何を目指しているのかちょっとお話ししましょうか?林談

 鮮やかな手つきでひよこ、と言ってもこの時点で将来性を見せつけるそのサイズは雪よりも倍以上に大きい。むしろイチゴチョコ大福の中に混ざれるサイズに

「これだけ大きいと食べでがありそうね!」

 うきうきしてるのは沢田だけ。俺達はこんな所でも羽をむしって内臓を出している沢田にドン引きだ。

「とりあえず下処理したから預かっていてね」

 なんて水魔法で綺麗にしたとはいえ俺に収納させる頃にはなぜかあの工藤から少し距離を取られていた。解せん。

 千賀さん達は見慣れてるし橘さんや三輪さんなんかは結構手伝わされていたからね。まったく気にも留めないのどうだかと思うけど、林さんは解剖なんて飽きたからいいですなんてお断りの仕方。

 解体じゃなくって解剖なのかとこの人も随分おかしいなと思うのはダンジョン黎明期のダンジョン探索する自衛隊の人たちの治療などをしてきた数が原因だからと千賀さんのフォローが入る。千賀さんも結構大変ですねと個性的な人たちの多い千賀さんの部下に苦労をしたのは口にするまでもない。

 もっともこの人が一番おかしいんだけどね。

 沢田が捌いている間に血の匂いを嗅ぎ取ってやってきたマロ達をその辺に転がっている石をまるでサッカーボールのようにつま先で拾い上げてからのシュート。

 マロにぶち当たって跳ね返る、ではなくそのまま貫通させた脚力。

 初めて見るだろう工藤は目を見開き、実は俺も初めて見るその足技に思わず拍手をしてしまった。

「すごい!鉄砲みたいだ!」

 うちの山で自主トレをして失った左手の代わりに徹底的に体幹と脚力を集中的に鍛えた千賀さんの足から生み出すそのスピードはもちろん抜群なコントロールには驚かされるしかない。

「これがラグビーで鍛えたコントロール感覚だ」

 なんてどや顔。

 思わず同じ部活に所属していた工藤を見れば負けず嫌いなのだろう。同じようにつま先で石を拾い上げて、マロを一撃で仕留めていた。

「わーお。まさかのスナイパーが二人もいるとか意味分かんねー」

 なんて俺も真似するもまず石をつま先で拾い上げる事も出来なかった。仕方がないから手で拾いひょいと放り投げて蹴ってみたけど

「相沢ノーコンwww」

 まったく何もない方に飛んで行った石ころは岳を楽しませるだけの結果に俺は二度としないことを心の中で誓った。

「というとこういう事も有効ですかね?」

 なんて三輪さんも拾い上げた石を振りかぶってからの剛速球。

「やばっ!三輪さんかっこいい!ひょっとして投手とか?」

「まさか。ただの外野手です」

 千賀さんのシュートとおなじく石を投げただけでマロを倒す三輪さん達の謎の技術に俺はテンションマックスだ。

 なんてったって運動はからっきしだから的当てだけでも拍手をしてしまう。

 いや、俺の運動神経はいたって標準だけど千賀さん、工藤、三輪さんを見れば標準以下になるしかないのは無駄に高いスペックの皆様がそろった平均値がそうさせるだけ。

いいもん。

その差はレベルで補うもん。

本当に無駄なレベルのあげ方だなと反省するしかない。

「それよりもとりあえず残りのマロを倒しましょう」

 俺と同じく運動に縁のなさそうな林さんの声に皆さんここぞとばかり石を拾っては投げたり蹴ったり何とも忙しい戦法に俺と岳は巻きぞえを食らう羽目になりそうでマロに近寄ることが出来なかった。雪は器用にその合間合間をすり抜けて仕留めていく、さすが俺達のスピードスターだ。


「だけど言わせてもらうからね!

 いくら遠距離から討伐できるからって言ってもこんな風にお肉まで弾けちゃったら食べれる部位なくなっちゃうんだよ!

