収穫祭、ではありません

 拠点へと林さん、藤原さんたちと一緒に戻ることになった。

 雪は帰り道はわかるからと「おさんぽしてきていい?」なんて視線を向けた後どこかへと行ってしまったがおなかがすいたら帰ってくるので心配することはないだろう。

 藤原さんが連れてきた人たちの安全を兼ねて俺と林さんが先行して魔物を倒していく。所々で転がっている魔物は雪が倒してくれたのだろう。できる猫は違うねと褒め称えてしまう。

 森林ゾーンを抜ければおなじみクズの登場。

 群れの規模としては初めて見るくらい大きいので発生から時間が経ったダンジョンでは子供も生まれ群れの規模も大きくなっていくのかとりあえず林さんが怪我をがをしないように毒霧で弱体化、という事はせずに俺が突入して林さんの指示のもと転がってるクズを藤原さんたちに回収してもらってクズを抱えて走ってもらうのだった。

 普段なら俺が収納して持って帰っちゃうけど収納の事を知らない人にはあまり見せたくないからね。あっという間にSNSで拡散されてネットで叩かれるだけだから割が合わないので皆さんのトレーニング代わりに頑張ってもらう。

 それにしてもクズの多いこのダンジョンの討伐状況を先に水井さんに詳しく聞いておけばと思うも藤原さんが連れている人たちの装備はマロセットなのでマロアイテムを集めている、その段階なのだろう。

 クズを倒しながら後ろから必死に追いかけてくる皆様の様子の様子ではそこまでレベルを上げてないのだろう。マロの次の階に行くとマロが出現しなくなるからね。

 マロで準備をしっかり整えて次に行く、ダンジョン対策課が優先されているとは聞いているけどほかの自衛隊の方たちも装備をそろえるとなるとなかなかダンジョンの攻略は進まないのだろ。って言うかうちよりマロの討伐数がかなり上がってそうでそのうちマロがいなくなるんじゃないか?いや、ダンジョンが生み出す魔物だからそんなわけない事は分かっているがマロ肉をそのうち食べれなくなるのではと心配してしまう。

 だからうちに将来有望な人材が派遣されたわけかと今頃納得しながら一つの群れを潰してもまた向かってくるクズの群れに俺の知らないところで雪もクズの群れを潰しているのだろうと思えばがぜんやる気がわく。

「よし!また新しい群れが来たから潰そうか!」

「待て。さすがに藤原たちが潰れそうだ」

 そう、物理的に。

  腰を折り曲げて自分の体の何倍にもなるクズを背負い、それでも藤原さんに守られながら俺の後ろをついてくるその様子……

 

「本部の沢田に頼んで結城さんにお迎えを出してもらえるようにしましょうか」

「お前は自重というものを知らないのか?!」

 なんて林さんに突っ込まれるも

「ここはダンジョンです。

 絶滅なんてしないし、放っておいても増殖します。魔物に遠慮する考えはやめましょう」

 自分の命を大切に。

 俺のダジョンでの基本的な考え。

 俺と一緒にダンジョンにもぐるのなら俺のこの考えには従ってもらいたい。

 しばらくお互いの考えを探るように睨みあったが

「そうだな。

 だがまずは拠点に帰ることを考えよう。

 これ以上鈍足とならないように頼む」

 なんていう林さんの言う事ももっともだ。


「だがあいつらにはあれでいい。

 体を鍛えるにはうってつけだ」

 

 うん。林さんを敵に回してはいけないと改めて思った。

 この人したたかに怒っていたのかと思う。

 これぐらい持てるだろうという視線は階級社会の中の厳しい洗礼なのだろうか。たしかに厳しいと思っていれば

「だからこれ以上狩るというのならお前が持って帰るんだ」

「りょー」

 狩りはだめ。そう言うわけではないがこれ以上は持たないぞと言う林さんも皆さんよりもたくさん抱えていた。

 まあ、これじゃあ怒るよなと自分の体の何倍の量のクズを抱えるその姿。

 武器の素材として優秀なクズの確保のために頑張っているだけでのみなさまに俺も荷物持ちを頑張ることにして……


「君たちは自嘲という言葉を知らないのか?」


 拠点に帰ってきた早々結城さんのお言葉はそれだった。

心の中で林さんがレベルアップすると結城さんみたいになるのかな?なんて考えながらも


「ただ今戻りました。

 クズの角は武器として優秀なのでぜひ今からクズの角の収穫をしたいと思います!

 因みにダンジョン内なので置いておくとダンジョンに吸収されるので今から全員でクズの角を取りましょう!」

「君は何をいきなりミカン狩りみたいに気楽なことを言い出すんだか……」

 頭が痛そうに呆れる結城さんだが

「じゃあ皆さんにお手本をお見せします。クズの角収穫はいたって簡単です!

 根元をもってぐりぐりと揺らせば簡単に抜けます!

 これはクズ同士での戦いの時にも取れるようになっていて、角を落とす、それがクズの強さの証明みたいな感じなので簡単に取れます。人参や大根を引っこ抜くようにお願いします!」

 そんな沢田の指示はなお続く。

「角が取れたら危険なものはないのでみんなでダンジョンの外に運んで後の解体は外の皆さんにお願いしましょう!」

 思わぬ鬼畜な指示に林さんは誰にも見られないように顔をそむけて肩を震わしていた。

 せっかく来たばかりなのに外に運べだなんて酷いよなと笑ってしまうのは仕方がないだろう。とはいえ

「大根を引っこ抜くってむしろそっちの方が分かりにくいんじゃね?」

 この中に人参、大根の収穫経験ある人はどれだけいるんだと突っ込んでいればこめかみに指先を当ててそれでいいのかと悩まし気な結城さんだけどそこは建設的に

「聞いたのなら今よりクズの角の収穫をする!

 林たちが頑張って持って帰って来てくれたものだ。全員で取り掛かれ!」

 もうやけっぱちなのに腹に響く無駄に良い声で命令を下せば村瀬たちを始め拠点周りの護衛や今から捜査に出ようとした人たちはすぐさま収穫を始め、簡単に取れるクズの角に皆さんどこか楽しそうで何よりだと思うのだった。



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