あとは林さんに任せます。岳談。

 栗をたんまりと採ってからもてくてくと歩く。

 てくてくというか千賀さんははあはあしているけど。

 こういう時やっぱりダンジョンじゃないんだと思うのは俺が平地を歩くように急な山道を登り、千賀さんは片手でも手を使ってなだらかとはいいがたい崖を登っているから。

 がんばれ。

 80を過ぎた婆ちゃんでも登れた崖だと落下しても支えられるように下から補助するように待機する俺は純粋に落下事故につながらないように気を使うだけ。

 このおっさんダンジョンで足技を鍛えているだけに足腰がどっしりしているから心配ないけど、それでも万が一というのがある。

 個人的にはもうこのおっさんに何も失わないでほしいという勝手な俺の希望なだけだけど。

 一応ダンジョンでステータスが上がった体で鍛えたとはいえ実際の肉体も鍛えられている。

 ステータス頼みのダンジョンだけど実際にフルマラソン何本分も走ったりした肉体は確かに疲れをおぼえるし……

 ドーピングして回復するけど回復したそばからまた体を苛め抜くのだからそれなりに体は鍛えられている。

 昼夜逆転生活にレトルトでインスタントな食事中心で仕上がっただらしない体はいつの間にか縦割れ腹筋の理想な肉体になっていたのが証拠。

 腕はもちろん肩回り、そして背中にも筋肉がついていて……


「相沢はもともとガリガリだから筋肉つかないんだよ」

 

 なんて言った岳はぽっちゃり系とは言わない。がっちり系ではないけど肉付きがいい。そんな柔と剛が合わさった感じ。

 悪く言えば欲望のままに、だけど酷使される存在。

 沢田と俺の合わせ技によって仕上がった岳が脱げば


「ボディビルダー?」

「そこまで筋肉ついてないよ」


 いや、俺から見れば十分ボディビルダーっぽいんだけど。

 実際はボディビルダーほどではないのはわかっているんだけど。

 だけど俺が知ってる筋肉の持ち主の……


「千賀さんたちほどではないか」


 プロテインを飲む程度にはあこがれた筋肉は大したものではないというか一昼夜ではどうしようもない事だけは理解して、ダンジョンからGが出てこないように見張りながらプロテインをポチっていた程度の努力。

 仕方がないこの村ではプロテインなんて売っていない。

 隣の町では売っているかもしれないけど……


 そんな盛っただけの筋肉ではない実用的な筋肉の体を持つ千賀さんを見れば時間をかけて筋肉の繊維一つ一つを鍛え上げるしかない。

 

 そんな根性は俺にないけどね。


 だけど俺の指示を受けて先導するように走る千賀さんは俺にはない根性で、数々の悲劇さえ乗り越えて来たかは知らないけどそれでも突っ走るという背中を俺に見せてくれて……


「千賀さんちょっと待って!」


 その足を止めさせる。

 息を弾ませながら足を俺が立ち止まったところまで戻ってきた千賀さんに俺は手招きして崖を、崖に生えた木を足掛かりに滑り落ちるように、まねをするように手招きして……


「秋の味覚の王様を発見」

「こ、これは……」

 

 驚く千賀さんはきっと初めて見たのだろう。


「千賀さんマツタケ狩りしたことないの?」

「普通に買ったこともないんだけど、うおおお?!」


 謎に興奮する千賀さんにマツタケの根元をもって揺らすようにして抜くことを教え、何本か抜いた所で千賀さんを掴み、謎な悲鳴とともに俺は大きくジャンプした。


「あああっ!!!まだあんなにもあったのに!!!」

「菌類、菌がなければ生き残れないから」

「食べられる菌類を菌類ひとまとめにしないで!!!」


 そんな千賀の、叫びに頷いてしまうものの

「全滅させたら復活しないから」

「分かってる!分かってるけどそう言わずにはいられないだけだ!!!」

 謎に声を張り上げて俺に言い訳する千賀さんはたぶんではなくマツタケの採り放題な状態にもっと採りたいという、どんな小学生だよという状態なだけ。

 マツタケの生息地から遠く離れたそこまでの道のりもわからない村道にたどり着いたところで千賀さんを離す。

 ポトリと落ちた千賀さんはアスファルトの上に大の字になって


「こうやって通常状態でダンジョンの力に触れるというのはなかなかない貴重な体験だな」


 それがどこか俺が危険人物という事を指摘されているようで知らず知らず唇を噛んでしまうが、それを知ってか知らないでか俺を背にしたまま千賀さんは笑う。

 

「なかなかない貴重な体験だ。

 そして頼もしく思う」


 一度でもダンジョンからあふれ出た魔物と対峙したことのある人の言葉。

 恐怖と安心、分かりやすい二律背反にやはり俺がどこかおかしい状態なことを改めて理解していれば


「君にこのジェットコースターな気分を味わせてやれないのが残念だ」


 そんなわけのわからない


「なにそれ」


 なんて苦笑したくなる言葉に千賀さんはにやりと笑い


「股がきゅっとなるくらいのスリル、しばらく味わったことないだろ?」

「まあ、だけどあれは工藤の時のアレで十分です」


 言えば千賀さんは人目もないことをいいことに腹の底から笑ったと思ったら


「学生を帰した日に水井と一緒に20階攻略をしよう」


 そんな何かを秘めたような視線。

 俺的にはレベルが足りないと言いたかったけど


「いつまでも相沢を一人で世界の犠牲にさせたくない」


 国の実験台、そんな副音声が聞こえてきたけど俺はにやりと笑い


「俺より雪の力を過信する奴らに一泡吹かせてやりますよ」


 ポンと、失った手の肩を叩きながら俺はマツタケと栗を入れたかごを背負いこれから軽く二時間ほど歩く道のりを思い出せば


「千賀さん、汽水湖行きません?

 岳呼び出すんで少し休憩でもしましょうか」

「そういや観光MAPに載ってたが、見たことはないな」

「ボート貸し出ししてますよ?」

「野郎と乗る気にはならんな」

「同じく」

 そうやって笑いながら三十分ほど歩いてたどり着いたボート小屋のお姉さんにスマホを借りて岳に迎えに来てもらい


「ちょっと!なんで家の山に入ったと思ったらこんな所に来ているんだよ!!!」


 ほんとにいた?!と驚く視線に俺は笑いながらかごの中の戦利品を見せれば仕方がないなという様子に車に乗り込めばなぜか不気味な笑顔で待ち構えていた林さんにこってりとしぼられるのは言うまでもない。








 

 

 





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