飛び散った羽がペタペタとはがれた床や壁、天井に張り付いてレンガが形成されていくそんな奇跡。

 羽無し様もびっくりだけど俺達もびっくりだ。

 正直工藤の借金を回収してくるただの借金鳥かと思っていたけどまさかの建築家だとは…… いや、違うし。

 羽が折り重なり、そして輝き、光すら吸収するのではないかと言うくらいの昏い闇にレンガの模様が入り、やがて淡く光を放つここでは見慣れた薄暗いダンジョンへと変わっていった。

 奇跡だ……なんて感動するところだろうけどそれよりも早く俺は俺の仮説の正しさを理解した。

「すっげー!!」

「ねえ! いったい何がどうなってるの?」

 ダンジョンの再生に驚く岳と理解が追いつかない花梨の動揺。

「確かにすごいですね」

 なんて素直に言うのは橘さん。

 林さんはちらちらと俺を見るようにきっと今俺と同じ仮説にたどり着いたのだろう確認を取りたそうだ。

 羽をまき散らしたと同時に光と黒い球にも羽を当てて消失させた借金鳥の鎌以外の攻撃。見た事のないというか攻撃しつつダンジョンの修復を一緒にやるってどうよと思いながらもそんなわけのわからない存在には媚を売っておく。

「おつかれさまでーっす。チキンカレーはお好きですか?」

 そっと鍋を差し出せば何も言わずに受け取って腹に収納。

「くけっ!くけっ!くけけっ!!!」

 初めて聞く鳴き方の体をフルフル震わすさま。どうやら喜んでいただけたようだ。

「あ、お水飲む?辛いの大丈夫だった?」

 源泉水入りのペットボトルも併せて贈呈。

 もちろん受け取っておなかに直行からのとろけ顔。キモイ。

 カレーも水も一瞬か。もっと味わってくれと思うも嬉しそうに羽をフルフルする様子、案外見なれるとかわいいと思うのは俺だけか? 仲間を募集したいところだ。

 苦手意識しかない工藤は誰よりも遠い場所へと移動していたが工藤はどうでもいい。


「お前たちは一体……」


 光の球も大量に作ったせいで少なからず光の球と黒の球の連鎖爆破に巻き込まれてダメージの残る体の羽無し様。足元はフラフラで、だけどまだ俺達を睨みつけながら光の球を作る。さっきみたいな数がもう作れないのか知らないがそれでも止まらない闘争心。

 確かにどちらか生き残らないといけないバトルロワイヤルだけど、そこまで憎悪できるのはなぜかと思っていれば


「私は必ず帰らなくてはいけない!

 私が勝利の報告を持ち帰らなくては我ら一族に安らぎはない!!!」


 上に立つ者の責務という奴なのだろうか。

 その使命だけにここまで立ち上がってくるのは見事だと思った瞬間


「あの薄汚い奴らの滅亡まであと少しなのだ!

 あの悍ましい奴らをやっと駆逐できる所だというのに!

 我ら誉れ高き一族がやっと、やっと!!!

 ああ、あ奴らと同じ空気を吸っているだけで病に侵されるというのにしぶとく生き残った挙句に我らの目を盗んではびこっては我らの世界を穢していくしか能のない存在。

 生きる価値すらないのもそれすら理解できずにぽろぽろと増え続ける悍ましさ。息をしているというだけでも許されないというのにのうのうと蔓延る図々しさ!

 やっと、やっと子供を産むだけの脳しかない女王を仕留め、その後継もすべて屠って命じられたことを遂行するしかない能無しどもの醜さともこれで、これで司令塔もなくなり何もできない無力な文字通り虫けらになり果てたというのに!!!

 生きる事を恥じない愚かどものなんという醜さ!

 我らが世界で最も醜悪な存在!

 死んで詫びる知能もない下等生物の存在で我が前に立つ図々しさ、殺されても死ねると思うなっ!!!」


 なんてまさかの絶叫。

 あまりの怨嗟に頭が追いついていかなかったけど心はちゃんと理解していた。

 こいつは、こいつだけはもう


「やっとお前の事が一つ判った」


 強く足を踏み出す。

 

 「お前こそ生きる価値のない存在だ」


 俺の中の一線を越える。

 躊躇いはない。

 膨れ上がる怒りよりも冷静な部分が世界を崩壊に導き、いくつもの世界を破滅に導いたその価値観。

俺の価値観と合わさる存在は一つもない。

 いや、俺も似たようなものかもしれない。だけど、だけど!


「あの蝙蝠男は確かに意思をもって生きる希望を求めていた!

 おまえみたいなくそったれた選民意識でただただ殺戮を繰り返していたわけではない!!

 おまえがどこまで特別かなんて俺には判らないし判りたくもないっ!!!

 おい、まだ聞こえているだろ?

 だったらしっかり聞いとけ。

 お前の存在こそお前が忌み嫌うものたち以下の存在でしかない事を!!!」


 確実に仕留めるためにクズの角を投げつけながら俺の魔力を糸のように細く長く張り巡らしていた。

 天井に、壁に、床に。

 万が一床がはがれた時にネット上にしてあの真っ暗な世界にここまでついてきてくれた大切な人たちを落とさないように、そして万が一の時の為にと俺の想像を叶えてくれるこの場に保険をかけて媚を売ってまで想像を実現してくれる場所でそれを容赦なく選ぶ。


 張り巡らした糸を引けばまるで一気に魔力が通って輝いた糸が鞠のように羽無し様を包むような球体になって、だけどそれは羽無し様を無視して小さな光の点の様な結び目になって……


 羽無し様に朱線が走った。

 本人も気づかない一瞬の出来事。

 絶対的な防御が攻撃に反転した誰も何も理解できない合間に俺の意思が犯した出来事。


 俺の罪はただ一人拍手をする借金鳥だけが何が起きたのかそれを正しく理解していた。

 

 朱の線が走ると同時に動こうとした体がばらばらになって崩れ落ちていくその様子。

 人はすぐには死なない、羽無し様もそれに当てはまるとは思ってないけど……


 きっと細切れになって自分の体がばらばらに崩れた瞬間ぐらいは見たのだろう。

 一瞬見開いた目が絶望の色に染まり、それがそのままあふれ出した血だまりの中で俺を見上げていた光を失った瞳を俺は静かに見つめ返して……


 


 こうやって俺達と羽無し様の戦いは終わりを告げた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る