腹八分目なんて無理な話
焼かれていく肉の汁がしたたり落ちてジュッと音を立てて炭に焼かれる。
香ばしい香りに焼かれる肉の脂の匂い。
何度匂いを嗅いでもたまりませんなあと涎があふれ出てくる。
食べなれた俺がそうなのだからちらりと向けた視線の先の二人の様子も酷いものだ。
焼かれていくお肉をじっと見つめながらも塩コショウやタレを握りしめて準備をしている。
あっという間に両面の表面が焼ければ中はまだかなりのレアだと言うのに二人は待ちきれないと言ってお肉を取り皿の上に引き寄せさっと塩コショウやタレをざっとかけてナイフとフォークを使って丁寧に一口サイズに切り分けて口に運んだ二人は固まったのはわずか数秒。すぐに覚醒したかのように目を見開いてお肉にフォークを突き立てていた。
マナーなんてあったもんじゃないくらいの気持ちよいかぶりつき。
そしてそのまま口へと運んで噛みちぎるように食べていくワイルドスタイル。
さっきまでの上品の良さ何てどこにもなく、ステーキを焼肉でも食べるかのように一瞬で食べつくしたかと思えば網の上に置かれたお肉を二人はうばうように自分のお皿の上に引き寄せていた。
いや、すごい食欲って言うか怖いぐらいの食欲。
あまりの気持ちよい食べっぷりに感心してしまう。
「さすが自衛隊の人だね。
体を作る為に食べるのも仕事だって言うけどこの食べ方は凄すぎるよね!
自衛隊の食堂の人もそれを賄うのだからすごいよね!」
お肉をわんこそば状態で食べる二人に感動しながらどんどん焼き肉のごとくお肉を焼いて行く沢田もおかしいがそれを食べていく二人もまたすごい。
「一瞬で2キロ食べちゃったね」
なんて言いながらも
「だけどバランスよくお野菜も食べなくちゃね?」
なんて言いながら少しお皿に隙が出来た所に焼いたばかりのお野菜も乗せていく。
「お肉ばかりだと飽きるのでお野菜もぜひ食べて下さいね」
二人が畑からもいできた野菜は別のコンロで焼かれていた。
お肉の中に混ざった色合いに二人ははっとしたように食べる手を止め
「そちらも美味しそうですね」
「是非頂きたいです」
したたかにお怒りの沢田さんを思い出していただけて何よりです。
それでも二人はあの山もりのお野菜を食べきった。
さらに〆と言うようにご飯にお肉を並べてステーキ丼を食べていた。
「私達もウサッキーとかマロ肉初めて食べた時はあんな感じで食べてた覚えあるけど」
「客観的に視ると凄い光景だよね」
かつかつとご飯をかっくらう様子に
「お替わりは自分でお願いします」
なんて言えば近くに置いた炊飯器から二人ともお替わりをしてかなり火が通りすぎてしまったお肉を乗せた所に焼き肉のタレをかけて書き込むように食べていた。
これはまねは出来んななんて見ているだけで胃もたれするような食べっぷりの隣で優雅に緑茶を啜っていた。
心なしかお腹周りがぷっくりしている二人の姿にも心当たりはある。
一過性の物だから問題はないだろうが、それでもあの引き締まった体でもポッチャリ系になるんだから死してもマロ恐ろしいと他人事のように眺めておく。
その合間にも食事を終えて沢田からよく冷えた麦茶を頂いていた二人は満足そうにお腹をさすりながら、という事はしなかった。
ひどくまじめな顔で俺を見て
「先日から世間をにぎわす動画が流れているのはご存じですか?」
「結構ありますけどどれでしょう?」
なんてとぼけて見るものの空気を察してか沢田は俺の後ろに隠れるように立つ。
まあ、俺がキャンピングチェアに座っているから隠れるもないが、それでも一番安全な場所はここだと言うように位置取りを決め居ていた。
「その動画ではダンジョン10階に出現する、魔狼を攻略すると言うものです」
「その中で魔狼は『マロ』と呼ばれています」
なんて二人に睨まれても俺は怖くない。
「我々はそのダンジョンを探しています。
IPアドレスや申請待ちのダンジョンと言った条件からこちらが件のダンジョン、そしてあなた達があの動画の配信者だと想定して訪問させていただきました」
やっと本題に入ったと言うか特定していたのならさっさと来てよと溜息を零せば二人の視線が厳しくなった。
だけどそれとは別にユーモラスになったお腹周りが一致しませんよと口元がニヤケテしまうも、背後からの咳払いで俺もすぐに真面目な顔を取り作る。
「別に敵対しようとかは思ってません。
本当に心から早く自衛隊の人に来てもらいたくて餌をばらまきました。
たとえその餌が毒薬でも、ダンジョンが発生した以上無責任にも放置することは出来ません」
全人類総ハンターなのだ。
個人の敷地内のダンジョンの責任は所有者に責任が発生する。
だからこそ早く自衛隊の人に来てもらいたかったのに二週間も放置されれば俺の繊細なメンタルはマロでも狩って美味しく食べないとやっていけなかったのだ。
「俺達は今15階のボス部屋の手前で足踏みをしている状態です」
言えば二人の目がぎょっとしたように見開くのを見て
「そこまで得た情報と引き換えに15階のボス部屋の情報が欲しいのです。
決して悪くはない取引だと思いますがいかがでしょう。
もちろん、必要なら俺達も遠征に参加します。
秋葉のダンジョンって一応封じ込め成功って事になってるけど、実際は小規模だけどあふれ出していますよね?」
その言葉に二人とも返事はしてくれなかった。
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