借金鳥はご飯が美味しい事を知った!!!

 一つ分かったのは千賀さんが皆さんに人気があるという事だ。

うん。知ってる。

 片手がとか心配がとかそういう事もあるけど、話に聞いたところでは例の秋葉のダンジョンでみんなを守って……なんてことをした人だから二度とそんなことはさせないというみんなの気持ちもわかるが……


「加齢臭強いな」

「アラサー相手に加齢臭言うな。まだそんな臭いしてない」


 林さんの肩に手を置いて言いながらも自分の匂いを嗅ぐ千賀さん。いくら嗅いでも加齢臭より魚の匂いしかしませんよ。むしろこの室内は魚の匂いしかしてませんよと突っ込みたかったけど視界の端で工藤が借金鳥に脚付きの魚を食べさせていた。

 確かに工藤の借金鳥対策には良いのかもしれないけど工藤よ借金鳥の顔をよく見ろ。泣きそうな顔で食べているの気付いてくれ。

 まあ、花梨の美味い飯を知った後じゃ足付きの生魚は拷問と言うべきだろうか。

 少しだけかわいそうに思いながらもこれも花梨に作ってもらった夜食用の牛丼をそっと借金鳥に渡す。もちろん生卵を割って肉の山のてっぺんに添えれば隣で見ていた工藤の腹も鳴った。

「まあ、あとでマゾを食わせてやるからとりあえず今はこれで我慢しとけ」

「おい、俺にもよこせ」

 すかさずよこせという工藤にも渡せば借金鳥と工藤が壁際でおとなしく並んで牛丼を食べるシーンを見る事になった。誰得だよ。

こんな時でも気持ちいい食べっぷりの工藤を暫くじーっと見た後マゾも一気におなかに直行。鳥の姿をしているくせに鳥肉に続き卵もOKらしい。

 もういろいろ深く突っ込むつもりはないがものすごく満足と言うように涙を流しながら体を揺らせて喜んでくれた。さりげなくお替りも要求してくるあたり腹は立つが。とはいえどんぶり返せよと言って腹の中に納まったどんぶりを出されても困るからそこはぐっと我慢。

 それにこれだけうまそうな顔をして食べてくれると文句が言えなくなる。

 うん。

 その前に食べさせていたものが悪かったからね。

 さすがに足付きの生魚はちょっとね……

 すね毛が生えてなくって良かったというしかないだろうか。

 とりあえず背後の俺にも牛丼くれと言う視線は無視をしてボロボロになりながらも俺達を睨みつける羽無し様へと視線を向ける。

 剣を取り出して構えれば羽無し様も剣を構え、俺は遠慮なく剣を振りかざして襲い掛かる。当然のように待ち構える羽無し様も剣を構えて受け止める態勢に入っているのを見て俺は手の中の剣をすり替える。

 岳のバットと……


「俺のとっておきの一本!」


 ぎょっとしたのは羽無し様か岳か。

 なんか背後で岳が叫んでいるのが聞こえたけどもう避けられないこの距離でも羽無し様は俺が振り下ろすバットの力を逃がすように剣の向きを変えるもそれも想定済みな俺。構わずバッドを振り下ろして


 キンッ!


「っしゃー!!!」

「あああっ!私の!私のっ!!!」


 根元からぽっきりと折れた剣に喜ぶ俺と絶望の羽無し様。

 背後から聞こえる叫び声を聞きながらバッドを再び構えてフルスイング。

 ゴキッ!

 鈍い音と手からの感触、耳とそして視界的にも俺に入ってきて胃袋からすべてをひっくり返したくなる何とも言えない衝動に駆られてしまうけどそれ以上に込めた腹筋が俺の呼吸ごと止めていてすぐさま林さんに拉致られて壁際で雪を顔面に押し付けられていた。


