ラッキーアイテムらしい
さすがに全力で剣を避けた羽無し様。
三輪さんの投球に危険を感じたらしい。球じゃなくって剣だけどね。
くるくる高速回転、視覚にはもう円にしか見えないそんな剣を大きくよけるのは俺でなくともビビった証拠。
どんどん初めて見た時の崇高なる存在から落ちぶれていく姿を満足げに見ている間にも雪と工藤が襲い掛かる連携の取れたその攻撃。
悔しくないもんね!
だから俺もそれに混ざる。
俺だって雪との連携はばっちりだから時々俺のコース上に居る工藤を蹴散ら……足場にして変則的な攻撃を加える。
見ていて分かった。
育ちのいいエリート様でもあった羽無し様は正面から堂々と戦う形式の騎士道って言うの?そういう戦いしか知らない模様。
蝙蝠様たちもやっぱり育ちが良いのか背後から襲ったり足元に突如トラップ発動なんてせこい事は防御も含め手下の仕事という様に長い時間をかけて戦ってきたというのに初心な反応を見せてくれる。
「貴様には仲間を踏み台にするという卑劣な真似をしてでも勝利を手に入れたいのか!!!」
「こいつ仲間じゃねーから卑劣でもないし、これでもお役に立てて喜んでいるこいつを使いつぶす事こそこいつにとっても本望だろっ!!!」
まさかの返しに言葉を失う羽無し様メンタル弱っwww
立ち尽くすしてしまう羽無し様を眺める側では俺のすぐ横の壁に着地して羽無し様にチャンスと言わんばかりに襲い掛かりながらも本命は死角から襲い掛かる雪の攻撃と言う冷静な工藤のメンタルの強さ、俺も見習いたい。さすがにここまで図太くなれない。
まあ、工藤もすぐそばで借金鳥様が眺めているからこその冷静さなのだろうというのは分かる。
源泉水、絶対高価格。
万が一あってもストックのマゾで間に合うはず。
なければ自衛隊に払い下げる物でカバーすればいいだろう。
結城さん悪いね。
今まで格安で納品させてもらったからそこは目をつぶれって言うものだよ?!
ああ、結城さんをきっかけにどんどん現実と向き合ってしまう。
俺に関心のない名前だけの母親。
親の義務を放棄して新たな偽りの宝を手にして浮かれてていた父親。
俺がもたらす恩恵をただ享受するだけの……
さらにそれに乗って便乗する……
世の中なんで他力本願のイージーモードだとあらためて認識すればがぜんやる気が出た。
「行くぞ工藤!」
「おま!マジで人使い荒いなっ!!!」
「雪の家族だからなっ!!!」
そう。俺も雪もあの婆ちゃんに育てられた子供。
一日通して座ってる事のなかった婆ちゃん。
一日の大半を寝る猫の生活すら改革させるほどの教育。
まさかの自衛隊の人に人使い荒いなんて言われるなんて
「失礼だな!この山暮らしなら当たり前の日常だ!!!」
まるで爺ちゃんや婆ちゃんが怠けたような言い方に腹を立ててしまう。千賀さんや林さんは遠い目をしていたがそれに反して岳はそうだと頷いてくれた。
理解者がいる。
俺は何も間違ってない、そんな確証を得れば
「雪!合わせろっ!!!」
俺の言葉に常に耳を傾けていた雪が初めてこの空間の中のすべての音を聞き分けるように耳を傾ける。
俺はきっとどこかでセーブしていただろう力を緊張と共にほぐした体で加えていく。
壁を一蹴り、一蹴りするごとに上がるスピード。
フィールドダンジョンでは決して得られないこの感覚。
ニタリ、自然に浮き上がる俺の笑み。
あまりのスピードに誰も目にすることのないこれがきっと俺の本性。
親父がこんな田舎に俺を押し込めて別の子供を自分の子供と信じ込むくらいに自ら洗脳する理由を理解する。
再び剣を取り出した。
真っ黒の黒い剣。
俺の指先に刃を置いてゆっくりと滑らせる。
すうっ……
指先にうっすらと赤い線が走り、それは剣が吸い取っていく。
フラーとか呼ばれるところに赤い線が走り、目を凝らせばそこに文字が書かれているのがかろうじて読み取れるだろう。
