かわいいを探したい

「お、おい。なんでそいつを呼んだんだよ……」


 俺達も警戒するけどやはり一番ビビってるのは工藤だろう。

 なんせ今莫大な借金を背負ってる上に今までの借金鳥に追いかけられた恐怖の数々。戸惑う様子は分からないでもないが警戒しすぎだろうと思う。

 まあ、鍋ごと食べる鳥に警戒するのが正解かもしれないが……


「悪いんだけど、今忙しいから工藤の借金の返済はこれがかたが着くまで待っててもらえる?」


 俺はこれも花梨が作ってくれたフライドチキンを借金鳥の目の前で振り回しながらの説得。

 オマエ!!!

 無言でも視線で訴えてくる林さんはいつもの事なのでスルーしながら収納から大きな器にフライドチキンを一本一本取りだしては借金鳥の目の前でゆったりと山を作り上げていく。

 一つ一つ取り出すたびに涎があふれ出し、やがて滝のようになっていく。


「工藤の回収をちょっと待っててくれればいいから。

 そうしてくれたらこのフライドチキンは全部お前のものだ」

「ぜんぶ?」

「そう、ぜーんぶ」

「ぜーんぶ!!!」


 きゅぅうえええええええっっっつ!!!


 そんな思わず耳をふさぐほどの発狂したような叫び声と共に差し出していた山のようなフライドチキンを受け取りすぐさまおなかの中へ……直行完食?

 いや、見事な食いっぷり、の前に器とか鍋返せよ。腹壊しても知らねーぞと心の中で呪っておく。

 そして借金鳥はよほど美味しかったのか嬉しそうにその羽をふわっふわと膨らまして体をゆすっていた。

 

「おとなしくまってるねぇ?」

 

 体を揺らしながら壁際まで下がる借金鳥。思わず


「餌付け完了!」


 そんなガッツポーズ。

「餌付けか?

 これが餌付けか?」

 今一つ理解できない林さんだけど

「回数より量で理解してもらえるのなら安い物じゃないっすか」

 なんて言ったけどローストチキンもフライドチキンも大好きな俺としては全部ひとり占めされたダメージは少なからずある。

 だけどそれでプレッシャーから解放されるなら安いものだ。花梨にまたおねだりして作ってもらえばいいしね。

 たぶんご機嫌な借金鳥はおとなしく壁際で座っている。足が見えないという事からの想像と少し背が低くも見える所からの判断。見慣れればかわいいのだろうと思ったけど絶対手を離さないあの巨大な鎌に残念な事にかわいいは俺の中に発生しなかった。

 とりあえずわずかな期待は置いておいて借金鳥問題はひとまずOK。

 この短い時間の合間にもちゃんと休憩をとるみんなと羽無し様。俺だけごっそり減った魔力が早々に回復しないなんてと思うもそんな単純に回復できないくらい使っただけだから仕方がないかと思うも

「相沢、行けるか?」

 千賀さんがそっと話しかけてきた。

「まあ、魔力は全回復どころか半分も回復してませんが、さっきみたいにちょこちょこ使う分には問題ないですよ」

 源泉水を飲めば物欲しそうな目で音もなく俺の背後に立っていた借金鳥にも渡す。まあ、あれだけ食べれば喉乾くよな?そんな感じでペットボトル一本分を渡せばそれもおなかに直行。


 きゅぅうえええええええっっっつ!!!


 再び狂気の叫び声をあげる借金鳥。

 もふもふと羽に空気を含ませて怪しげなダンスまで披露する始末。


「何事?!」

「でも、なんかかわいいよね?かわいい?よね?」

「沢田君、そう思うのたぶん君だけだぞ?」

「いや、俺もリムたんの仲良しのルイルイの口調、萌えまくりだけど声が……」


 やっぱり原因はお前か。


「相沢、ところで『ルイルイ』とは?」

「岳の好きな例のゲームでよくリムたんと一緒に出てくるキャラ。

 小学生三年生の妹ポジ。

 小学三年生でさっきの舌ったらずな喋り方、リムたん達が心配になって溺愛している幼女。ちなみに岳はリムたん一筋だからそこは安心して」

「なにが安心かはわからんが……」

 そこまで言って千賀さんは一つの仮定に察して黙り込んでしまった。

 だけどこれで借金鳥との交渉の余地あり。

「工藤、いいもの発見だ」

「がっつり働くから頼むぞ」

「きゅぅうえええええええぃっっっつ!!!」

 工藤のやる気に借金鳥もチアみたいに鎌をくるくる振り回しながら応援をする。

 まったくかわいくない。

 いや、そこは個人差として


「さて、待たせたな。これで準備は整った」


 多勢に無勢の卑怯者だけどそれがなんだ。

 これは勝ち残って生き延びるための最善の策。

 たぶん。

 俺もお食事タイムも終わりまた無言で毒霧をまき散らす。

 ちょうどじわじわと回復する羽無し様の回復力を相殺する程度に削る毒霧。

 まったく効かないわけではないのがありがたい。むしろ優秀。

 俺が再び黒剣を握れば顔を歪める羽無しさま。

 敵の剣を持つ俺達を改めて敵認識でもしたかのように


「わけのわからない奴も増やして何をするかと思えば……」


 鼻で笑われてしまった。

「……」の所に語られない悪意をたっぷりと感じている合間に


「今度こそ我が前に立ったことを後悔するがいい」


 ものすごく悪い人のセリフが良く似合うが


「悪いけど俺達はもうあんたに付き合うつもりはないから」


 早くおうちに帰りたい俺の本音。とてもじゃないけど人様には聞かせれない。

 だけど決め台詞と思ったのかその言葉と共に雪と工藤が駆けていく。工藤をしっかり雪好みの武闘派に仕上げてたななんて褒め称えてあげたくなるけど平和を愛する俺は剣を三輪さんにパスすればそこは元野球少年。言葉もなく受け取った剣を問答無用に羽無し様に、工藤や雪よりも早いスピードで投げつけていた……






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