勝者は岳だと思います

「魔法? 漫画やアニメじゃないのに本当に存在すると思ってるのか?」

 加藤さんだったかいきなり魔法を否定した。

 そして緒方さんだったかその人も

「映像で加工なんて今の時代幾らでもできる。真に受けるほうがどうにかしている」

 思いっきりマッチョな所を見ると頭まで筋肉マニアなのだろう。

 俺達がお三方より格上なのを理解したくないというのは理解できた。

 さらに

「夢はありますよね。

 ですがさすがに殺虫剤で魔物を倒せるって言うのは今でも理解できません」

 そう言われたら俺だって答えるよ。


 バルサンが世界を救うレベルになってるなんて予想もなかったよ!!!


 思いっきり叫んで鼓膜を突き破りたいと思うけど俺を止めるために待機している千賀さん達の姿をみて俺は害のない人間だという様にへらへらと笑いながら

「じゃあ、ご飯も食べたしさっさと行きましょうか」

 腹いせではないがここから先は容赦なくふるい落とすハードモードに設定をした。

 自重も止めて皆さんが見ている目の前でログハウスと花梨愛用のアウトドアキッチンを収納する。驚きに目玉が飛び出そうな魔法を否定したお三方を無視して

「雪、今回はこのお池ダンジョンの皆さんと一緒にスケジュール通り行く事が優先されるから気になった魔物は狩ったら持っておいで。山で待ってるみんなの為にもご飯は用意しないといけないしね。

 だから俺達のガードは気にしなくていいぞ?

 皆さんもレベルアップの為に来てるんだろうから下手に守ってレベルアップするチャンスを奪うのは良くないから雪はタイミングを合わせてちゃんと一緒に階層を移動できればいいってことを覚えてくれれば自由にお散歩していいからね?」

「にゃっ!」

 これ以上とないくらいの良い返事と共に10階に来た時に撒いた毒霧が風に乗って効果が出ているだろう11階の扉を開ければ雪はすぐさまサバンナの様な平原に飛び出して行ってしまった。

 相変わらず楽しそうで何よりと思ったとたんに空からニワトリが降って来た。

 ぼとっ……

 なかなかの重量のある音にニワトリを見なれないお三方は固まってしまっていた。

「早速仕留めたか」

「雪はニワトリが大好きですからね」

 千賀さんの感心する声と雪の狩り能力の高さを褒め称える林さんののほほんとした声。

 それについて意味が分からないというお三方だけど

「師匠相変わらずの腕前っすね。

 首の骨を折っただけで他にはダメージゼロ。落下のダメージはあるけど」

「それー。瞬殺って言うの?ショック死って言うの?いい〆具合なの雪判ってるわあ」

 工藤の雪の崇拝ぶりはもはや宗教レベル、いったい何があったのか聞きたいではないが、花梨の雪の仕事に対する誉め具合は最低限のダメージで仕留めるのは見事と言う食材に対する価値に見出すもの。

 あのギザギザハートの工藤の変貌ぶりには驚くものの花梨のぶれなさはまた見るものがある。

 おもしろー。

 感情を込める事なく言える俺だけどすぐさまニワトリを拾って収納。

「雪が狩りを楽しんでるからみんなも何が降ってくるかわからないから頭上にも注意してよw」

 お三方がこの現実を理解できない、映像の加工じゃないのかと言う疑いの眼差しがぶれだした所で俺はペースメーカーとして走り出した。

 今まで同様先頭に立って出会った魔物を仕留めはしないけど致命的なダメージを与えて追いかけてくるお三方に止めをさせる。

 それを千賀さん達でフォローしてもらうそれだけの事。

 だけど少しもやもやしているのもあってお三方がぎりぎり追いかけてこれるスピードを維持して次の階層に繋がる階段を目指して走り続ける。

 立派な事にプライドから文句は言わない。

いいぞ、それがいつまで続くか楽しみだ。

 その気合に敬意を表してスピードは緩めてあげない。だって俺達にしたら流す程度のスピード。その分時間をロスしているから緩める理由はないしね。

 毎回俺達が必死で集めた情報や命懸け(?)の体験談を山ほど文章化して報告を上げた千賀さん達も珍しくオコ気味で何も言わずに俺のささやかな嫌がらせに何も言わず乗ってくれた。

 だけど一番の屈辱はお三方の隣で花梨が頑張って!ペース落ちてるけどまだまだ頑張れるよ!なんて余裕の姿での応援。きっとお三方の仲間の中ではエースどころを用意してくれたのだろうけど、あのお魚まみれのお魚ウォーズを経験した俺達は全員がレベル50を超えたのだ。あと少しでレベル60にたどり着く、そんな具合。きっとこの攻略を終えればそうなるだろうことを期待している。

 そんな花梨の煽り、ではなく応援を受けながら歯を食いしばって追いかけてくる様子をほほえましく見守る林さん。このセットがそろえば意地でもスピードを落とせないという様に走り続ける意地は見事と言うしかないだろう。

 俺達だってわけのわからないダンジョンの謎現象や不思議生命体が溢れる未知の世界にどれだけ恐怖と戦ってきたのかその身に体験させてやりたい。

 それにかなり長期の間あんたたちの大切な依頼人(?)のご自宅から広がる危険を隠して俺達が知らないくらいの犠牲を払ってきたのにこの協力のなさ。いくらお仕事とはいえせめて楽しい雰囲気ぐらい作ってよとおっさん達の喘ぎ声を聞きながらやっと12階の入り口についた。

 当然俺達がつく頃には大量の魔物の山を作って待ち構えてくれる雪と無事合流が出来た。

「雪しゃん、また大量ですね!」

「にゃっ!にゃにゃ、にゃー!」

「うんうん。そうだね。ここあまり魔物減ってないから捕り放題だね!」

「にゃ!」

「うんうん。久しぶりのダンジョン楽しいもんね」

 なんて言いながらも水分の補給とちゅーるでのねぎらい。

 そしてみんなで源泉水を飲むなかお三方は自分たちで用意した水を飲んでいた。

 そう、背中には大きなリュックに食料とかいろいろ入った自衛隊でもおなじみのキャンプ用品を背負っている。

 まだ11階を走破しただけなのにもうぐったりとしている皆様に

「荷物預かりますよ?」

 なんて声をかけても

「いや、まだこれしき……」

 なんて脳筋の人が言うけど


「ですが、皆さんの体力の消耗の激しさで予定時間は遅れています。

 我々のプライドは一刻も早くこのダンジョンを攻略して潰す事。

 この先まともに走れる地形はないと想定していますが、なのにその体たらく。

 これ以上の足手まといをするようならここで地上に戻る事をお勧めします」


 さすが林さん。

 邪魔だから帰れという事をこんなにもオブラートに包めるなんて……

 オブラートか?

 だけどこういう人たちからしたら


「いや、我々の方が間違っていた。

 助力を乞いながら予定を狂わしてまで意地を張って申し訳ない」

 

 すぐさま頭を下げる人がいた。

 伴さんだったっけ。

 話が通じる人がいてよかったと思いながらもつまりは


「あ、ならまた一緒に頑張りましょうね!」


 勇者・岳の空気を読まない無邪気な攻撃に岳初心者の皆様は顔を引きつらせるのを見て先が思いやられると林さんは頭を抱えていた。



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