと」

「二重扉対策が良かったか」

 虫が出るという事で出入り口を強化した対策の効果があったけど、よその国がどうなったか俺は知らないがそこは自己責任だろう。どうか海を渡って来ないでくれと願ってみても歴史の紐を解いてみても無理な話。

 この国はともかくよその国がこの大学みたいに管理できてるわけではないし、秋葉のダンジョンで冒険者がのっとったという過去を作って魔狼を地上に一度は解き放ってしまった実績を持つ以上、うん。無理。

 となれば俺ができる事はせいぜい自分の家を守ることぐらい。

 皆さん自力で鍛えてもらって地元ダンジョンをクリアしてもらいたい。

 そのためのノウハウだったら安く売っても構わない。

「それで念話の事本当に教えるのか?」

 千賀さんが心配そうに聞くが

「まあ、ダンジョンの中だけのスキルだし。連絡手段は喉から手が出るほどほしいだろうからね。

 それにあんなしょうもない条件で得られるスキルの価値ってどうよ」

 言えば全員で沈黙してしまう。

 「確かに君たちが見つけたスキルの会得方法がおかしいのは分かっていたが、これもまた腹が立つほど適当だったな」

「ダンジョンがそう判断したのだからいいじゃないですか。

 それにスマホ社会にどっぷりつかった身としてはすぐに連絡が取れる手段はありがたいじゃん」

 林さんに岳は有効なスキルだといえば千賀さんもうなずくも

「ありがたいがな、ありがたいけどだ。

 まさかダンジョンの入り口階段でWi-Fi使って外と連絡取り合ってたら念話が使えるようになったってどう考えてもおかしいだろ!!!」

「そんなの俺だって知らないよ。ダンジョンが判断したんだし?

 それにうちだとスマホ必須環境じゃん。ダンジョン見張り役と外でいろいろしている時に何かあった時普通に声をかけても聞こえないし」

 だから家の近辺至る所にブースターをつけて母屋の一階、二階はもちろん納屋に居ても土間台所に居てもWi-Fiが届くようになっている。

 畑も納屋のWi-Fiを拾えるから山の中に入らなければ大体つながるようにしただけでこの結果。

 ポイントとしてはイヤホンを使った点だろうか。ワイヤレスイヤホンだけど。

 それでダンジョンをだませれたのだからほんとダンジョンちょろい。ちょろすぎてこっちが逆に戸惑ってるよ。

 ある時突然脳内に響いた岳の声とか沢田の声に驚いたけど、実験に付き合ってくれた橘さんと三輪さんで証明されたのだ。

 ダンジョンのWi-Fi電波が入る範囲からダンジョンの外で会話しているとある時突然脳内に声が響いたという実験の成功。

 残念な事にダンジョンにいる人しかスキルは発生しなかったけど千賀さんと林さんも混ぜた実験でも成功したのだから間違いはないだろう。

「だけど一番の問題は……」

「まあ、そうだな」

「確かに難しいな……」

 なんてみんなで悩むのは


「結城一佐にそのスキル発生させる為何時間もダンジョンの入り口でおしゃべりしてもらう時間をとれるだろうかってところだな」

「どう考えても無理でしょ」

「って言うかあの人が何時間もおしゃべりする様子が想像できないんだけどw」

「もっと無理www」


 なんて岳が想像して笑い出したのを見て頭が痛そうに呻く千賀に俺も想像できないねときっぱりと言い切れば一番の敵は時間という忙しい人からどれだけもぎ取れるか、それに付き合ってもらえるかが一番のネックという様にみんなして無理だよなと期待なんてせずに笑うのだった。




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