柔道の技なんていちいち知るわけないじゃん?そんな主張。
ごろごろ、そんな感じに工藤と俺は転がり落ちるように階段を駆け下りる事になったが、工藤を咥えたままの雪はそのまま壁を走りなあら俺達についてきた。
ただ、俺達に手を伸ばしていた沢田たちはだんだん見えなくなっていき、扉が閉ざされた。
なだれ込むように20階のフロアに落ちた俺は急いで源泉水を飲む。もちろん工藤にも飲ませ、雪にも飲ませる。
最低限これでコンディションは問題ない。
俺はさらにカメラの準備をして……
「おい、おま、それいま必要か?」
工藤に突っ込まされてしまった。
だけど俺は
「情報は一つでも残すのが攻略の糸口だろ?!
ここで負けてもどこかに出没する宝箱で見つけてもらえるかもしれないじゃないか!」
それが攻略の糸口になるはずと言ってみても胡散臭そうな目で見られるのは解せん。
そして今までのボス部屋と同じく光の奔流があふれ出して形を作っていく様子に雪はフーッ!なんて威嚇する中、俺は魔象の牙で作られた剣を手にして迎え撃つ準備をする。
さらには工藤の顔を見て
「一番得意なの格闘家だったか?」
聞けば眉間を寄せた顔のまま「ああ」とだけ返事。
それを聞いて称号を冒険者から格闘家に変えながら
「最悪金の亡者で対応ヨロ」
「っざけんな!って言うか攻略の糸口は?!」
なんて吠えられてしまった。ひょっとしてこれはモラハラかと思う前に
「初対面の相手に攻略も対策なんてあるわけないじゃん」
当然と言う様に言えば工藤の絶望した顔。
いいね、その顔。
こんな時じゃなきゃしばらく眺めたかったけど最低限準備できるものは準備したところで形作られる光が色を得る。
そうして俺達が対面したのは……
「あのにーちゃん羽生えてるぜ?」
「なんでリッチじゃないんだよ!!!
ヤローのはだけた胸元って誰得だよ!」
「シェフのねーちゃんとか?」
「あ、あるかも」
謎の冷静な工藤に俺も冷静になるも予想を大きく裏切って天使が俺達の目の前にぷかぷか浮いていた。
そりゃまあ、恐怖を与えながら死に導く悪魔か安らかに死を与える天使かの大まかな二択かもしれないけど
「19階で見る骸骨を見たら天使なんているわけないじゃんって普通思うだろ?」
なんて雪に語るも
「なー」
知るわけないだろと返されてしまう。
それよりもだ。
「おい、俺は飛べねーぞ」
「俺だって飛べるわけないだろ」
なんてお互いの欠点を言い合うもそこは
「雪に任せよう」
「だな」
なんてゆっくりと目を俺達をごみのように見下ろす天使様に雪はヤル気だった。
いや、雪はいつもヤル気だけどさと思うもさっそくという様にその真っ白な体を包むくらいの翼をいきなり爪で落とそうととびかかる仕事の速さ。さすがの天使様もびっくりのようだ。
「雪しゃんさすがでしゅ!」
「だけどもう1枚……しゅ?」
なんか変じゃね?なんて工藤なんかに見られてもそこは気にしない。
今は工藤の突っ込みは全力スルー状態なくらいに雪の活躍をこの両目で記憶するのに忙しいから工藤の突っ込みも俺の耳には残っていないが
「それよりも工藤、借金鳥は?」
そこは気になる所。雪の活躍を見るためにも確認を取れば
「あ、ああ……そういえばいねーな」
「よしっ!
鳥頭がいなけりゃ雪しゃんを全力で応援するぞ!」
「……」
援護じゃないのかよと突っ込む言葉すら出し損ねた工藤と何気に雪が俺の隣にやってきたかと思ったら軽くジャンプして俺の顔に猫パンチ(爪付き)に見事頬に朱線が走った。だけど
「あざーっす!」
「な……」
ぴょんと雪が俺から飛びのいたのは少し傷つく。
「おま、主人変えた方がいいぞ?」
「……」
俺は雪に気合をもらったつもりだったのにドン引きする雪と工藤。何が悪いんだようと思うもその間にばさりと1枚だけになった翼をはばたかせた天使はすぐに俺達に向かってきた。
声は出さずになにかをいっている。口をパクパクとしている様子に
「あいつ何て言ってるんだ?!」
工藤が眉を顰めるも
「俺達に聞き取れない周波数な以上交渉する余地はなし!」
俺もマゾ剣で天使様を迎え撃つように構えていれば俺と目が合った天使様は視線事笑うもその笑顔は横にぶれる。
「っ!!!」
驚いたという顔だったけど、俺的には雪が横から突っ込んでいたのが見えていたので動揺なんてしない。
何気に工藤がびくっとした方が俺は驚いたけど、雪はそのままあのかわいらしい尻尾で天使様の横っ面を叩いて床に叩き落とすそんなコンボ。
「雪しゃんさしゅがでしゅ!」
なんてスタンディングオベーション。
さりげなく工藤も俺から一歩逃げた。
床にたたきつけられた天使はすぐに天井の方に逃げるも
「片翼の天使、それもかっこいいけど、どうせなら翼のない天使、そっちの方がいいと思わないか?」
逃げた先の天井に両足をついて俺は天使を待ち構えていた。
「え?は?」
さっきまで隣にいたはずの俺がいつの間にか天井に張り付いているのを見て工藤が慌てている様子なんて見る価値ないが、悲しい事に視界に入ってしまうのであいついつからコメディ要員になったんだと小首をかしげたところで俺はマゾ剣でその残っていた翼を根元から切り落としていた。
「―――っっっ!!!」
さすがに天使のアイデンティティともいうべき翼を失って絶望と共に空も飛べなくなって床に落下してはいつくばっていたのには驚いたが、とりあえず切り落とされた翼に手を伸ばす天使様には申し訳ないけど
「これは勝者の物だから俺がもらう」
なんて天使の手が翼に届く直前俺は二枚の翼を収納する。
絶望の瞳が俺を見るがその前にスパーンとその体が宙を舞っていた。
「あー……」
工藤が四つん這いになって翼に手を伸ばした天使様をそのままバックドロップ。
「えー?」
普段翼に頼りきりだった生活をしていた天使なのだろうか。
ろくに両足で立つことが出来なく、あっさりと工藤につかまってからのバックドロップはきっと今まで受けた事のない攻撃だったのだろう。
なんか変な方に首が曲がって……
「ちょ、天使さん動かないんだけど?」
「はあ?単なる裏投げだろ?
ってなんでそんな風に首がおかしい方に曲がってるんだよ!!!」
「バックドロップじゃないの?」
「柔道にもある技だ!」
工藤からまさかの柔道技の名前に驚きつつも受け身なんて知らないだろう身動きしない天使様を少し不憫に思えば雪がとことことやってきて
「にゃっ!!!」
とどめを刺すという……
「俺、なんでこんなにもビビってたんだろ」
このレベル差、当然の結果だったことを魔象のせいで狂わされた感覚にこの結果を見てありえないんだけど、なんて思ったけど普通ならここでポンポン出るはずの宝箱が未だに出てないことに気付けば天使の髪がだんだん黒く染まっていくのを俺は息をのんで見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます