お池づくりには全力で反対します
来たばかりだというのに車に乗って移動する。
なかなかどうしてあれだけの人を集めての盛大なお出迎えだったと思ったのに車に乗る時にはその影も形もない。
なんという新手の嫌がらせだろうか。
単に後片付けが速かっただけだろうかと思う事にして今時座り心地の良くない席へと座る。
途中今回の案内役の斎藤さんから11階以降の様子を聞く。
家とさほど変わりがないというがさすがにマゾ部屋までは侵入はしていないそうだ。
まあ、レベル30でもきついからね。
そして今回潜る事になるダンジョンは秋葉ほどではないけどそれなりに年季も入っているらしい。
俺達が提供した映像から小象確定だろうからと躊躇っているそうだ。
こういう所自衛官でもそうなのかと妙な仲間意識が芽生えそうになるけど、ちらりとダッシュボードでくつろぐ雪を見れば小象だって雪から見たははるかに巨大生物。かわいいなんてどこが?と返されそうなのでマゾ部屋の小象たちは雪に任すことにする。
やがて都内に入った所で岳はヘッドホン、俺達は耳栓をしてさらにアイマスクをするように促された。
それを装着する前に
「寝てってもいいぞ。だけどマスクと耳栓、ヘッドホンは取るなよ」
結城さんの圧のあるお言葉。
俺たち三人は頷くも雪だけがまだまだ優雅にダッシュボードで伸びていた。
景色の良い定位置、雪しゃんかわいい。
結城さんに写真だけとらせてとせがんでからの装備の装着の前に雪しゃんのかわいさにメロメロになるがいいと写真の枚数を増やし続けたていたらいい加減にしろと怒られた。こんなにもかわいいのに解せん。
そして迎えた真っ暗で無音の世界。
「ちゃんと聞こえないし見えないもんだな」
言うも何の返事はない。聞こえないし見えないのだから当たり前。
少し不安になるもその瞬間足の上に確かな重み。
恐る恐るという様に手を伸ばせばそこには雪がいて……
さすが猫の群れを率いるボス。できる猫は違うと頭と背中の位置を確認して数回撫でてから怒られる前に俺は寝る事を選択した。
気持ちよく寝ていた所をグラグラと肩を揺らされて目が覚める。
それと同時に耳栓を取られ
「目的地に到着した。そして涎を拭け。また耳栓するが案内されるままついてくるんだ。できるな?沢田君も岳も一緒だから安心しろ」
結城さんの声で、宣言通りすぐに耳栓をつけられた。
まだ寝ぼけている頭でも寝る前の状況を思い出せばすぐにうんと頷く。
言われた通り涎を拭けば同時に肩にしたたかな重み。
雪が肩に飛び乗ったことを理解すれば怖いものなしだ。
俺の手を引っ張る人に導かれるように足を進める。
足元はアスファルトかどうかわからないけど小石一つない平らな道だった。
周囲のざわめきは分からないが……
都会なのに緑の濃い匂いがする。
さらに水の匂いもして、肌に感じる温度と天気予報を考えれば打ち水の匂いだと判断する。
さてここは何処かな?なんて思うくらい耳栓のおかげで静寂の世界。
真っ暗闇は慣れているけど、こんな数センチ先も見えない世界は恐怖でしかない。
とはいえ誰の手か知らないけど……
鑑定したら橘さんだった。
便利だなこのスキルw
目が見えないは関係ないのは当たり前かといつの間にか視覚情報に頼らなくてもわかるようになったのはやっぱりスキルレベルが上がっただからだろうか。こうなると周囲に気付かれずに鑑定できるなとなんだか得した気分になってしまった。
見えなくてもきょろきょろと頭を巡らせれば知ってる名前はちゃんとある。
先行する結城さんと斎藤さん。続いて千賀さん。三輪さんと林さんが花梨と岳を案内してくれている。
そしてなぜだか工藤が一番後ろからついてくる。
とりあえず人の名前は知らない人を含めてわかったけど、周囲を鑑定しても建築物とか木とかそんな情報しか得ることが出来なかった。まだダンジョンに取り込まれてないからなのかな?なんて考えてみた。
ちなみに名前は分かっても職業まではさすがに分からなかった。農家とか公務員とか表示されても困るし、ましてやニートとか引きこもりとか判定されたら立ち直れないかもしれない。職業情報はない方がいいと確信した。
ダンジョン内だったら有能だったったスキルもまだ知らない世界の情報には疎いのか?