「魔剣か?」
やはりそこは羽無し様の方が詳しかった。
「まあな。俺なりに考えて作ってみたんだ」
「魔剣なんて作れるのかよ」
あきれたように言う工藤だが
「出来るさ、だってここはダンジョンだからな」
ちらりと借金鳥を見れば視線が合えば嬉しそうに体を揺らす。
褒められたのかとでも思ってるのかご機嫌なのは借金鳥だけだ。
「まあ、基本は充電式の電のこだけどね」
「それをどうやって……」
あきれたような林さんの声だけどそこは俺はわざとらしく
「おおーっと、そこから先は企業秘密だ」
「えー?」
「えー?」
岳の不満の声に借金鳥も乗る。って言うか忘れてはいけない。
ここはダンジョン。
どこまでダンジョンをだませるのかそこがポイント。
子供のように目を輝かせながら種明かしを期待していたのだろうが悪いがそれでがっくりしてこのスキルを取り上げられたらたまったもんじゃない。
「まあ、今は戦いの最中だ。帰ってから教えてやるよ」
「えー!」
借金鳥の不満な声。こいつだんだん人間味が増えてきたなと子供の成長を見るように、でもいつまでも付き合ってやらない。
俺は血を吸った魔剣で羽無し様に襲い掛かる。
余裕でよけていくけどそこはスピードを上げていく。
雪には追い付かないけど、あっという間に上り詰めたトップスピードは羽無し様には追い付けない速度。
その合間に剣を振り回す。
俺の剣が振るった後には赤い線が残る。
それはすぐに消えない。
その後に赤い線が残って、俺は数を増やしていく。
振り回して振り回して、時々何かの危機感を覚えた羽無し様の剣が振り下ろされるけどそれより早く背後に回って剣を振り下ろす。
直接剣で止めを刺すのは相変わらず手が震えるけど俺の得意な方法をとるだけ。
だからこんなにも一生懸命振り回しているけど一切羽無し様には剣は触れてない。羽無し様から舞い散る血しぶきはすべて雪の攻撃の物。
羽無し様もそこは気づいていたようであえて雪の攻撃を受けながらも俺へと視線を外さなかった。
いや、外せないでいた。
視界に増える赤の線。
それは羽無し様を囲むように、そして頭の上も。
少しずつ閉じ込めるように、そして行動できる距離を小さくしながら、雪が通れる隙間は残しつつ身動きできないように追い詰めていく。
赤い線を危険とみてか触れないように避けるだけの行動しかできなくなった羽無し様だけど逃げ場もなくなり……
「三輪さん!」
「任されたっ!!!」
プシッと何かが噴き出す音を聞きながら何かが俺の横を通り過ぎた。
プシュー……
ああ、この耳の奥にこびりつくほど聞きなれたこの音は
「ここでバ〇サンとか?!」
「まあ、俺のラッキーアイテムだから!」
謎の笑顔。
そして元球児は雪用に開けた隙間からそれを見事通過させて羽無し様のこめかみに直撃。
ふらりと傾いた体に慌てて踏ん張って見せたもののもう遅い。
一本の赤い線に触れたのだろう。
触れたとたん皮膚が裂かれて血があふれ出した。
「トラップか!」
「こんな見え見えなトラップあるわけないだろう!」
言い返す合間にも裂かれた痛みに逃げるように一歩下がった足もとにも赤い線があり、運悪くバランスを崩せばその背中には大量の赤の線が用意されていた。
「う、ああああああっっっ!!!」
剣の痛みとは違う、一瞬であの白い服すら切り裂いて直接本体に攻撃する赤い線……
「何度見てもえげつない攻撃だな……」
倒れただけで全身真っ赤になって、ご自慢の長い髪も無残に切り落とされたその姿に
「遥ー、さすがにこれはひくわー」
「おれもそう思う」
ドン引きな皆様の心情を代表して言ってくれた花梨には悪いが俺だってこんな手なんて使いたくなかったとそれだけは理解してもらいたかった。
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