魔女の儀式

「この靴便利ですね」

「一見堅そうなのにすぐ馴染んだのは驚きですね」

「普段にも欲しいな。上手く量産できればいいのに」

「だねー。だけどマゾを倒せばマイシューズが手に入るから。マゾを倒さないと手に入らないけどね」

 いつの間にか岳と仲良くおしゃべりをしていた。

 何このコミュ力。

 いや、向こうが諦めたのか?

 皆さんのどこかやつれた顔にまさかの敗北とか笑えないんだけど。それ以上にあれだけ渋ったマゾシューズを履いて1時間もしないうちに皆さんすっかりとりこになっていたのもどうなんだよと言いたい。

 皆さんを虜にしたマゾシューズの良い所は履き心地はもちろん重さをあんまり感じないのに丈夫に尽きるからね。

 日常生活でも山に入ったり、畑で作業したり、川で作業した時に大いに役立つマゾシューズ。あとは他にバリエーションが欲しいというくらい思いはある。

 思い切って切ったりしたけど苦手な長さでも慣れたせいか逆に履き心地がいまいちなのが辛い。

 せいぜい足首から上の部分を折り曲げて履くのもありかと思うも今一つ。

 皮が柔らかくなるまで育てるのが今俺の実験中。中々柔らかくならないけどね。

 とりあえず水の上を走り続ける。

 もちろんお三方も水の上を走るのも慣れ、今は少し深い所の上を走っている。

 そうすれば足のついたやつら以外の魚も俺達を襲ってくるから水の中から、そして上空から襲ってくる魔物に対しての訓練にもなってちょうどいいから練習させている。

 因みに俺の場合は普段は足に雷を纏わせて水の上を走るたびに雷の魔法で魔物を仕留める方法をとっている。マゾシューズを履けば感電の心配もないしね。

 それもどうよと言われているけど、ぷかぷかと浮き出したお魚は耐えきったお魚に美味しく頂かれるというたくましさを見せてもらっているし、俺のもうなかなか上がらないレベルの糧にもなってもらっている。

 質より量で育てたこのレベル。

 なかなか上がらないのが悩みの種だけど


「それ以上レベルを上げてどうする。

 お前に勝てる奴でもいるのか?」


 結城さんの冷静な突っ込みに改めて俺のレベルが突出しているのが嫌でもわかった。

 だけど雪だって自力でレベル70を突破してる。

 みんな雪ほど一生懸命討伐してないからだろうと突っ込みたい。

 岳もダンジョンの滞在時間が長いけどDIYをしている時間も長いし花梨も料理している時間が長いからね。

 俺は俺で害虫駆除しているだけのつもりだったのにそれがすべてレベルアップにつながるミラクル。

 ちがうんだよ。

 レベルを上げたかったわけじゃないんだよ。

 単にトイレから家の中に直通の構造上Gを始めとした奴らが家の中を闊歩してもらいたくないだけの対策。

 しかもマロハウスの扉を開ければもっと小さな奴らまでわんさか来る仕様。

 うちのダンジョンだけならそれほどレベルは上がらなかったはずなのにおよそのダンジョンにお出かけして溜めに溜めた溜めフ…… 魔物に向かっての毒霧。

 それがあんなにも効果を出すなんて誰が想像するんだよ!

 そんなことをたった数個のダンジョンで繰り返したらバケモノと呼ばれるようになりましたよw

 せめて規格外って言ってよと思ったけどおよその世界の頂点に立つ方と同レベルぐらいだったからね。

 案外俺程度のレベルってざらにいるんじゃね? なんて思っちゃったりするけどそこはみんなをレベルアップするための餌になって貰おうと思う。雪、出番ですよ!

 情けない飼い主だなと前を行く雪のご機嫌に揺れる尻尾を眺めながら足を運ぶ。

 おっさん達はおっさん達で面倒を見てもらえば良い。年下に指導されるのも嫌だろうしね。

 とりあえずおれは前を走る雪のお尻を眺…… 雪の野性的感を信じてついていけばいいと足を進めている。

 11階でも思ったけどここも他のダンジョンと同じく直線状に階段があったからたぶんこの先にあるだろうという事はなんとなくわかっている。

 ただ川が蛇行しているのでどんな景色に出会えるか楽しみながら二度と来ることがないだろうダンジョンを楽しんでいれば


「きゃーっ! 遥! 遥っ! あれを見て!!!」


 花梨の悲鳴に雪も振り返って戻ってくる。

 水面なので足を止めればぽちゃんと水没するからみんなうろうろと動きながら

「花梨、って、あれは……」

「サメ、ですかね?」

 林さんが冷静に、だけどうろうろしながら言えば


「そう!サメよ! フカヒレよ!!!」


 きゃー! っと喜びの悲鳴を上げながらこちらの世界でも群れで狩りをする習性を持っているのか集団の群れでやって来た。

 勝てるのは分かってるけど

「遥、遥っ! フカヒレの姿煮作りたい! いっぱい食べたい!

 捕まえて!全部捕まえて!」

 叫びながら俺の背中をバシバシと本気で叩く料理系女子の本性ここにあり。

 涎を垂らしながら俺達を囲むようにぐるぐると泳ぐサメにふふふと笑みをこぼす花梨。

 今自分が仕留めれば謎のデバフが付くだろうからこそのおねだり。

 これは本気だ……

「一匹も逃さないでよ」

 瞳孔全開で言わないでほしい。

「サメってお肉も卵も美味しくないじゃん」

 なんてささやかな抵抗という様に言えば

「世界の三大珍味のキャビアよ! この世界のキャビアはどんなお味かしら?」

「うん。ヤル気が出た」

 ノリノリの俺達にこの人でなしは言った。

「チョウザメはサメとついているけどサメじゃないですよ。

 サメの卵はもっさもさして口の水分をもってく様な、卵とはかけ離れたものですよ」

 なんてやけに詳しい感想に

「ばらさないでよ」

「すみません」

 速攻で謝らないでほしい。

「林さん詳しいけど食べた事があるのですか?」

 なんて好奇心で三輪さんが聞いてくれたけど

「スーパーで売ってたから買ってみたけど味も食感も今一つの上に臭いまでして二度と買うもんかって思ったぞ。玉子焼きを作ったのだが調理法を間違えたな」

 真顔で言うあたり本当にひどい味だったのだろう。

「だったらフカヒレオンリーで狩ろう。

 身なんてアンモニア臭が出るから使えないだろうしな」

 千賀さんも食べれない物を無理に食べる必要はないと言ってくれたけど

「借金鳥に食べさせてみればうまいかどうか判定してくれるかもしれないぞ?」

 そんなちょっとした期待。

 なんて泣いてはいなかったけど泣きそうな顔でセクシーなおみ足付きの魚を食べていた借金鳥を思い出せばこれも一つのバロメーターだねとこの世界のサメの価値を調べるためにも気合入れて俺達はサメに襲い掛かるのだった。


 結果は、まあ、こんなもんだよねという様に身も卵も何もかもが美味しくはなかったけど……


「フフフ……

 乾燥した冷たい風に当てて上手にカラカラの干物にしてあげるわ」


 切りとったフカヒレの皮を丁寧にはがす花梨の様子に


「魔女の儀式が始まったな」


 と言った工藤の呟きに俺はなぜか否定が出来なかった。





 

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