時間と言う物は常に無常だ
思うにこれは一方的な命令だと思う。
すでに取引という言葉は成立しない。
なんてったってダンジョンの中のあの超人的な肉体はダンジョンの外では通用しないのだ。
あふれたモンスターに対する戦闘手段はほとんど戦争並みの戦力を持ってでないと駆逐できないのである。
すぐ消されたけど今話題に出した秋葉のダンジョンからあふれ出たモンスターの動画を見たけどわざわざ合成を作って混乱を招く意味が分からない。
寧ろ早く逃げろと言う警告になるのだから何が悪いのかと思うもやっぱりメンツの問題なのだろう。
呆れてため息が出てしまうも
「三輪さん達が欲しかったダンジョン発見者の称号は俺が持っています」
言えば暫くしてチッと舌打ち。
「気づいたか」
「はい。とうぜんツリーも見たし選択もしました」
やっぱり二人は知っているようで忌々しそうな顔をする。
「そもそもダンジョンに入らないようにって言っておきながらいつまでも放置する方が悪いんですよ」
なんて文句を言えばむすっとした顔の三輪さんが
「通報者が二十代前半の男性となったら当然入るだろうって相場は決まってるのだよ。
その時点で称号獲得を諦めてまだ可能性のある場所へと向かう方が有意義だ」
「ひでぇ……」
そんな取捨選択のために俺はひたすらGの恐怖に耐え続けて殺虫剤男になったのかと思えばその経緯を知る沢田が代わりに泣いてくれた。
肩が震え腹筋がプルプルしているあたり泣きたいほど笑い転げたい衝動を耐える様子は目の前のお二方には女の子を泣かせてしまったと言う後ろめたさを与えたようだ。
いいぞー沢田。もっと泣けー。
俺で笑われるのは腹が立つがいかつい自衛官のうろたえる姿に比べれば全然笑って下さいと言う所だろう。
「で、他の所は別の自衛隊の人が行ったからそろそろヤバいからお二人が来たと?」
「ぶっちゃけるとそうなるな」
「この事実をネットでぶっちゃけたい……」
「きっとすぐに消されますよ」
なんて比較的口数の少ない橘さんに突っ込まれてしまった。
「ところで聞きたいけど、他のダンジョンを発見した人はどうなってるの?」
聞けば二人とも口を閉ざすも三輪さんがゆっくりと口を開き
「大体どこのダンジョンでも比較的モンスターに殺されて生存例が少ないな」
「「こわっ!!」」
「その為にもダンジョン発見したらすぐに通報、そして中に入らないようにと言うルールなのです」
「もうちょっと説明が欲しいです」
本気で震えながら聞けば
「ダンジョンが発生してからすぐ発見されればまだましですが、使ってない車庫だったりすると発見まで数日かかり、気が付いたらGが大繁殖していくら弱いモンスターと言えど数に押し負けてしまいますので」
それが敗因になるのだろう。
「ところで相沢君はどうやって一人、いや、沢田さんと岳君だったかな?三人でこの二週間防衛していたのか聞いても良いかな?」
聞けば沢田は俺に任せると言うように視線を送って来たので俺は肩を竦めて
「とりあえずバルサンを焚いておきました」
きりっとしたいい顔で、それに付随する出来事は一切口いせずにドヤ顔で言ってみた。
さすがに三輪さんと橘さんは
「「は?」」
なんて聞き間違いかというような顔をしていたが
「ありがたい事に一応効いていたようなので岳に頼んで沢山バルサンを購入してきてもらってダンジョンのフロアを下りるたびにバルサン焚いてみました。
ありがたい事に昆虫系には効果覿面で防衛に役立ってます!」
少しドヤ顔で言ってみれば信じられないと言う顔をされてしまった。
一番信じられないのが俺だし、今となれば毒霧一発でウサッキーはもちろんマロも倒せるぐらいに進化してしまったのだ。
さらにありがたい事に11階以降のフィールドダンジョンでも大活躍している。
フィールドの大草原と言えば虫。
当然ながら訳の分からない虫が大量に巣食う大自然と言う俺にとって一番苦手とする場所なだけに歩きながら毒霧をばらまく公害を発生させている。
まあ、そんな俺がこんな山奥で雑草の侵略と戦いながら暮らしていると言う意味不明な生活をしているのだが、まあ今の俺にはスキルダンジョン外使用許可と言う素敵なスキルがあるおかげで家の中に入ってくるカマドウマぐらいへっちゃらで退治できる。
ただやりすぎると虫によって畑の野菜が結実しなくなるからやめてくれと岳に盛大に怒られるし、せっかくの無農薬野菜なんだからバルサン焚かないでと沢田にも怒られる。
田舎暮らし、理不尽な事ばかりだと蚊取り線香ぐらいは許されているので今も足元では本当に効果があるのかわからない蚊取り線香が頑張って煙をあげてくれている。
「そうだ。モンスターが地上に氾濫してると言うのならバルサンが地上でも効くか一度試してもらってもいいですか?」
バルサンの話しが出た所で家にバルサンを取りに行ってくれた沢田が三輪さんにバルサンを渡してくれた。
「あとご飯食べ始めてから一時間以上経ってますが時間は大丈夫ですか?」
なんて心配げにやたらと会話の上手い三輪さんの退出を促せば
「そうだったな」
なんて思い出したかのような顔をして立ち上がり
「まずは着替えましょうか」
「だな。の前に、ズボン入るかな……」
しっかりジャージのウエスト部分が伸びてしまっている自分のその姿に少し考えて
「途中のサービスエリアで着替えるか」
「そうですね。運転して少し食休めしてから着替えた方が良いでしょう」
橘さんはこのまま家に滞在となるので着替えるつもりはないらしい。
三輪さんは玄関で着替えたスーツを皺が寄らないようにハンガーにかけて車に乗りこむ。
橘さんはこのまま置き去りだからという理由にこの地域車がないと不便ですよと言いたかったが
「橘、予定通り明日の昼までには自衛隊のヘリコプターで仮設本部が設置される。その時車も手配してもらうからそれまでダンジョンからモンスターが出てこないか警戒を忘れるな」
「はっ!」
なんて敬礼する姿をかっこいいと俺と沢田で拍手をしていれば三輪さんは少し照れたように笑い
「お昼ご飯をありがとう。
最高においしいごはんだったよ」
なんて、時間も押しているからか橘さんともっと別れっぽい別れをすればいいのにと思ったけどそのまま車は坂を下って行った。
あっけないな、なんて思っていたけど、すぐ隣でいつまでも敬礼した姿のままの橘さんから鼻をすする音が聞こえ……
俺と沢田はそっと何も見てない聞いてないと言うようにその場を離れるのだった。
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