こっち、でいいのか?!

 胃袋を掴まれた男達の食卓が片付くのを待つようにお茶を啜る俺は満腹で腹をさする大人にはなりたくねえと密かに思った。

 とは言え食べる事も仕事のうちのおっさん達を満足させるとはさすが沢田だねと今までの調教の成果は見事と言うしかない。

 だけど腹を満たした所でやっと落ち着いたのか冷静になれた皆様は当たり前の顔で俺と同じように茶を啜っていた。たくましい。

 

「さて、話に聞いていた人型の魔物がいない理由を聞いてもいいか?」


 さんざん人を待たせておいてのそれ。いくらこのメンツの司会進行役とは言えしまらないなと思いながら

「川の水の残りで一気に城から押し出しました」

「相変わらず身もふたもないな」

 なんて素敵な感想をいただいた。

「なるほど。だから城の周囲が水浸しだったのか」

 三輪さんが納得と言うように声を上げてくれた。

「じゃあ、せんこー臭えのはなんだ?」

 工藤の疑問には

「んなのたまたまお線香を持ってたから一箱開けて色んなところでお線香を焚いただけだよ」

「むしろ線香を持ってる方が疑問だろ」

 工藤のツッコミにそうか?なんて首を傾げながら

「雑草を刈ったりしてた時に宅配便を受け取って収納したままだっただけだよ」

「んなもんネットで買うのか?」

 それほど驚くことかと思っていれば

「うちは食料の取り扱いだからね。雑貨はちょっとしか置いてないから」

 何て岳の説明。

 そう……

「お線香の為にわざわざ山を降りる必要ないしな」

「だから宅配便を使うか」

 呆れたような林さんの言葉だけど

「この地域、大手スーパーの宅配サービスエリアから外れているんですよ。かと言って生協でお願いするほど毎回買い物なんて無いし」

 さらに今なら橘さん達が買い物に行く時ついでにお願いすれば必要最低限のものは手に入る。

 だけどお線香は千賀さん達には関係のないものなので自力で手に入れる程度には弁えてるつもり。その結果が宅配だっただけの話。

「他にも色々ついでに買ってるし、生存報告にもなってるから積極的に使うようにしてるし?」

 誰に対してと言うわけではないが、それでも婆ちゃんの知り合い飲んで人達には相沢さんのお孫さん元気ねえ、って言われる程度には交流を持っている。そして沢田が来て以来沢田の作り置きの料理のお裾分けを渡しているのは……

 沢田の実家へのちょっとした嫌がらせなことは伏せておこう。

 効果の程は千賀さん達を見れば分かる通り宅配便のおばちゃんに休憩の時にみんなで食べてと渡したおやつから始めて大量に作る煮物もタッパーに詰めて渡したりしている。

 これが結構効果があって宅配が来るたびに美味しかったと言う感想とお礼の野菜がやってくる。

 勿論沢田もこの村の生まれと育ち。

 その野菜で料理してまたお渡しする田舎の付き合い方も心得ていて最初こそ

「ああ、お蕎麦屋のお嬢さんの……」

 なんて言われたけど、きちんと勉強してダンジョン産のお肉から取った出汁で作る料理の数々は確実に黙らす効果があり、風の噂では

「あんなにちゃんとお勉強をしてきた子を追い出すなんて……」

 確実に味方は増えている。

 むしろ努力して戻ってきた娘(?)を店を継ぐ姉夫婦(?)との同居に邪魔だから追い出したと言う鬼の住む家仕立てで村中に密かに広まっているらしいというのは岳の母親からの情報。

 知らないのは沢田の実家だけと言う、俺の時も思ったけどほんと田舎の謎の連携って怖いなと震えてしまう。

 まあ、それでみんな沢田の実家に足を運ばないと言うような村八分みたいな事はしないけど、売り上げが落ちているのは確実だ。駐車場ガラガラだって林さんも心配げに教えてくれたがそこは沢田の家の問題だから俺が口を挟むつもりはない。


「それよりもさ、あの借金鳥はあれからどうだった?」


 再び姿を現したかどうか聞けば


「ありがたいことに出てこなかったぞ」

 とどこかほっとするように千賀さんが言えば

「まあ、物理的な攻撃は有効とわかっただけありがたかったな」

 工藤も珍しいことにしみじみと言う。

「切ってもすぐくっつくし、魔法は効かない。逃げるしかないのかって思っていたらあんな方法でぶっ飛ばせるなんてな」

 呆れた声だが

「まあ、水魔法であの威力はまず無理だけどそこは考えてどうにか対応するさ」

 長期的展望な言い方にあの借金鳥にまじめに返そうとしている姿はなんか意外で……


「なんだよ」

「単に驚いただけ」


言えばちっと舌打ちをされてしまった。おもしろー。

 そんな反応されるとニヤニヤするじゃないかと工藤を見れば


シャーッッッ!!


 さっきまで寝ていたはずの雪がいきなり起き上がって唸りながら毛を逆立てれば、部屋の入り口には今話題にあげていた借金鳥がそこにいた。

 一気に緊張が走る中でも既に対応に慣れた工藤はいち早く走り出していたがそこは工藤を捕まえるつもりなのかわからんけど借金鳥も目の前にいて、一瞬でみんなパニックになる。


「きゃっ!」

「うわっ」


 驚いて後退った沢田と林さんがぶつかり、それによって工藤の進行方向が妨げられ……

 工藤の背後にいつの間にか忍び寄っていた借金鳥を見て


「逃げるぞっ!!」


 借金鳥が工藤を捕まえるよりも早く雪が工藤を咥えて飛び出したけど三輪さんとぶつかって倒れた先はまさかの20階への入り口だった。

 ゆっくりと開いていくその扉に全員息を飲むけど、俺はどっちがマシか?なんて考えるよりも前に工藤を掴んでその扉の中へと飛び込んでいた。

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