いくらでも生えてくるけど退治したくなるアレ

 13階でマロの群れに追いかけられながら走りながらの戦いは伴さん達に確実にトラウマを植えていた。

 涙と鼻水を流し時々嚙みつかれたりもしながら源泉水で回復をさせて俺達は三人だけで対応させていた。

「子マロきゃわ~!」

 思わず悲鳴を上げてしまうくらいのとてとてと歩くぬいぐるみ仕様のマロ。

 それでも大人のマロの中に紛れて遅れながらも必死に追いかけて俺達に嚙みついてくる……

 残念だが痛くもないしむしろ

「かわいいしかないとはどういう楽園!」

 マゾシューズをガジガジと齧るその姿。

 思わず和んでしまうのはかわいいから仕方がない。

 だけど困った。

 かわいすぎて家に連れ帰ってもいいだろうか。

 このかわいさに癒されまくりたい。

 殺人的かわいさにニャンズとイチゴチョコ大福も面倒を見たがるだろうから問題ない。

 大きくなれば花梨が美味しい料理にしてくれるだろうなんて悩んでいれば

「にゃ」

「ういっす」

 雪と下僕のコンビによって子マロは遠くへと投げられるのだった。

 工藤でもさすがにその手でと言うのはためらったようで、まあ…… 運が良ければ再会できるだろうと思いながらそのかなり直線的な放物線を見送るのだった。

「あああ、お星さまに……

 再会できますように。だけどもし次に再会した時にさっきの子マロだとわかるかな?」

「その時にはただのマロだ。さっさと忘れろ」

 いつの間にか工藤も立派に俺達に感化されていたかつての悪童は今ではただの食いしん坊さんになっていた事に花梨の食育のすばらしさを絶賛する。意味の分からない伴さん達はただの雑談としか受け止めてないけど、今回限りのお付き合いなので別にいいだろう。

 それに食いしん坊さんだなんて口にすると天邪鬼な工藤だから花梨のご飯に指を咥えて眺めながらも食べないという面倒な悪童に戻るのだろうから口にはしないけど……

 むしろそれを見たくね?なんて思ってしまう。

 だけどそこでいつの間にか14階の入り口を見つけて初めての14階へと足を向ける。

「ちなみに14階ってどういう所?」

 なんて14階までなら知っている伴さん達に聞けば

「まあ、何とも言えない和な世界だよ」

 言って階段を下りれば……


「まさかの竹林」


 ここではタケノコが出てくる世界なのかと思ったらすでににょきっと顔を出していた。

「ああ、タケノコですね。タケノコご飯、好きなんです」

 なんて林さんが花梨におねだりした瞬間

「ふんっ!」

 我らが女王様は地面から顔を出してこの世界にこんにちはをしたタケノコを踏みつぶした。

 なんてことを?!なんて林さんが言いたそうだったけど

「まったくどの世界でも竹ってやつはすぐ生えて迷惑よね。

 ほら、ぼさっとしてないで頭出してるタケノコは踏みつぶしてよ。

 遥、つるはし頂戴」

「御意」

 そういってつるはしを渡す相手は岳。

「さてやりますか!」

 当然の顔で受け取っての岳の気合。

 俺は少し離れた所で花梨のキッチンセットを出して鍋にお湯を沸かす。

 米のとぎ汁はなくても米ぬかは用意してある。

 もちろん漬物用だけどそれで十分。

 と言うか

「岳よろしく!」

「任せたまえ!」

 そういってすり足で歩き出したと思えば何かを見つけたという様につるはしを振るう。

 ざくざくと円を描くように土を掘り、そして地中から姿を現した……

「タケノコだ」

「よくわかったな」

 橘さんも三輪さんも感心するようにため息を落とす。

 その姿が見えたところで

「まず一個」

 岳のそんな気合。そしてまたすり足で探し出す岳を他所に花梨は皮をむいて包丁でざくざくと切ってチューブのわさびと醤油を用意して

「ほら、賞味1分だよ! 急いで!」

 なんて言われれば俺達は反射的に手を伸ばして食べる。

「あ、あくが!」

 なんて止めるように言う伴さん達の止める声を無視してしっかり花梨に調教されている俺達は花梨の言うとおりにわさびと醤油をつけてパクリ!

「あああ!!!」

 千賀さん、そのワサビ付けすぎじゃね? なんて注意を促すよりも先に食べてしまったアフターの悶絶する姿。

「あー、ちょっとあくはあるけど癖になりますね。まさかタケノコを刺身で食べるとは思いませんでした」

 なんて立て続けに食べる林さん。

「そうよ!本当は破竹で食べたかったけど日光に当たってないタケノコをとれたてもぎたてで食べる贅沢、今この瞬間じゃなきゃできないんだから!」

 そう言われて伴さん達もついに手を出し、初めてのお味になるほどとお替りをしていた。

「花梨二個目とれたよ!」

「遥!焚火で焼いちゃって!」

「りょー」

 なんて言ったけど花梨が焚火の中に投げてくれたからあとは皮をむかずに焼き芋を焼くように見張り番をするだけ。ごろごろと放り込まれるタケノコだけど皮をむけば蒸し焼き状態で食べれるからと皮がいくら焦げても関係ないという様に眺める…… 楽だなと言わないでおくれ。

 その間も岳が足の裏センサーで見つけて掘るタケノコを瞬時に捌く花梨。

 あくとり用に沸かした鍋に皮が付いたままのタケノコをざっと洗って放り込む。

 大きなお釜でたっぷりお湯は沸かしてあるからどんどん放り込んだ後はもちろん

「相沢パス!」

「よしこい!」

 俺の収納に向かっての岳がタケノコを投げてくる。容赦なく掘り起こしては投げてくる。

 キャッチボールじゃないんだよという様にグローブなんて持ってない俺に向かって真っすぐ投げてくるタケノコはそのまま収納。キャッチした時の子気味良い音はしない業務的なこのやり取りの理由はただ鮮度が守るため。

「この季節にタケノコがとり放題だなんてやっぱりダンジョン面白いな!」

「水井さん達のお土産にもたくさん掘って!」

「あの沢田君。私の好きなタケノコご飯は……」

「竈でたっぷり作るに決まってるじゃないの!」

「やった!」

 なんて喜ぶ声とは別に控えめなガッツポーズ。いや、力入れすぎだろうと千賀さんも苦笑だ。

「チンジャオロースも山ほど作るわよ!」

 さり気に工藤までガッツポーズをしている。

 そして取り残されたようにおとなしいのが伴さん達。

 俺達は何の場に立ち会っているのだろうかと言うような顔。

 まあ、緊張しっぱなしのダンジョンの中でこんなことする余裕なんてないだろうしなと思いながらも


「にゃーん!」


 かわいい声で姿を現したのは雪。

 咥えて持ってきたのは白と黒のクマではなく


「白と黒の……」

「さすがダンジョンと言うべきか。

 俺達が手を下せないような可愛い奴を用意しやがって……」


 タレ気味の長い耳にはすでに力はなく、やけに足の長いその姿と花梨と同じくらいの体高はあるだろうマッチョなウサギ。


「初遭遇だな」

 千賀さんがもう今更動揺しないという様に言うけど

「パンダウサギ、俺の知ってるパンダウサギじゃねえ」

 少なからず俺は俺の知るパンダウサギではない事に嘆く。

「カラーリングは確かにパンダなのに、いや、個性と言えばいいのかもしれないけど……」

 三輪さんもなんとなく正面から受け止められないという様に言うが

「うーん、なんとなく二足歩行しそうなウサギですね」

 林さんは生きてる状態で会いたいという変態ぶりは相変わらずだ。

「林さん、それもうウサギじゃないですよね?」

 犬派の橘さんは別に些細な問題だろうという様に言えば


「とりあえずばらしてみようよ!」


 どんなお肉かなー?なんて鼻歌交じりの花梨に楽しみで仕方がないというような雪がパンダウサギの周囲をぐるぐると歩いていた。


「捌くのは良いけどとりあえずマゾ倒してからにしない?

 変な邪魔が入ると面倒だからさ」


 岳にしては珍しくまともな意見。

「そうだね!

 マゾ部屋なら皮をはいて解体するにはちょうどいい場所だしね!」

 花梨がそういえば俺はパンダウサギも収納して

「とりあえずタケノコはもういいか?」

「当分はあるからいいわよ」

 なんて花梨のお言葉に焼けたタケノコを収納してキッチンセットを鍋ごと片付けて……


「あ、お待たせしました。

 ではウキウキワクワクのマゾ部屋に行きましょう!」


 なんて岳のエスコート。

 緊張感のかけらもない俺達の冒険に何も言わなくなってしまった伴さんたちお三方を引き連れる岳。

 マゾが待つ入り口はもう知っているという様に自信たっぷりに案内する雪の尻尾を眺めながら俺達は時折襲ってくる14階になったら白黒模様のついたちょっと猫っぽい顔になったマロを退治するのだった。

 白黒模様が特徴の14階。

 

「よそのダンジョンってうちとは違って面白いなー」

 

 ダンジョンに深く突っ込んではいけない、それを良く知る俺達はそれでも今度のお肉はどんなお味かなとなるべく深くは考えないようにお肉をかき集めるのだった。




 

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