天然の天敵が現れた!

 12階入り口前で雪と合流をして水分補給をしっかりとった。

 伴さんたち三人に源泉水を勧めたけどどこぞの公務員たちとは違い、自分たちが持ってきた食料品をちゃんと使う立派な人たちだった。

 いや、それが当たり前なのだろうけど。

 それにどこぞの公務員たちは上司と相談して体力温存の為の装備軽量化で俺が荷物を預かる事は効率化を上げての提案と承認だから俺が文句を言うなって話だけど……

 こうなると少しは考えちゃうのは仕方ないじゃん。

 高学歴のプライドには感心します。

 どれだけ持つかわからないけどね。


 そしてやってきました12階はお約束の水辺ダンジョン。

 沼地ではないのでほっと安心するのはたぶんどこかで大学ダンジョンと続いているのではないだろうかという警戒心。まあ、あっちよりお寺ダンジョンとか秋葉ダンジョンの方が近いから

 うちの風光明媚な対岸の見えないような川とは違い、むしろ馴染みがありすぎる山間の流れが急な川だった。

 とはいえ規模は相変わらずバグるほどでかいのは相変わらずだけど……

「雪、マゾシューズ履くぞ」

「にゃ」

 濡れる事を嫌がる雪は空を飛べてもこの靴を履いてくれる。

 重さを感じる事もなく、それでいてサイズもぴったり。

 不便を感じる事もないし、ダンジョン産の靴は謎機能もついていて火の熱さも沼の泥濘も気にすることはなく、挙句に雪の爪攻撃も不思議な事にマゾシューズを履いていても何も変わりがないという仕様。爪で穴が開いたってわけじゃないのに不思議だね。

 ダンジョン産に今更深く突っ込むことはしないけど……


「すごいな。ダンジョン産アイテムはマロマントとかの耐熱機能が凄い事は知っていたが……」


 伴さんがマゾシューズを履く雪を好奇心塗れの顔を寄せて眺めていた。

「伴、そこまで顔を寄せなくても見えるだろう」

 加藤さんが呆れたように言うも

「いや、なんであの大きな靴がこんなにも小さくなるのか気にならないか?」

「気にはなるが……」

「動物虐待に見えて仕方がないというか……」

 緒方さんにも言われてしまって少し恥ずかしそうに雪から距離をとってくれた。

 雪もさっさとマゾシューズを履いて工藤の肩にぴょんと乗る。

 工藤の肩なんて安全じゃないのに靴を履いて登るのにちょうどいい相手という様に少し汚れた靴の裏も気にしないように安定する足場を探す雪に何も言わない工藤と言う……

 ちょっとジェラシーを感じてしまったのは今は問題にしない。

 そう、この12階を安全に進むためにね。

「皆さんもこちらの靴に履き替えてください」

 かつて村瀬たちも履いた予備のマゾシューズ。

 当然ながら皆さん表情は変えないけど嫌だという雰囲気で俺達に訴えてくるがここで林さんの出番。

 すっかりマゾシューズを標準装備になっている林さんが川の縁から川面に立って

「この靴の特徴です。

 こうやって歩いている間は水の上に浮くことが出来、止まればすぐに水没します」

 歩く姿と浅瀬の所で止まった瞬間ぱしゃりと小さな水音を立てて数センチ沈む様子を見せたそんなデモンストレーション。

 なわけがない。

 林さんがそんなただの親切な人ではない事は知り合ってまだ長いとは言えない付き合いだけど嫌でも理解している。

 人の好さそうな顔をして確実に目的を達成するために周囲を犠牲にす程度に性格がねじ曲がっている事も花梨の件で知っている。

 そんな林さんがただマゾシューズの高性能ぶりを披露するわけがなく、俺に三人分を用意させて

「今すぐ履き替えてください。

 あなた達の鈍足具合にあわせているので進行の予定がかなり遅れています。

 スケジュールが組み立てられている以上、地上で待っていただく方たちの為にもこれ以上の遅れはあり得ません。

 ここからは近道をする予定なので早く履き替えてください」

 全く笑ってない笑顔での説得。

 さすがのお三方もきっと言いたい言葉があるのだろうけどそれを飲み込んで靴を履き替えてくれた。花梨の応援をあれだけ受けていたんだから足を引っ張っている自覚はあるみたいだね。デバッファーの呪いを受けるがい…… 受けてない事を祈ってるよ。

 さすがのお三方も林さんの的確な指摘におとなしく靴を履き替えてくれたが、ただ靴を履き替える様子を見れば靴の中からいろんなものが出てきた。

 いわゆる暗器と言うか、便利グッズと言うか、何かの時お役に立つような何かとしか俺は言えなかったものが出てきたのだ。

 まるでスパイ映画だなw

 なんて素直に笑えないのは目の前でその移し替えが行われているからだろうか。

 言葉にはせずに思わずガン見をしてしまえば思う所はあってもあえて何も言わないお三方のプロ根性(?)にここはあえて知らない見ていないを通したほうがいいのだろうというスタイルを通したかったけど


「かっこいい!

 あ、大丈夫です。

 お仕事のための大切なものなのでしょうから俺だって誰かに言いたいけどそこはこれからの任務に何かあってはいけないので黙ってるくらいの判別はありますから。秘密なんですよね?

 だけどほんとかっこいいなあ。やっぱり縛られたりした時の対策のナイフとか?ギザギザが付いているから金属対策とか?」


 お三方だけではなく俺達までいたたまれないくらいの満面の笑顔の好奇心爆発な岳に伴さん達はいたたまれなさに手早く靴を履き替えて、俺はレンタル料代わりにと言って荷物を減らすように大切な靴を預かり……


「ではいきましょうか。まずその靴に慣れるために川の上を暫く進みましょう。

 水中から攻撃をしてくる魔物がいるので弱い相手のうちに慣れておきましょう」


 この場を救うのも林さん。だけど足を止める事を許さないという地味に嫌なコースを選ぶ当たり林さんらしいと千賀さんが林の言う通りと言うポーズをとりながらの困り顔になっている。

気付いて気付かないふりするのも林さん。

ほんとねちっこいくらい嫌な事をしてくれるとそのうちダンジョンに判定されて不名誉な称号をもらっても知らないぞと、何が付くのか楽しみにしていたりしながらも岳と伴さん達との相性の悪さを改めて痛感する。岳の一方的にぐいぐいと詰め寄るアグレッシブさ、見習いたくねぇ……

 お三方も魔物以上に謎の生命体に出会ったとでも言うような困惑ぶりのそのお顔。林さんもよくやってくれたけど岳もよくやった。

 むしろ岳の方がダメージを与えてて笑えるんだけど、今は一応我慢はする。

 

 そんなこんなで林さんと岳のおかげでどうやら伴さん、加藤さん、緒方さんとちょっと仲良くなれたようです。


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