次なるダンジョンは……

 痛くはなくても頭を抱えてもんどりうってしまうのはその痛みを知る経験からだ。

 こういった事は反射のせいでついついやってしまう。

 そこはお医者様(藪)の林さん。分かってらっしゃるようなのでおもいっきり馬鹿だろうという顔で俺を見る。

 とはいえ慣れた俺としては少し恥ずかしくもあるが……

 そんな俺の隣に立つのは有無を言わせぬ謎の迫力を持つ結城さん。

 見上げてわかったけどこの人姿勢が良いんだよね。知ってたけど。

 いや、皆さん皆姿勢いいけど、その姿勢の良さに迫力が付いてくるのは橘さんや三輪さんにない人生の深さと言うものだろう。 

 単なる顔の皺と言えば苦労してるのねと軽くなってしまうけどね。

 そんなお顔が珍しく何か言いたそうに、でもいうべきかと言うような迷いを浮かべながらも一呼吸してから選んだ言葉は

「斎藤、次の目的のダンジョンについての話を」

 あくまでもビジネスライクな関係を保ちたいようだ。

 その顔でねこちゃんとかいってメロメロになってたくせにね。

 いくら緊張感を持たせた顔をしてても俺の中ではもう猫ちゃんを連発するおっさんにしか見えませんよと笑っておく。

 そんな俺の内心なんて知らないという様に斎藤さんがやってきて


「今回皆様に挑戦してもらうダンジョンは都内の某所と言うしかありません。

 私有地であり、依頼者もこの事を周囲の皆様に不安にさせないように秘密としています」

「はーい質問。都内、私有地で秘密って無理じゃないですか?」

 言えば斎藤さんはひとつ頷いて

「そこは今回の場所柄人の出入りが多い場所なので上手く混じって出入りしているから気付かれていない。よって出入りをする際はこちらで用意した服に着替えてもらい、ダンジョン内で動きやすい服装に着替えてもらえればと思う。

 沢田君に関してはすでに待機している女性隊員が保護してくれているので安心してもらえればと思う」

 なんて言うけど花梨と他の女の子の謎なくらいの相性の悪さに

「雪、その時は雪が花梨を守ってくれな?」

「なー」

 うちの雪しゃんはちゃんとお返事が出来る天才。

 その素晴らしさにこみあげるものがある。

「斎藤、悪いが雪が沢田君をガードするからそこは心配するな」

 なんて千賀さんの遠回しな気の使い方。

 俺達を良く知らない斎藤さんは不思議そうな顔をするが

「彼女をへたに女子たちと絡ませると彼女が碌な目に合わない謎の現象を生み出します。その結果絡んだ女子たちが若い身空で破滅していくのを見るのは我々も勘弁してほしいのでその塩梅間違えないように」

「なかなか厄介な体質ですねって言うか破滅って怖いんですけど林さん」

「工藤班女子はともかく学生たちとか、今外にいるお客様達とも下手に関わらせたくない。お前も部下がかわいかったら極力関わらせるな」

「林さん、何気に失礼ですね」

 花梨が起こっているものの林さんは俺を見るような目で

「いい加減自覚を持ちなさいデバッファー」

「デバフ効果だけじゃ飽き足らず人生終了まで追い込む沢田君の能力、おそろしや……」

 千賀さんも身震いして言うそんな姿に黙ってしまう斎藤班の皆様。花梨の美味しいご飯には時々罠もあるから気を付けてねと言うのはあまりに失礼な態度の為に黙っている事にする。

 いい加減にしてくれと林さんを睨めば林さんは途端に忙しそうにして

「詳しい説明は相沢達ならダンジョン内で話したほうが早いでしょう」

「林さん。それはさすがに……」

 なんて斎藤さんが気遣ってくれるけど

「移動中じゃダメなんですか?」

 何やら段ボールを運んでくる人たちを眺めながら何かのプレゼントかな?なんて思う間もなく箱から出されたヘッドホンにアイマスク。いやな予感しかしないじゃんと思う合間に

「依頼主さんの希望は場所の秘密を守ってほしいただ一つだけなので」

 目隠しして音の遮断。

 どんなヤバい所に連れていかれるんだよと思うも

「林さん、このヘッドホン俺のスマホに繋げてもいいですか?」

「いいが、音量は周囲の音が聞こえないくらいにこちらで調整させてもらうよ」

「りょー。むしろ神曲ばかり聞けるからストレスはなし!」

 どんとこいと言うが

「あ、俺耳栓でもいいですか?」

 一応選択の1つという様に段ボール箱に入っているのを目ざとく見つけ聞けば

「私も耳栓にするわ。ヘッドホンだと取った時音が聞き取りにくいから」

 周囲の音が聞こえないくらいの音量だとそうなるよなと頷くも

「そう?」

 まったく気づかない岳。ほとんど反射で戦ってるからそのあとダンジョンに潜っても問題は無いだろう。

 岳に関しては野に放ってこそ光る人材だから岳の好きなようにさせる選択は

「岳は自分の好きにやりなさい」

 千賀さんも認めるそのスタイル。

 責任者の斎藤さんの困惑ぶりが一層深くなった。

 そんな感じで俺達は斎藤さんからいくつかの説明を受けたのだが

「千賀さんはこれから行くダンジョンの事知ってるの?」

「まあ、知ってはいる。だが入ったことはない」

という事は林さんも知っているのだろう。

 知らないのは俺達だけかとそれでも外の皆様と切り離してまでの説明を受けるのにそこまで秘密にしなくちゃいけないのかと思ってふと気づいた。

「で、今度のダンジョンなんて言うダンジョンなの?」

 お寺ダンジョン、トイレダンジョンとダンジョン事い特徴をつけていろいろ呼び名はある。

 せめてそれぐらいは教えろと聞けば千賀さんは斎藤さんへと視線を向けて一つ頷いてくれた。

「そうですね。今回のダンジョンは通称お池ダンジョンと呼んでいます」

「お池って……」

 花梨が驚くのは無理もない。

 都内にお池のある個人宅ってどんだけ金持ちだよと俺だって突っ込みたい。だけどそこで岳が冷静に

「つまりお池の水全部抜いちゃったダンジョン……

 生態調査は出来なさそうだね」

 言うな。

 あえて誰も言わなかったのにと今から耳栓をしてしまえばあまりにも想像が出来すぎてぷっと笑う花梨も俺を見習って耳栓をする。

 斎藤さんも千賀さんもなんて言えば良いのか分からない顔をしてるし、トイレダンジョンほど衝撃はないから三輪さんや橘さんは動じてないけど斎藤班の皆様は何人かがさっと顔を背けたあたりやっぱりみんな一度は思ったんだね? なんて聞かないけど折角のご自慢のお池をダンジョンに変えられてしまった家の方は本当にお気の毒にと、同じく家の一部を乗っ取られた経験を持つ俺は速やかにダンジョンを破壊して平穏なお池ライフを取り戻す事に協力する事に決めた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る