ダンジョンってひよこも空を飛ぶんだ……
ざわり……
19階まで行く宣言をすればすぐに反応するかのように起きたざわめきを肌で感じるのは彼らがきっとまだ15階を攻略してないからだろう。
どう見ても皆さんレベル25辺りで止まっているのはステータスを見なくても肌で感じる事が出来たのはただの俺の直感だ。ちなみに当たらない方が多い。
「工藤の実力は皆さんも知っていると思います」
少なくともここにいる斎藤班の皆さんよりも強い。
称号が冒険者でもここでは最強なのは目に見えない所で稼いだ部分が同レベルでもパラメーターを底上げさせていて最強と感じさせているのだろうと俺の直感が教えてくれる。気のせいかもしれないけど。
「そして15階は俺達全員が攻略できますが、うちのダンジョンと大学ダンジョンとちょっと様子が違うのでその相違を含めて見に行きたいと思います。
工藤には15階を体験してもらって今後も皆さんのお役に立てるようにします」
それを俺は千賀さんに向かってこれでもいいのかと問う様に言えば
「まあ、俺達は相沢達のサポートだから。どんな状況になっているのか我々の視点からのレポートも欲しがってる結城一佐の命令にどこまでもついていくさ」
そんな事だろうと思っていた。
出会いこそ俺達を支配下に置きたそうだった人がちょっと脅かされただけで協力的になった理由。有益な情報源と思われたなんて……想定済みだから何とも思わないけどね。
「とりあえず借金鳥の事は気になりますが19階まで行ってきます。
遭遇したら工藤だけ戻すので被害者の人たちの為にも無事地上に脱出させるためのサポートをお願いします」
「楽に終わらせないっていう君の主張私は嫌いじゃないけどね」
なんてすかさず斎藤さんに苦笑いされてしまった。工藤を目の前にしてよく言えるなという所だろうか。いや、むしろそういうべきだろうと俺は沢田が受けた恐怖を思えばいくらでもこれくらいの嫌味は何度だって言ってやるつもりだ。
「楽には終わらせませんよ。
工藤にはきっちりと耳をそろえて賠償金を支払ってもらうつもりなので」
その中に沢田の名前はたぶんない。
だけど沢田はそれに代わる鬱憤を自分で見事はらしきったのだ。
見届けた俺さえちょっと内股になる光景だったけど
「しっかり働きなさいよ」
「へいへい、女王様の命令のままに」
なんてどうでもよさげな工藤との会話を見て空気が一部でざわりと揺れる。
沢田も気づいてないようだが
「あんなかわいい子なのに女王様だと?」
「いや、踏まれてみないとわからないぞ?」
「噂だとロープ遣いが得意だとか……」
「一度縛られてみたいな……」
ちょっと待て。
ここに工藤よりも危険な奴らがいる。
いや、うちの沢田をどんな目で見てるんだ?
俺のデビルイヤーよ、こんな情報聞かせないでくれ。
とりあえず誰かは分からないが遠くから見られている視線から逃げるように
「じゃあ、行きます!」
「え?もう行くの?」
「相沢ちょっと待ってよ!ついたばっかりじゃん?!」
「斎藤、帰って来た時にまた話そう!」
驚く岳と慌てる沢田とは違い千賀さんはいつも冷静だ。
俺がこんな危険しかない場所から駆けだせば雪も俺から飛び降りて初めましてのダンジョンでもまっすぐ12階への入り口を目指して走り出し姿を俺達は追いかけるのだった。
先鋒ではないが飛び出していった雪が屠った魔物を収納しながら足取りを追いかけて12階へと向かう。
やっぱりというか大学ダンジョンでも感じたけど
「魔物多いねー」
「そう言われるとうちって魔物少ないわね?」
「まあ、イチゴ達も魔物討伐してるからなwww」
なんて岳が笑う。
おもわず「ん?」なんて岳に視線を向ければ岳を挟んで沢田も岳を見ていた。
「や、ほら。沢田は魔物のお肉しか興味ないし、相沢はいつも雪と一緒じゃん?
俺だって一人で潜るの寂しいからイチゴチョコ大福と一緒に潜るわけよ」
「待て、そこが意味わからん」
なんでここでイチゴチョコ大福の名前が出てくると思うも
「雪があの三匹に魔物の狩り方教えていたのは知ってただろ?」
「まあ、な……」
千賀さん達の視線の厳しさと工藤の呆れた視線。そんな目で俺を見るな!