「ほら、究極の癒しだ」

「ゆ、雪しゃんの匂い~」


 すーはーすーはーと深呼吸。

 身動き一つしない雪はたぶんものすごく嫌そうな顔をして耐えているのだろうけど雪しゃんの匂いにぅへへ、うへへと笑みがこぼれてしまう。

「もう大丈夫ですね」

 そんなお医者様の診断と共に雪まで連れていかれてしまって、何か穢されてしまったという様に林さんの腕の中で身じろぎもせず丸まっていた。

 花梨も岳も普通に攻撃に参加している横で工藤がものすごい侮蔑の視線を向けてきたが何が悪いんだよと睨み返す視界の端では三輪さんのお魚攻撃が激化していたのは笑うしかないけど。

「次、魔法攻撃来る」

 言えば沢田もフライパンからお魚に切り替えてくれた。

「こっちも魔法攻撃全力で行くぞ」

 残りの魔力は半分ほど。

 どこまでできるかなんてたぶん大半はできない。俺の魔法大技ほど魔力大量消費するからほとんどが使えないポンコツ魔法でしめているから小技で削るしかない。

 だけどここにはこいつがいる。

 たぶんこの場での最大戦力はこいつだ。予測不能だけど。


 その合間にも剣を失くした羽無し様は光の球攻撃に切り替えた。

 光の球を幾つも集めた大きな球も作る。

 光の球も錐のような形にしたり、よほど必死なのが分かる。

 

「これだから原始的な戦い方しか知らない奴らは負けるんだよ」


 俺も対抗するように黒い球を作り出す。

 ぶつかれば被害が大きくなってそこらじゅうの壁や天井、そして床が破壊されあの虚無の世界がむきだしになる。

 絶対あそこに落ちてはいけない。

 お魚を投げるふりをして対策はしたつもり。

 これで終わりますように。

 願いってる合間に奴は光の球を黒い球へとぶつけた。


ひゅごっ!!!


 最初の光と黒の球がぶつかった。

 黒い球が光の球を吸い込んだと思ったら黒い球の中で大爆発をする光の球。これが暴発と言うべき爆発の原理。

 しかも散々煽りに煽ったので考えなしの爆発はこの広いとは言えない室内で連鎖反応が発生する。

 俺達の叫び声もかき消す瞬く間に広がる爆破の連鎖。

 もう人の手を入れてどうのこうの収まる問題じゃない。

「雪!」

 そう叫んで振り向いてやってきた雪を俺の服の中に押し込む。

 沢田と岳は側にいた工藤にしがみついている。工藤に頼るのは屈辱だけどすぐそばにいた人物で一番足腰が安定している俺と同レベル。間違ってはないのだけどムカつくが、千賀さん達は林さんを中心にまとまっている。林さんなら千賀さん達の不安な所を補ってくれているから問題ないと信じている!

 だからここでっ!!

 轟音、爆音を響かせながら崩れ落ちる室内。

 反射的に体を低くして守りながら天井からの落下物が当たらないように結界を張る。ついでに足元もここから落ちないように結界を張りながらところどころ穴ぼこが開いて虚無な世界が見える床を気を付けて千賀さん達と合流をする中奴が動いた。

 その身長よりはるかに大きい鎌を掲げ上げながら羽無し様に飛び掛かった。

 いや、気付いたら羽無し様のすぐ後ろに居た。

 驚いて振り向く羽無し様より早く鎌を振り下ろすもそれを交わした経験値。

「何だ貴様っ!!!」

 さすがにこの攻撃はビビっただろう。俺達もビビった。

 借金鳥には距離と言うものが関係なく、むしろむき出しとなった虚無の背景と同化するその体。だけど残念な事にたぶんレベル的に借金鳥の方が弱いのだろう。勝てる要素が少し足りないなと思うもまだ部屋の片隅では爆発が続いており瓦礫が飛び交う中でも借金鳥は関係ないという様に羽無し様を襲う。


「ぎゅうええええええええっっっ!!!」

 毛を逆立てて怒りと言うのだろうか。

 今まで聞いたことのない低い鳴き声、そして俺達が知るよりも早い鎌捌きに見分けがつかないとはいえ俺達の知る借金鳥ではない事は確かだ。

 餌付けが成功してよかったというべきか。

 怒りに羽を膨らまして攻撃モードに入る借金鳥は羽を震わせば瞬く間に飛び散った羽が床や天井、壁を修復していった。






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