逃げるが勝ちとはよくいったものだ

「まあ、どの班に振り分けられてもこういった名物はあって、配属された新人への自己紹介代わりの洗礼だからそれを乗り越えて一人前になるんだ。橘も頑張ったな?」

「す……」


 なんて褒められて嬉しそうにする橘さん。うやむやにされてますよなんて誰か言ってあげてくださいと突っ込みたいけどそこで学生の皆さんが戻って来た。

 そんな皆さんに沢田は飛び切りの笑顔で


「お疲れさま!ご飯用意できました!

 天気がいいので庭に用意してあるからいっぱい食べてくださいね!」


 なんて朝からヘビー級な魔物肉料理のオンパレード。

 しかも慣れない標高に馴染んでない体での無茶に思いっきりゲロった後のこの料理。

 思いっきり顔を引きつらせているけどベテランの皆さまを見てみるがいい。


「お、今日も美味しそうな料理だな」

「朝はタンパク質をしっかりとらないといけないですからね」

「逆に俺は食べ過ぎるとこの後眠くなる作業が待っているからほどほどにしないとな」

「あー、橘は見張り番か」


 なんて言いながらさっそくもりもりと食べ始める千賀さん達の姿を見て俺達も食べよう、だけど青白い顔をしている皆さんは当然ながらそこまで食べることが出来ず……


「高山病がこれ以上酷くならないように今日のトレーニングはそこでロッククライミングぐらいですね」


「ふん、軟弱な」


 三輪さんと千賀さんのそんな評価に選抜隊の皆さんはダンジョン以外ではまだまだ未熟な事を理解出来たようだ。


「ダンジョン対策課に入れたからと言ってもダンジョン内の訓練なんて学校の授業以上に出来ないからちゃんと食ってこういうチャンスを有効に活用して鍛えろよ」


 なんて分厚いステーキにかぶりつく千賀さん。

 悪いけど朝飯食べた後とは言え千賀さんの食事風景を見てるだけで胃もたれを起こしそうです。

 なので逃げるようにそそくさと俺は電鋸をもって丸太を切る事にする。薪にするためにサイズをきちんと整えないと管理するにも大変だからと岳もいつ雨が降るか分からないから手伝うよと自分の電鋸をもってやってきてくれた。

 そこまで準備しておけば後は片付けておく納屋の中でも薪割は出来るからと雨に濡れない事を優先してささっと手伝ってくれるのだった。

 出来る友人を持つ俺って幸せだなとさっくりと切った後は持って重いものは俺がしゅっと収納してカモフラの為にもいくつか手にして運んだりしてちゃちゃっと終わらせるのだった。

 山に放置したとはいえ薪を割って二、三年放置すると脂分が抜けて煙が出なかったり釜の中が汚れなかったりするけど五右衛門風呂だからそんなしっかり乾かした木でもなくて十分だけど沢田に使ってもらう薪に関してはしっかり乾いたものを使ってほしいと思ってる。

 だって大好きな土間台所で二酸化炭素中毒で一人…… なんてなったら目も当てられないだろう。って言うか絶対そんな状況耐えれないしそうなったらダンジョンなんか無視して山にこもって二度と出てこない気がする。

 まあそんな妄想は置いておいて


「おーい相沢!」


 林さんがやって来た。

 どうやら交代の時間を迎えた様で満足げな顔をしている所をみると一人遅いごはんを食べ終えた所だろう。

 少し目の下に隈が出来ているあたり心配だがこれから寝るのなら心配なんて必要がない。ただし今なんかの研究をしているらしくてこのまま研究に突入したらこの後の休日を無駄にするのではないかと不安になる。


「何かありましたか?」

 こんな風に林さんがぱしらされる事は珍しいので少し緊張して聞けば

「いや、不安になる事はないのだが千賀達が橘から聞いた話で崖登り、あれが不安要素だから暫く近くの崖で訓練したいと言うがおすすめの崖ってどこかあるか?って聞くんだが」

 崖におすすめなんてあるのかよと思うも

「あー、下から攻略した方が良いですよね?」

 何て聞けば出来ればと言うように頷く林さんに

「だったら岳とこの後DIYする事になってるから先に断りに行きます。隊舎の前で待っててください」

 言えば

「なるべくハードモードで頼むな」

 なんていい顔をされてしまって学生さん達も大変だなあと思いながら岳に少し待たせる事を伝えに行くのだった。




 が……


「おすすめ、というわけではないのですが林さんのリクエストに応えてハードモードでこちらになります」


 なんてみんなで見上げた崖は


「確かにハードモードだな」

「この山で草も木も生えてない崖って危険しか感じられませんね」


 千賀さんと三輪さん二人が唖然と眺めていた。

 もちろん学生の皆さんも。

 それは仕方がないと言うべきか。

 俺も崖を見上げながら


「この夏の大雨で崩れた所ですからね。

 いろんな意味でハードモードです」


 そっと皆さんから視線を反らせた。

 訓練は訓練でも災害救助的な訓練場のまだ崩れて日の浅い崖は下手に手を入れればすぐに崩れるだろう。 

 だけど林さんは言った。

 ハードモードで頼むと……

 だからこそダンジョンだけではなく広い意味で必要なスキルだと思って案内したのに……


「相沢、悪いが災害救助をするための訓練じゃないんだ。

 良ければもうちょっとイージーモードで頼む」


 足をかければすぐに崩れる崖に千賀さんがこれじゃあ訓練にならんと言う我が儘リクエストに応えてこの夏放置していた雑草畑をかいくぐり大きな岩が連なる崖へと案内した。

 その頃にはもう全身種だらけで花粉で黄色くなったりしちゃっているけど聳え立つ岩が連なる崖の前に立ち一緒に見上げるのだった。

 今度は皆さん真剣な眼差しで崖を見上げ


「暫くここで訓練をさせてもらう」

「あー、一応気を付けてください。

 何かあったらすぐに連絡貰えば駆けつけますので」

「そうならないように注意するさ」

 なんて学生さんよりも目を輝かせている千賀さん……

 三輪さん、ちゃんとお守お願いしますよと視線を向ければ少しだけ涙目で誰か呼んで来てくださいと言う心の声が駄々洩れだが俺はそれが三輪さんの役目でしょと言うように視線に気づかないふりをするものの


「村瀬、藤原」

 

 代りに二人の名を呼び、この岩をどうやって攻略するんだよ言う目で見上げている二人に向って


「俺は岳のフォロー行くから三輪さんのフォロー頼むな」


 言えばやたらと巨大な岩にときめいている千賀さんに落ち着けと言うような三輪さんと言う光景にあれを俺達がどうこうできるか?という質問をされそうだったから俺はささっと後は頼んだな!登れば家の道路に続くからと逃げる一択を選ぶのだった。





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