まさかお前のペットの行動も知らないのかと言われてるようだけど基本のびのびと育てているのだ。よそ様に迷惑かけなければ問題ない。ましてやうちの敷地内の出来事なら目を瞑るべきだと思っている。たとえ東京ドーム何個分かわからない敷地とはいえ基本は小屋にしている納屋がホームポジション。俺が餌や散歩に顔を合わせるタイミングで待機しているだけなんて思いたくない。
「雪が鍛えて後は自宅警備隊だなんて退屈だろうからって予習復習を兼ねて俺がダンジョンに潜る時に連れて行ってたんだよ」
「なるほど、どおりで雪が鍛えてただけにしてはレベルが高いなと思ったよ」
なんて言えば誉め言葉を言われたという様に照れる岳はさらなる暴露をしてくれた。
「そしたら雪の手下達も連れてけって言うからさ」
真夜中にやたらと岳が一人でダンジョンに潜っていた理由がそれだろう。
「おかげで魔物と戦う事を覚えたから、工藤達を襲う事も余裕だったんだろうね」
なんて無邪気な笑みを浮かべる岳にこいつが一番ヤバいんじゃね?なんて思う。
「一応マロを倒せるようにはしたし、11階以降に出てくるマロの群れも逆に群れで倒す方法も覚えたみたいだからね。
留守番をお願いするには安心して任せられるよ」
「まったく安心できん」
まさか納屋に住み着いたにゃんズがそんな教育を受けてるなんて誰が思うのだろうか。
なんて考えてやたらとうちの家を囲むように木々の枝にとまるカラスの群れにまさかな……なんて思いながら
「カラスまで連れて行ってるんじゃ……」
「あいつらは沢田の餌を待ってるだけだよ。
そろそろ暖かいところに行けって沢田も言ってよ」
確かに。じゃないと-10℃を超えるうちのあたりではカラスには厳しい環境になるのは言うまでもない。
沢田もこくこくと頷くその姿にそんな危険を冒してまでも手足のついたお魚がうまいのかと聞くのも嫌なのか全力で首を縦に振っていた。
そんな他と比べたうちのダンジョンの異常さを一つずつ理解していけば
「あー!にわとり!唐揚げ要因お願い!」
沢田の叫び声に皆さん上空へと視線を向ける。
決して沢田のニンニクとショウガのパンチを効かせるカリッとした食感からのジュワッと肉汁溢れる唐揚げのとりこになっているからだけではないから信じたい。
あ、思い出したら涎があふれた。
とりあえずいつもは雪にお願いしている事が出来ないのでどうやって捕まえようかと考えたところで岳と目が合った。うん。
「岳っ!行くぞっ!!!」
「お任せあれ!!!」
俺が踏ん張って岳に渡されたバッドを構えれば岳はそのバットの上に着地して、その瞬間俺はこの世界の渡り鳥なにわとりたちに向かって思いっきりバットを振り切るのだった。
「相沢やったぜ!このにわとり子供も連れてたよ!」
「にわとりの子供のひよこも飛べるとかwww」
黄色いふわっふわの状態でも空を飛ぶ渡り鳥。常識を吹っ飛ばすこの世界とはいえ
「うちのダンジョンまで飛んでるのかな?」
なんてそのふわふわの愛らしい姿に思わずうっとりとしてしまうが
「はっ!んなもん飛んでたら捕まえて焼き鳥にしてやるよ」
何て工藤が鼻で笑えば沢田が岳が抱きかかえて生きたまま捕獲したひよこを受け取って愛おしそうに眺めるのを見て……
あかん。
あかん奴だこの目は……
俺がそっと距離を取るのを工藤はどうしたという様に俺を見ていたもののその直後その視界の端でとらえただろう沢田の行動に工藤は黙ってしまった。
「やっぱり活〆からすぐに調理するのが一番よね。
時間をかけて熟成させるのもいいけど、フレッシュさを楽しむのならやっぱこれよね!」
なんて首がありえない方向に向いて飛び散るひよこの羽を眺めた直後俺達は言葉を失うのだった。
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