 お子様じゃないんだから素材と食料の無駄遣いは許さないからね!」

 

 結果沢田さんが激おこになりました。

 やんちゃをした千賀さん、三輪さん、そして工藤も反省をするのははっちゃけたおっさんたちが遊んだ後の景色が地獄絵だから。

 うん。

 まさかただ貫通するだけじゃなく四散するとは誰が想像する。

 さすがにまずいと理解してすぐにやめたけど……

 俺はすぐに三人のステータスチェックすれば

「あー、スキルにシュートなんて物が発生したよ。

 えーと、効果は一撃必殺だってさ」

「物騒なスキルね?」

 沢田もドン引きだ。

「だけどさ、これ弓とかでやればスナイパーとか行けるんじゃね?」

 なんて岳は言うけど

「弓でスナイパーか。締まらんな」

 千賀さん的にはご不満のようだがこればかりはダンジョンが判断するのだから仕方がない。それに

「ダンジョン内では銃は使えないですからね」

 三輪が言うも代用品はないだろうかと簡単に思いついたパチンコは俺の手元にはないので

「遠距離攻撃が出来たら戦術の幅は広がるけどこのメンバーだとただの悪手なので空を飛ぶ魔物相手だけにしましょう」

 林がそう提言すれば渋々という顔で頷く千賀さん。あんたが一番ガキでしたかと呆れていたけど

「空中の魔物に対して相沢の魔法と雪のスキル以外の攻撃が選べれるのは心強いですね」

 橘さんは空中の魔物に対して有効だと頷くので

「まあ、空中戦の補助と思えばましかな?」

 思わぬ収穫に満足していれば千賀さん、林さん、工藤の称号がシューターに代わっていた事に気が付いた。

「おお、工藤の称号が冒険者からシューターに変わったとか」

 ほんとちょろいダンジョンだよなと思いながらその称号を調べれば

「コントロール補正だって。一撃必殺のスキルの上に一発必中とかハンターでも目指してるんですか?」

 思わず三人のステータス画面に問いただしてしまう。当然ながら返事はないが

「まあ、これで工藤も冒険者脱出だけど称号どうする?冒険者とほとんど変わらないステータスだからこのままにする?それとも冒険者に戻す?やっぱり金の亡者にする?借金育ててみない?」

 ワクテカと聞けば苦い顔をした工藤。だけど

「今の工藤には一切の選択権はないからな。この先何があるか分からないから称号はシューターのままにしよう。借金鳥に対しての対策にもなるかもしれないからな」

 千賀さんの指示に俺はそれなら仕方がないとステータス画面を消した。

「俺もせっかくゲットした称号を体に覚えさせたいのでこのままでいきます」

 三輪さんがそう声を上げれば

「だったら俺もシューターで行こう。この先にはいろいろ訓練するにはちょうどいい相手もいるしな」

 なんて千賀さんが言えば

「お肉と素材の破壊は許さないからね!」

 すかさず沢田の注意が飛ぶ。

「だけど美味くない魚相手なら構わないだろ?的も小さいし練習にもなる。

それならいいだろ?」

「……まあね」

 命大切に。

 だけどあいつらは俺達に襲ってくる魔物で駆除対象という理由が通るのは煮ても焼いてもおいしくないうえにすぐに増殖する魔物の数の恐ろしさは沢田も理解しているからダメだとは言えないどうしようもない雑魚だから。

「それよりも工藤」

「ああ?」

 相変わらずガラの悪いお返事はもう本性は隠さないという態度だろうか。

 まあ、こんな風にひねくれた性格になった経緯を知れば今もそのスタイルを通すあたり30過ぎてもかわいい奴wなんて笑えるけどやがて見えた12階の入り口を前にして足を止め

「この靴に変えろ。この先は知ってると思うが水場だからな。少しでも戦闘が不利にならないためのアイテムだ」

 言いながらスーパーのビニール袋に入れられたマゾシューズを渡す。

 なんでビニール袋入りかだなんて、先日村瀬たちに貸した時脱いだ靴を袋に入れて預かった時の名残がそのまま残っていたためだなんて事は言う必要はないだろうから黙っていることにした。


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