思ったよりも早くから目をつけられていた件

 ここも13階の扉は川のど真ん中にあった。

 岩にぶつかる水しぶきを浴びながらそこにあった。


「なかなか絵になる図柄だな」


 ざっぱんざっぱんと水しぶきを浴びる邦画の始まりにも用いられる、もしくは火〇ス的な何か起きそうなやつ。

 縁起わるー……

 そんな扉とはいえ足を止めればポチャ落ちするマゾシューズ。

 みんなでうろうろしながら扉を見るのは傍から見れば滑稽だ。

 なのでさっさと魔物の出ない階段で繋ぐ場所へ飛び込む。


「やっと水から解放されたー!」

 

 岳の言葉だがその思いはみんな一緒。

 歩けるとはいえ柔らかな足元はなくなり確かな踏み心地は眩暈を起こしている中歩いているような感覚を正してくれた。

 なんとなくまだふわふわしているけどね。

 とはいえ13階は……

 ただの森林地帯でした。

 まっすぐな木が空に向かって伸びる、遊びも何もない縦の線が描かれた世界だった。

 むしろ見慣れた山の景色でもあって謎の親しみを感じることが出来た。

 だけど敵は面白くも何もないマゾが群れを成してやってくるゾーン。出てくる魔物に強弱の差はあれどバリエーションがない所がダンジョンと言う所だろうか。これを除けば家の周囲と変わらない環境だと俺は思う。秒で否定されそうだから言わないけど。

 あの巨体が木々の隙間を縫って走って追いかけてくる恐怖。新規の三名以外なら一撃必殺な程度だが、今回は初心者新規の三名様へのブートキャンプも兼ねている。


「おら、伴さん。

 たかだか10匹ぐらい一人でさばけないとこの先すばしっこさのレベルを上げたマロモドキを倒すことが出来ないぞー」

「加藤さんもがんばってー。マゾはただ固いだけだから全力でザクッといっちゃおう!」

「緒方さんも頑張れー。死ななければ何度だってできますよー」


 俺と花梨と岳の応援を受けながらも余裕がないのか返事もせずに討伐を頑張るお三方。

 何回目かの遭遇でまさかのマゾとマロが群れ単位でタッグを組むこの戦場に伴さんはじめ新規の三名だけでの対応をさせている。

 なんかすごい悲鳴を上げるてるけど結構ピンチ何てところには雪がちゃんとフォローに入ってくれる。

 さすがニャンズのボス。

 俺が放置で良いと思った事にもちゃんとフォローを入れてくれるイケメンは仕事までイケメンでだ。が……

「雪軍曹、あまりお手伝いをすると手伝ってくれることが当たり前だと勘違いするのでほどほどでお願いします」

「なぅ」

 雪軍曹に育てられた皆様の辛口の意見。

伴さん達が絶望的な顔で助けを求めてきた辺りすでに甘ったれた根性しているなと鼻で嗤う。

 実際は一緒にマゾで遊びたくてうずうずしてるのを我慢できないだけだけど、遠回しにたしなめられたことに不満をお持ちのようだ。

 とはいえマゾ&マロの群れ約20匹に囲まれての絶体絶命なんて光景。

 もっと多い数に囲まれた経験のある俺から見ればかわいいものだろう。これぐらい毒霧一発で終わりだろうとまではいわないけど。

岳なら新技の開発にちょうどいい、林さんなら素材ゲット、みんなかかれ! なんていう所だけど長引く戦闘に雪は違うというようにため息を吐いていくぞという様に工藤に猫パンチをお見舞いしての一匹と一人であと一撃と言うと程度まで弱めてからのシャー!の掛け声でお三方を奮い立たせて止めをさせるレベルアップ。

 そして森じゅうに響き渡せるようなかわいいにゃんこボイスにホイホイされる新たなマロ&マゾと他の面々。

 なるほど。

 これがカリスマ(?)とまで言われ信者(??)を集めた雪軍曹のブートキャンプ。

 

 普通にトラウマじゃね?


