とりあえず中身は楽しみにしています

 じわりじわりと金色の髪が毛先から漆黒に染まっていく。

 切り落とされた翼の部分から肉が盛り上がり、黒い何かが出てきたと思ったら真っ黒な蝙蝠みたいな羽がその背に広がって男を宙に浮かせる。

 さらには変な方向に曲がった首もゴキっと変な音を立てながら元に戻って、虹彩のない白目も真っ黒な黒い双眸が俺達を見る。

 ぞわり……

 何とも言えない寒気が背筋を這い上がる。

 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!

俺なんか変なスイッチ入れたとか……

 まさかあんなにもあっさりと倒してしまった天使様がこんな不気味な奴を呼び起こす事になるとは

「二段階変身だなんて聞いてないよっ!!!」

「何だ、その漫画みたいな発想?!」

 そう言ってバカにしてくる工藤だって声は少しこわばっている。ひょっとして

「ホラーとか苦手とか?」

「いや、フツーにゲームはするが、あれヤバい奴だろ」

「心霊写真とかに出てくる人たちの目があんなふうだからね……」

 なんてなんか会話してないと恐怖に飲まれそうだから言葉を交わすも一向に盛り上がらない。むしろ現状を確認する内容に自分たちで恐怖を正しく受け止めていて逆に笑いたくもなるがまったく笑えない。

 ただありがたい事に

「あいつさっきから口パクしてるけどなんて言ってるんだ?」

「たぶん恨み辛みだと良いななんて思ってる」

「で、よくないのは?」

「魔法とかの呪文じゃないといいけど?」

 言った瞬間俺達はその場から飛びのいて雪並みに壁走りをして離れれば俺達がいた場所に黒い塊が発生したかと思えば急速に育ち……

「マジか?ダンジョンの床とか壁がえぐれてるんだけどwww」

 笑うしかないこの状況。適当なところでクズの角を壁に刺してそこで一歩も動かずに俺達を攻撃した蝙蝠男を見下ろす。

俺の反対側には工藤がいて、雪は俺の肩に重さも感じさせずに乗っかっていた。

 さて、この状況どうするべきか。

 ここに来るまで出会ったことのないタイプ。いや居たかもしれないけど知らない所で魔法で倒してたかもしれない知識不足に少しだけ反省した完全魔法タイプの魔物。

 と思ったらいきなり自分のこぶしを胸に突き付けた。

 あげくにグロいまでに手首まで突っ込んで……

 だけど血は溢れない。

 気持ち悪い絵面だけど何を始めたかと思えばゆっくりと黒い何かを引きずり出した。

「剣が出てきただと?!」

 驚く工藤の声に

「どんなマジックだよ!」

「そこか?!」

 蝙蝠男を挟んだ距離での突っ込み。だんだんいい突っ込み要因に育ってきている。

「だってさっきまで真っ白だった服が剣が出てきたと同時に真っ黒になっただろ?!」

 こんな時じゃなければ拍手をしたいところだが蝙蝠男は禍々しいまでの血の色に似た魔力を剣から発しながら工藤に襲いかかり


 ガキッ!!!


 どこか鈍い金属音が響く中俺は真っ黒の目の蝙蝠男と工藤を背に剣を交わしていた。

「工藤、お前は自分が生き残れるために逃げ切る事がここでの勝利だ!」

「はっ!素直に聞けっていうのか?」

 鼻で笑うも声は震えていた。

 完全に工藤では処理のできないスピード。

 どう考えても工藤では無理だと思えば交えていた剣を引いて距離を取られた。

 ここからはまさかの剣での殴り合い。

 刀なら切る事が目的だけど洋剣は叩き切る事が目的。フェンシングみたいな剣だと突き刺すのが目的とはいえこの蝙蝠男の剣はどんな使い方をするかと思えば普通に殴りかかってくるようで大きく振りかぶっての……

「モーション大きすぎ!」

 俺はコンパクトに蝙蝠男が持っていた剣をマゾ剣で叩きつけた。

 

 キンッ!!!


 蝙蝠男の手から弾き飛ばした剣はそのまま回転しながら天井に突き刺さる。

 驚きで蝙蝠男は剣を見るけど手を伸ばす前に

「にゃっ」

 雪が真っ二つに処理をしてくれる。

「雪しゃんすごい!雪しゃんの爪は剣より鋭いなんてまじエクスカリバーじゃん!」

 なんて大拍手。

 少し誇らしげに着地した後胸を突き出すような姿勢で座ってくれた姿は当然写メるに決まっている。

 パシャパシャとスマホカメラのシャッターを切る俺を見てか瞬間的に蝙蝠男から表情がそぎ落とされたけどすぐさままた胸に手を突っ込んで剣を召喚。

 さっきと同等の剣が出てきて構える姿は完全に俺達を警戒する姿勢。

 服も髪も瞳も真っ黒な姿だけど残念ながら俺たち日本人の標準装備のカラーなので恐ろしさのかけらもない。

 まあ、瞳だけがホラー仕様でどこを見ているのかはわかりづらいがそこは感覚が俺達を見ているかどうか教えてくれる。


でも忘れてはいけない。

 

ここは20階。

 最悪でもレベル40の蝙蝠様。

 だけど俺は今となってはその倍近くのレベルがあり、雪だって蝙蝠男よりも上回るレベルを持つ。

 

 そんな俺達に睨まれた蝙蝠男は剣を構える手が震えていき……


「雪、借金鳥の方がよっぽどヤバイいし沢田たちも気になる。

 雑魚は蹴散らすぞ」

「なー」


 そんな相手をするまでもない蝙蝠男。

 情報収集は次からでも問題ないからと俺と雪で襲い掛かれば……


「正直に言うぞ。

 俺はお前に二度と敵対をしない」


 なぜか工藤が神妙な顔で今更宣言をしてくれた。


「それこそ意味不明なんだけど」


 だけどそれ以上工藤は何も言わず俺によって羽を落とされ、雪に三枚におろされた蝙蝠男からあふれ出した宝箱を物色する俺をただ侮蔑する眼差しで見ているのだった。




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