何回やっても引率はつらいです

「伴です」

「加藤です」

「緒方です」


 そんなシンプルな紹介。他に何かあるだろうと思うも

「冒険者の彼らの方は資料でも知っているだろうから紹介は省略させてもらう」

 無駄は一切無視の結城さんの言葉に俺の無言の訴えは軽く無視された。

 さらに悔しい事にお三方は俺達の紹介ないなんて必要ないという様に頷いてくれる。

 三人の並ぶ姿勢と言うか態度が初めて会った時の千賀さん達と似てるというか、結城さんが三人並んでいるというかどう考えても公務員だよなと言うような毛足の短い髪型とか一糸乱れぬ自衛隊によく似た服装の着こなしとか


「公安ですか?」


 勇者・岳があえて聞かない、聞けないようなことをもろに聞いてくれた。

 岳、マジ勇者だと花梨と共に驚きに冷や汗を流すもそこではいと返事は言わないだろうことは理解しているが

「似たような公務員だ」

 返事がもらえたのは嬉しいが俺の想像とは微妙に違うらしい。

 となるとこのお池ダンジョンの持ち主がらみか、セキュリティポリスと言うか俺達の知らない謎の部署の方達だろうかといくら考えてみてもあまり仲良くというかお知り合いなっておかない方が良かろうと俺は岳がこれ以上突っ込まないように話を切り替えた。

「ではざっくり予定を説明します。

 これから二時間かけて10階へと向かいます。そこで小休憩と昼食をとってから15階に向かいます。15階までは皆さんの方が詳しいので案内して頂いて最短で目指したいと思います。

 15階攻略後にそこで一泊して20階まで一日かけて向かいます。同じく19階で一泊して20階撃破に向けて体調を整えます。

 20階は天使と蝙蝠男の二連続になりますが何が起きるか分かりませんが何が起きるかわからないのがダンジョンなのでさらに戦闘が始まる事を予想しておいてください。

 工藤は全員生還の為に20階になったらスキルを使います。スキルについては知っていると思いますのでそこは今回の魔物の討伐の報酬の中から頂きます。皆さんの命の料金だと思ってください。

 ざっとですがこんな工程です。問題がなければとりあえずついてくることに集中してください。

 あとダンジョンに持ち込んだもの全部撤去はお済ですか?」

 聞けば頷いていた。

「この入り口から搬入した物はうまく隠してたつもりのものでもすべてダンジョンが放出しますのでこの家の方の池の周囲が破壊、最悪は近くにいた人が巻き込まれる事となるので撤去をお願いします。

 因みに自衛隊から依頼されたビーコンを出す機械を上手く隠したつもりでもやっぱり排出されたので上手くやったつもりの物なんてない事を理解して俺達が攻略している合間に撤去をお願いします。

 攻略後俺達が排出されると同時に一緒に排出されて、あの秋葉ダンジョンの様な惨劇になります。何かあればこの二日の間のうちに撤去をよろしくお願いします」

 カーテンの向こう側にいる人たちに向かって言う。

 ぐるりと囲まれている事は分かっていたけど鑑定すれば本当に囲まれていたから怖いなと震えてしまいそうだ。震えないけど参考資料の10階までのマップをもらって必要な通路だけ頭に叩き込めば

「じゃあ、先に雪に先行してもらいますが、今俺たち以外に誰か入ってますか?」

 聞けば伴さんだったか三人の中で小柄な人が

「いえ、結城一佐から君たちが行動しやすいように人はいない方がいいと聞いているので撤収はしている」

 その言葉に俺は小さく頷いて

「じゃあ雪、とりあえず10階で合流だ。知らないダンジョンだから11階より先に行ったらだめだからね」

「にゃ!」

 言えば尻尾が水平に伸ばされたと思えばダンジョンに飛び込んで

「一瞬で消えた……」

「資料や映像で見ていたが……」

「本当に猫がダンジョンでレベルアップしていたんだな」

 そこか?

 感心するところそこなのか?

 もっと雪の美しい筋肉が躍動する走る姿とか見るべきところがあるだろう?それより前に

「うちの雪しゃん最強なので」

「ナンバー2なのは実力っすよ!」

 ナンバー3が誇らしげに言えば皆様の困惑した顔。

 人が猫に負ける時代が来たのか、なんて顔はまだ信じられないという顔に

「因みに皆さんレベルは?」

「全員30まで上げている」

 聞いておきながらステータスを見れば確かにレベル30を少し超えたあたりまでがんばって上げてくれたようだ。

 正直14階までだとそれが限界なんだよなとみんなでレベルを上げた苦労を知っているからのこの伸びどまりまで持ってきてくれたのをありがたく思うも

「それでも15階のマゾは厳しいです。ですがフォロー入れるのでマゾを倒すコツをつかんでください」

「フォロー……」

 俺達みたいな冒険者にフォロー入れられるのは屈辱だろうけど俺は気づいてないという様に

「そうやって自衛隊から預かった学生さん達の訓練をしてきました実績はあります。

 目指せレベル40!頑張りましょう!」

 ガラにもなくハイテンションな陽キャな俺に皆様警戒心MAX。

 ほっとけ、俺だって鳥肌が立つのを我慢してやってるんだから少しは付き合えという様に初めましてのダンジョンに侵入して

「とりあえずはお互い10階まで軽く流しましょう!」

 それを合図に走り出す。

 千賀さんと林さんはお三方のフォローに入るように足並みをそろえ、俺は毒霧を撒きながら二時間ペースで流すように走るも千賀さん達と距離はどんどん開いていく。

 まあ、10階までなら距離が開いても問題ないから俺達は少しスピードを上げる。

 岳と花梨も俺と並びながら11階以降がどんな所かキャッキャと盛り上がる中、背後の公務員ご一行は俺達の事の情報交換をしていた。

 別に今更だから気にしないけど、変な事は言わないでくれよと今後こちらに来るたびにお付き合いしなくてはいけないのかと思うと胃がキリキリする。

 だけどとりあえず今は

「10階についたら着替えたいかも!

 やっぱり靴とか服とかこの格好じゃ走りづらい!」

 花梨の叫び声に

「分かるー。なんだかんだ言ってマゾシューズ足が痛くならないしな!」

「それー!」

 因みに岳はクロックスで花梨は少しヒールのあるものを履いている。

 大学に向かう前に着替えるつもりだったから車の中で楽な格好を選んだ結果、間違ってもダンジョンに潜る服装じゃない事は確か。

 ああ、こういう所でも俺達白い目で見られてたんだな……

 着替えさせてくれなかった結城さんを恨むのは当然だと思い、急いで雪が待つ10階に向かい、皆様が来るまでにログハウスを出して着替えたはいいけど


「ログハウス……」

「一体いつの間に建てたんだ」

「そしてキャンプか。資料で知っていたとはいえ……」


 お三方の感情のない視線と声。

 本来ダンジョン踏破する俺達に向けられるのは尊敬の眼差しなはずなのになんでこんな蔑むような視線を向けられるのか本当に意味が分かんない。

 とはいえ何度目かの体験。大丈夫。もう慣れたし……

 負けないもん。

 俺達はちゃんとユニフォームに着替えてお昼ご飯の準備をして待っていただけなのになんで白い目で見られるのかと千賀さんに訴えても

「俺達は慣れたがこれが普通の反応だ」

 全く理解できない言葉。

 だけど前もって作っていた料理を花梨が温めなおして出せば皆さん嬉しそうな顔で食べまくるから……


「麻痺にでもかかりながらトイレにこもる事になればいいのに」


 残念な事に俺の呪いは花梨の純粋な料理への愛情の前に阻まれるのだった。

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