 改めてみんなにこんなことされてたの?! なんて尋ねずにはいられない。

 俺は基本雪と一緒に潜っても別行動だから。

 毒霧撒き散らすから獲物が居なくって雪ってばすぐどっかに行っちゃうからね。

 だけど別行動しても雪が持ち帰りたい獲物を捕まえた時は必ず俺を見つけるあの嗅覚。

 ストーカーされてるw

 なんて喜んだ日もあったけどそれは違うと思いっきり引っかかれたけどね。それはそれでご褒美として喜んでいますが何か?

 

 なんて雪との思い出に浸ってる合間にボロボロになって地面に転がっている伴さん、加藤さん、緒方さんに俺はペットボトルの水を渡した。

 岳たちは俺が片付けやすいようにと倒した魔物を集めてくれているし花梨に至ってはここで内臓を落としているあたり帰ったらそれからご飯になるのですねと今から楽しみでしかない。

 さすがに荷物から飲み水を取り出すのもつらいのか身動きできない皆さんは何かをあきらめて水を受け取り口にした。

 ほっとしたような顔、生き延びた喜びの顔、水のありがたさにむせび泣きだす顔。

 どれもこれも酷い顔をしていたけどそれも一瞬。

「これは……」

 源泉水の力にすぐ気づいてあっという間に一本を飲み切ってしまった。

「あ、貴重なのに」

 もう新たに汲むことが出来ないという意味で。

 ストックはまだ浴びて溺れるほどあるけど、それでも減るだけの物なのだからもうちょっと味わってもらいたい。

「聞いてもいいだろうか。これは一体……」

 たぶん秋葉ダンジョンで俺達がしたことは報告で上がっているだろう。

 結城さんからもかばいきれない事は言われていた。

 きっとこれについて探られている事も三人のミッションだろう。


 どんなケガもたちどころに直してしまう夢のような薬。


 俺達誰かが毎日ほぼつかりに行った温泉のお湯だけどね。

 とはいえ滝から流れ落ちて滝つぼで摂取して飲むと効果は全くない不思議。

 滝つぼでも水がわいていて薄められて効果が無くなるのだろう、林さんの言葉にそういうものかと思っている。

 でなきゃ「源泉に浸かりし者」なんて称号ゲットできないからね。

 それだけにあの場所で沸いた源泉水が特別なのが理解できる。

 ちなみにイチゴチョコ大福を始めとしたニャンコズもちゃっかりその称号を持っていた。

 どうせ雪がやったんだろうという事は想像にたやすい。

 岩盤浴ばかりしていたけどそれでもOKなのか?なんて思ったけど捕まえた子マロで実験してみてもやっぱりその称号はつかず。


 突き落としたんだ。


 もともと我が家の生態系の頂点に立っていた雪だけど、ある日を境にその線引きがさらに強化されたところを思い出せばその時だったのだろうと今更ながら思う。

 とはいえ命優先としてもバレてしまった源泉水。

 どうやって守ろうかと思うもそれは俺の中ですでに用意した答えがある。


「11階のどこかにこれを採取できる場所がある。

 俺の家のダンジョンからとれたがその入り口はない。

 だけど俺は他の入り口からでもこの水を採取できる場所に繋がっていると信じている。

 それをあんた達が見つけることが出来た時、俺はあんた達が採取しても文句は一言も言わない」


 俺の言葉に何も言えずに見上げる三人に


「消極的になってるあんた達に俺は言うぞ。

 こう見えても俺はか弱い一般市民だ」

「か弱いの定義が行方不明だな」


 工藤の小言に岳が小さく噴き出す。


「それなりにダンジョンに潜れるぐらいのレベルをそろえてるんだろ?

 マロを攻略できれば11階ぐらい余裕の世界だ。

 ダンジョン対策課の皆さん並みに頑張って協力すればこの水が採取できる場所ぐらい見つけられるだろ?」


 たくさん人を送り込めば、なんて言う人海戦術。

 実際ダンジョン対策課でもやってはいるけど未だ見つけることが出来ず。

 ピンポイントで崖の上の温泉を見つけるのは難しいだろうと思いながらも源泉水の近くに通されたことを考えると……


 マロを倒した時点ですでに借金鳥に目をつけられていた事に今更ながらぞっとするのだった。



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