ボッチは何時でも何処でもボッチ

服はボロボロとなり、自慢のロン毛もザンバラ頭になって背中から赤い線の中に突っ込んだ羽無し様の背中は溢れ出る血で真っ赤に染まっていた。そしてよっぽど痛かったのだろう。背を丸めることが出来ないというようにのけぞりながら転がりまわっている。

 もっと痛い攻撃も受けた事もあっただろうにと思うも刃物ですっと切ったあの痛み、地味に後にひいて痛いんだよね。想像つく痛さは見てるだけで共感ができるのってほんと痛いんだよね。

 もだえる羽無し様を見て背筋がぞわぞわする俺。

 まあ、この攻撃もそれをイメージしたからそうなんだけどさ。

 だけどさすが何百年と戦ってきた羽無し様。

 暫くもせずに動きを止めてゆっくりと立ち上がるので、こちらも赤い線に触れたのだろうボロボロになった剣を再び構えて俺を睨みつける。

 剣に吸わせた血と引き換えに剣筋を留めるという昔遊んだゲームにあった魔法を真似してできた俺の魔法。魔法らしい魔法だと自負している。俺は剣を横に振り払って残っていた赤い剣を消す。

 本来なら意表をついた小細工程度の攻撃なのだろうけど。しっかりと警戒を向けてくれて俺はご満悦に笑みを浮かべる。

 心の中の俺はちびるほどビビってるけど、それを誤魔化すぐらいの顔芸はできていると思う。


「まだ立つつもりか?」

 

 そんな言葉をかければ少し後悔。


「当たり前だ。故郷には私の帰りを待っている者たちがいるっ!

 あの長い戦いに勝利した報告を、この喜びを伝えなくてはっ!!!」


 聞かなければよかったと思ったこれが後悔と言うものだろう。

 だけど俺達だって


「悪いな。俺達も帰りを待っている人たちがいる。

 お前を倒して帰るのは俺達だ」


 絶対帰る、その決意だけはぶれないという様に睨みつければどちらも引けないこの状況。

 俺の背後に視線を向け、そして足元の雪を見て勝利を手にすることが難しくなっているのを理解したのだろう。いや、していたかもしれないけどここに来て現実味を帯びた危機感を感じてくれたというかなんというか。

 目の色が違うって言うのかな。

 生き残るための必死さが伝わってくるというか、生き抜くための狂気を読み取れたその瞬間色とりどりの光の球が現れた。

 ぎょっとしたのは一瞬。

 俺達だって火とか水とかいろんな属性を使えるのだ。

 羽無し様が使えにと言うほどおかしな話はない。


「みんな避けろっ!!!」


 言うも三輪さんや岳は危険を察してお魚を投げて相殺させる。

 今までだったらぶつかった瞬間小さな爆発が起きたけど、水属性にぶつかった時はその水しぶきで床が濡れたり、火属性だった時は魚の焼ける匂いがしたり、いろいろ情報が増える中みんな疲れてミスが目立ち始める。

「うわっ!」

 橘さんの小さな悲鳴が聞こえた。

 直接の怪我とかではないが、すぐ横に着弾して吹き飛ばされていた。

「あ」

 なんて小さな叫び声は岳。

 濡れた床に足を滑らせてすっ転んで魚の入ったバケツをひっくり返して全身に魚を浴びていた。

「きゃあっっっ!」

 花梨も迎撃し損ねた火の球を何とかフライパンで打ち返していた。

 フライパンで打ち返せれるんだ……

 驚きに見ていればそれは赤色から黒色へと変わり黒い球とは違う昏さをもって飛んでいき、壁に当たった瞬間壁の表面が劣化をしていた。

 とはいえ直ぐに修復されたが花梨さん。その能力ちょっと危険なんですけど……

 思わず息をのんでしまう。

「花梨さん、それはちょ……」

 なんて止めようとしたけどフライパンを握った花梨はご満悦に

「これ、なかなかいいわね」

 舌なめずりしてしまう始末。

 これは止めるのは危険だ。今停めるのはかえって危険だ。

 ここはどうなるかそっと見守るのがベター。

 俺とは違う独自進化をしている花梨の行く末が本当に心配になる。

 単なる毒の付与だけじゃなく腐食だなんて……

 そういやこの間自家製納豆作ってたな……

 まさかそれが原因じゃないよな?!

 納豆菌を使った土壌改良をしようとダンジョンで実験してたあれ…… 

 荒れ地には芋だと言って岳に耕せて納豆菌ばらまいた所までは知ってたけど地中の中で何があったんだと目に見えない世界の話までさすがに理解が出来ない。

 まあ、美味しい蒸したお芋を食べさせてもらって気にも留めなかったけど……


 俺のおなか大丈夫だよね?


 それ以上は考えないようにした。

 そして

俺は暴走気味の羽無し様と向き合う。

 もう一心不乱に近づくなという様に属性を加えた球をまき散らしながらボロボロの剣に魔力を乗せたのか鈍い輝きを放つ剣を振り回しながら剣に込められた力を放ちまくる。

 みんなも属性の球を避けながらその剣圧も避けるうちにちりじりになり、ヤバイ、そう思ったときはよりにもよって花梨へと視線を向けていた。


「まずはその女からだっ!!!」


 男尊女卑社会になのか真っ先に花梨を狙うのは古来から残るそんな社会を異世界でも想定しておいたけど遠く離れた距離に間に合うかと思うも


「真っ先に私を狙うのはわかってたわよっこの豚野郎っっ!!!」


 さすが女王様。

 まるで虎視眈々という様に仕掛けてくるのを待っていたかのように取り出したのはロープ。

 チャーシューのように縛るつもりだったけど向こうの方が足が速く結局逃げられた獲物い舌打ちをする始末。

 まさか女性に反撃されるなんてと男尊社会しか知らないのかありえないと目を見開いて言葉なくお怒りのようだったけど


「っち、せっかくおもちゃにするにはちょうどいいイケメンが手に入ると思ったのに」

 

 深くは聞きたくない。

 本能的恐怖を覚えた羽無し様は次なる獲物、片手のない千賀さんに目を向けるが


「千賀隊長に手を出そうとは、千賀隊フォーメーション!」

「「「おう!」」」

 橘さんと三輪さんがすぐに駆け寄り千賀さんを守る体制をとる。

 なにこれ。

 ちょっと気になるんだけど。

 当たり前のように岳が混ざってるのちょっと説明してほしいんだけど?!

 取り残された工藤も遅れて合流するし。

 なんで千賀さんファンクラブが出来ているのかちょっと教えてほしいと取り残された俺と花梨は声を出して問いただしたかったが雪の呆れた声に取り残された俺としてはちょっぴり涙が出そうになった。




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