素敵な感想が欲しくてしているわけじゃないけどもうちょっと優しくしてください沢田さん
マゾのいる15階までの慣れた道のりに足取りは軽かった。
ただし岳と沢田はそんなわけにはいかない。
工藤の時に暇を持て余した……ではなくストレス発散と俺と雪はそれなりに昼間は千賀さん達の目が光ってるから大丈夫だろうと踏んで思いっきりダンジョンに潜りまくっていた。挙句に食事は別々な事をいい事にダンジョンに潜りまくっていた。
そう。
ダンジョンでお泊りしながら時々帰って顔を出してと言う生活だった。
そういや俺この山の家に来てから旅行なんてあんまり行った事無いよ。せいぜい衝動で東京に帰ってみたり、お約束の修学旅行程度。
まあ、基本ボッチだったしやっぱりお金の問題があったからね。
年金暮らしの婆ちゃんと忘れた頃に顔を出すお袋。しかも婆ちゃん逝ってからは婆ちゃんの遺産を継いだのだからと現物支給ばっかりでほんとクズ親で泣きたくなった。しかもそれもお袋の親から言われてしぶしぶとだ。
まあ、それもこの素敵ニート生活で切り捨てられかけているけど、普通の会社員の家庭の祖父母に切り捨てられても孫にどんな徳があるのか考えたら築60年を超えたお住まいのご自宅が財産のすべて。過疎化の進む土地でフルリフォーム必須な建物。
負の遺産も遺産だからねと縁がない方が良いのではと思うのは俺の体験からだろうか。
因みに内孫がドラマに感化されて医者になりたいと言い出してなけなしの老後の貯金をはたいて医学部に進んだそこまでは素晴らしいが、二年になる為の単位が足りなくて大学を辞めてしまったと言う二度聞きする様なびっくり展開に伯母さんはパートのかけ持ちをしていると言う。因みに従弟殿は今ではカラオケ屋さんでバイトをしている。
「大学受験した時の情熱はどうした?」
と聞けば
「ドラマが終わったと同時に消えたね」
受験の終了と同時に終わったドラマに二年生になれないわけだと納得の答えを貰った時は腹を抱えて笑った良い思い出だ。
もともと親も旅行とか連れて行ってくれなかったので旅行に行こうと言う概念が乏しい俺だったが、まあ、東京都とここの行ったり来たりを旅行とすれば十分だとも思っていたけどね。
だけどダンジョンの11階のフィールドを見てテンションは爆上げだった。
「俺なんかアフリカ旅行してるwww」
なんて現実逃避的にだけど。
その後の水墨画の世界や密林みたいな世界、古代の森と言った普通には決していけない世界はしでかしの歴史があれど感動して美しいとも感じていた。
だけど一番お気に入りは11階の源泉だけどね。
仕方がない。
温泉大好き日本人。
沢田もぼやいたがやっぱりワープ的な物があればどんどん攻略もはかどるだろうけど、それがない以上自力でお気軽な移動となるとやっぱり源泉ぐらいの距離になってしまうのだ。
普通に温泉はいりたいしね。
バスクリンじゃない温泉最高じゃん!
もちろんお湯をお持ち帰りしてお風呂に入るけどやっぱり違うんだよ。
あのなんとも言えない解放感!
沢田がいない日はフルオープン派なので誰も居ない世界にこんなことが出来る解放感を満喫しているけど、その時の雪のお湯をかけるなよという冷たい視線がまた快感を……
それは置いておいて、15階の扉を前に少し休憩したいと思うもののやはりこのフィールドダンジョン。囲まれた迷宮ダンジョンと違ってどこから攻撃されるか分からないリスクもあり、いくら小屋があっても油断できない状況なので
「休憩したいだろうけど今から一番安心できる所に移動してから休みたいと思いますが反対の人いますか?」
なんて聞けば俺と雪のペースに必死になって着いて来た沢田と岳はまだ歩くのと言うようにしゃがみ込みながらも
「ペース早くてもう歩けない!」
「さすがにきついんだけどそこ近いの?」
珍しく泣き言を言う沢田とダンジョン内ではいつも嬉々としている岳もしんどそうに聞くから
「まあ、マゾ倒した後の部屋が完全なセーフティーゾーンだからな」
言えば雪が後戻りしないよと言うようにドアを押し開けて入って行くのを絶望的な眼差しで見ている二人。
「なんか前にもこんなことあったよね?」
「あったなー。ってかこんなノリだったっけ?」
すぐに階段の下まで降りて行った雪を追いかけながら
「マゾと初のご対面ってわけじゃないんだから扉が閉まる前に行こうぜ」
言えば待ってーとあわててついてくるかわいい岳(?)と仕方がないわねえと言う沢田。沢田逞しいよなと口には出さずに心の中で唸っていれば既に魔象は形成されかけていて
「雪、早いって!」
「ちょ、相沢!判っていると思うけど濁流だけは嫌だからね!」
にわかに騒々しくなる15階のボス部屋の片隅でちょこんと体育座りをする岳とお行儀よく隣で座る雪と言う正しいギャラリー対応。
それを見て沢田も岳の背中に隠れるようにしゃがみ込む理由はたんに沢田が泳げないだけ。
源泉の所で浮き輪で浮かんだりしてプール的に遊ぶ分には問題ないけど泳いでいるとなぜか沈んでいく不思議。マゾの濁流を一度どんなものか体験しておこうなんてチャレンジした時は沢田の暴れっぷりにもう少しで岳がお亡くなりになるところだったのは言うまでもない。
そして今回もその時の位置取り。
マゾが怖くて岳の後ろに隠れているの、なんて言うものではなく万が一の時はしっかり抱えて逃げてねと言う準備。
なかなかどうして酷いなと思うもそれで連携が取れているのなら問題はない。
岳と沢田、そしてマゾ。
お互い準備が整った所で俺もマゾの牙から作った剣を構えた所で濁流を放とうと長いお鼻を振り上げ思いっきり息を吸い込んでから濁流を放つ為の予備動作。
沢田じゃないけど俺だって濁流は勘弁してほしいので……
動作の鈍いマゾに一瞬で駆けよってからの、あの固い皮膚さえ無視して滑らかに肉と骨を断つ一閃。
「ふんっ!!!」
決着は一瞬。
すれ違いざまに振り切った剣にはマゾの血など一滴もついてなかった。
「だけど何回見ても全然役に立たない見本よね」
沢田の呆れたような感想と共に自重で肉が滑り落ちて真っ二つになった魔象を俺はなんだか悔しい思いをしながら回収するのだった。
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