今度借金鳥に聞いてみたいと思うけどそもそもこういった内容が通じるのかそこから疑問。まあ、何とかなるだろう……不安しかないけど。
それはさておき結構歩かされている。
なんというか方向感覚が分からなくて距離感も無くなってるけど工藤が近づいてきたと思えば耳栓をとってくれた。
「あと三歩で止まるぞ。さん、に、いち、すとーっぷ」
そんなゆるいカウントダウン。
橘さんの案内分かりやすくて良かったです。
とりあえずまだ目隠しはされているので両手を橘さんの手にまだ乗せてマテの状態。結構間抜けじゃね?なんて思ったけどすぐに
「目隠し外していいぞ」
なんて許可に眩しさに耐えるように目を瞑りながらアイマスクを外せば
「なんっすかこの真っ黒な空間」
「うわっ、なんかやばい儀式でもやるの?」
「普通に怖いわよ」
四方も上空も黒い幕でおおわれていた場所に俺達はドン引きだ。
振り向けばすでにカーテンは下ろされていて、LEDライトの灯りだけがまぶしかった。
たっぷりとした余裕ある布はそれでも簡単に周囲が見えないように床接地面には重りがしっかりついていて、光さえ通さない厚手の布は季節がら気温はもちろん恐ろしいほどに外部の情報を絶ってくれた。
そして不気味なほどに周囲の音が聞こえず、車の音どころか人の気配もしない。実際は周囲に自衛隊の人がいっぱいいるのだけど、この厚手のカーテンのせいでそこに人がいるとは全然思えなかった。
だけど俺達がここが目的地だというのを理解できたのは綺麗に掃除をしたコンクリートを流した池の底には見慣れた古びたレンガ造りのダンジョンの入り口が待ち構えていたから。
これが唯一の俺達の現在地の情報になる。
「もう池の臭いもなくなっちゃったんだね」
岳が少しだけ寂しそうに言えば
「さっさとダンジョンを潰してまた池に水を張って鯉でも放せばそのうち元通りになるさ」
ここが人口の池なら何度だって元通りになるという様に言えば
「ねえ相沢」
「なんだ?」
たぶんここで飼われていた鯉たちはどうなんたんだろうと少しセンチメンタル気味になっている岳を想像して気を遣う様に返事をすれば
「今度相沢の家の所でも池を作って川で釣って来た魚を放流してみない?俺面倒見るからさ、釣り堀みたいにお魚いっぱい育てようよ。お魚食べ放題だよ?」
「悪いな。俺川魚より海の魚の方が好きだから却下だ」
「えー?」
えー? じゃねえ。俺の気遣い返せっていうか
「やっぱり岳だよね、こういう所」
花梨のどこか懐かしそうな笑い方に今も俺の知らない昔の岳も変わらない事を理解すれば
「岳のこういうところ建設的でいいんじゃね?
だけど池は作らないけどな」
お魚のお世話はしません。野生動物を招き入れる事もしないし万が一雪が池ポチャしたらどうすると考えれば必要ないだろうと俺の中での決定した。
「じゃあ、これから同行してもらう人を紹介する」
すでに待機していたのかダンジョンの中から三人の、いかにも公務員ですって言う人がやってきて、公務員ですというような立ち姿にやっぱりかと言う様にため息を落とすのだった。
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