秘密兵器を手に入れた!

 何はともあれ雄三匹なのにイチゴ、チョコ、大福なんてプリティな名前を付けられた三匹をつれて畑の見回りに行く事になった。


 畑の先に在る村唯一の雑貨屋に向いそこでビールと今晩の飯を適当に購入。

 両親は不在の為飯は自力で何とかしなくてはいけない。

 車で買い物に行く方が楽だが、大型犬三頭の散歩として約一時間は必要と考えると行って帰ってそれぐらいだからまあいいかなんてなるべく歩いて熊対策も兼ねて三頭を連れて行くようにしている。

 完全インドア型ひきこもりではなく、アクティブ型ひきこもり。

 店の前の道路の反対側がうちの土地なのだから店までは徒歩ゼロ分という卑怯な説明ができたりする。

 ガソリン代もバカにならないので必要最低限しか出かける事がなく、そしてこの雑貨店には同じ高校の同級生と言う縁もあるが、俺より幾分ましな孤高のボッチ貴族が所属していた。 

 骨董品のようなレジを放置して俺が買い物している間にイチゴチョコ大福に水を飲ませてくれるボッチの数少ない横の繋がりがここに在った。

 支払いの時に適当な会話をするも話題は大体もっぱら


「秋葉のダンジョンまた失敗したなー」

「ああ、中継見ながら祭りに参加してきた」


 イチゴチョコ大福に魚肉ソーセージをおやつ代わりに食べさせながら秋葉のダンジョンについて語り続けた。




 今から5年前ぐらいだろうか。

世界中のいたる所である日突然ファンタジーのような地下型ダンジョンが発生した。

街の人はもちろん警察も自衛隊も、他所の国では軍でさえ取扱いに困る物が前触れどころか法則もなく爆誕した。

 もちろん最初こそ危険だから誰も入らないようにと封鎖していただけだったが、そのうちダンジョンの中からモンスターが溢れだすようになり、本格的に討伐をしなくてはならないと国が決めた頃にはダンジョンの数が把握できないほど膨れ上がっていた。

 たった数か月で世界を通じて穴だらけの法整備が整えられ軍隊や自衛隊の人達が管理する中で総て自己責任の下で新たに発生した職業の冒険者が社会的地位を作り上げ、全人類総ハンターと言う義務が発生した。

 全人類なので当然特別な保険なんてない。

 今では小学生ですら体育の授業に戦闘訓練が織り込まれる位年齢関係なく日常に沁み込んでいる。

 強いて言うならその折の怪我は打撲骨折の保険のオプションとして付け加える程度の取り扱いだ。

 ただしそんなマイナスな事ばかりではない。

ダンジョンから持ち帰った物はその冒険者の所有物となり、国営の買い取り所と言う売買の場が用意された。

 最初は当たり前のようにネットオークションで販売されていたが、あまりの高額に犯罪や詐欺が多発し問題となって今ではダンジョン産の物はすべて規制がかかるようになっている。

 当然法整備を無視した物は溢れているが、自衛隊の人達が任務中に手にしたものは株や金などと同様に国際的な価値を統一すると言う公式のルールができれば公式の方が安く、安全で、確実に購入が出来るようになり、高い金を払ってまで手に入れると言うのはすぐに誰もが止めてしまった。

 ダンジョンバブルがはじけたのだと思うも国際機関でもあり、いわゆるギルドみたいな組織が週末に仕入れたダンジョン産のアイテムをオークションするなんてネット番組を作った為にそこでは未だ大盛り上がりをしていたりする。

 もちろん裏では国が決めた価格が基準となって流通し始めているのは誰もが知るところだが……

 呆れるほどの高額商品をサクサク買い付けて行く未だダンジョンない国の財布の紐の緩さに俺達自宅警備員達はネットで盛り上がる程度になっていた。


「所で相談なんだけどよ……」

「俺が金を持ってるように見えるか?」

「いや、そうじゃなくって……

 うちの便所がいつの間にかダンジョンにリフォームされていたんだけどどうしたらいいんだっけ?」


 そいつはぱっと俺の顔を見たかと思ったら暫くの間口を開けた状態で


「とりあえずあいつらが出てくるかもしれないからバルサンでも焚いとけ」


 埃の積もった売れ残りのバルサンを手のひらに置いてくれた。

 しばらくの間じーっとうっすら埃をまとうバルサンを見つめ、もう片方の手で親友の手を強く握った。


「ああ、これならあいつらだってイチコロだよな!

 悪いけど店閉めたらうち来てくれるか?」

「まかせろ。カメラを装備していく!」


 そう言って店に在った埃の積ったバルサンや殺虫剤を大量に押し付けられてしまった。

 こんなもん効くのか?なんて不安になりながらもイチゴチョコ大福を連れて薄暗くなりかけた家路をたどるのであった。




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