休息は大切な時間かと思います

 心の中で滂沱の涙を流しながらも作業的にマゾを片付けて部屋の片隅でバーベキューセットを用意する。

 炭だと煙たいのでカセットコンロを出した後は俺達は待機。

 と言うか岳は即行で眠っていた。


「どこでも寝れるって羨ましいな」

「羨ましい?本当に羨ましい?」


 思わずぼやけば沢田のお疲れモードを吹っ飛ばすお料理タイムだと言うのに睨みを利かせてきた。

 いや、睨まれる理由判んないけどと思えばリズムよく野菜を切りながら顎をしゃくられて気が付く。


「ああ、マゾは片付けたけど一面血の海だったな」


 室内のど真ん中を染める赤に確かにそれを眺めながらの料理なんて楽しくもない。

 しかも


「なんで私はこんな時にミネストローネなんて作ろうとしているのかな!!!」


 野菜とベーコンたっぷりのスープを大量に作り出している様子から帰り道もミネストローネが食べれるとうきうきしていた俺はそっと視線を反らす。

 しかもウサッキーの下味をつけた肉の香りが漂いながらの血の海と言う景色。

 オコなのはわかります。

 レッツお料理!でも疲れて休みたい状態なのはわかります。

 すでに準備してきてある物を使っているだけだからそれで手抜きですと言う理屈は事前に掛けた手間と言う時間を考えれば手抜きとは言えないだろうと言いたいが下手な事を言うと料理を馬鹿にするなと言われるので口には出しませんが……


「匂いがおなかを虐待してます」

「えー、じゃあおにぎりでも食べてく?」

「ス、スープだけでもいいので」

「仕方ないわねえ……」


 俺の収納とは言え食に関しては一切の権限がない俺は沢田にお伺いするように温かいものが欲しいと言えば文句を言いながらもココット皿にスープとおにぎりではなくパンを突っ込んでそこにチーズをもりっとかけてくれた。

 やだ、ミネストローネのアレンジですか?

 と言うかそのあふれたチーズをどうやって溶かすんですか?

 なんて未知への料理に期待すれば沢田はカセットコンロの予備のガスを使って薪に火を付ける時のバーナーを取り出し、アツアツのミネストローネを入れたココット皿を床に置いて上からバーナーで焙りだした。

 一瞬で溶けるチーズ。 

 おまけに床も焼けるけどそのうち元通りになるので無問題。

少し焦げてしまった感じがまた食欲をそそり……

 一瞬にして室内に広がるチーズの匂いに


「なんかいい匂いしてるんだけど?」


 岳も口元から涎を垂らしながら起きてきた。

 寝ている時の涎か空腹を刺激された涎かなんて知りたくはないが、口元を拭いながら俺のミネストローネチーズグラタンをガン見しながら


「なにそれ!相沢だけずるい!俺も食べたいんだけど!たーべーたーい―!」


 涙目の岳の駄々っ子な訴えに


「はいはい、分かったから。

 今直ぐ用意するから少し待ってて。相沢はアツアツのうちに食べちゃって」


 なんて沢田は野菜が煮える間を使って新たにココット皿を二つ取り出していた。


「沢田も食べるの?」


 きけば謎の凄味を出して


「当然でしょ!相沢がこれだけ美味しそうに食べてるの見せられて私が食べないなんて選択ないじゃん!」


 さすが空腹の沢田様。

 逆切れする様子がなんだかかわいいなあと思えば先にカリカリを貰った雪さんは呆れたように猫ちぐらの中からしょうがない奴らだなと言うようににゃーと突っ込んでくれた。


 直ぐに出来上がったミネストローネチーズグラタンを三人でハフハフ言いながら食べる。

 トマトとチーズの相性最高!

そこにミネストローネのスープをたっぷり含んだパンが付いているって最高じゃん!

さらにちょうどウサッキーのお肉も焼けると言うおなかも温まった所で脂が滴るウサッキーの肉。

 あっさりとしていて疲れた胃袋に優しい肉質だけどあっさりし過ぎる所にハーブと塩コショウのパンチが効いて疲れた胃袋なんて忘れてむさぼってしまうのは単に腹ペコだから。

 だけど沢田の優しさは単に俺達の欲求を満たしてくれるものだけではない。

 ミネストローネチーズグラタンが呼び水となって無限に食べられる状態の胃袋に欲望のままウサ肉を食してしまう。


「んめえええ!!!」

「ハーブの力ってほんと旨いよな!

 俺が一人で潜る時はいつも塩コショウで焼いただけで獣臭さ残ってるのにハーブ使うだけでこんなにも変わるなんて沢田と一緒の時ってほんと幸せだよな!」

「おだてても今日はウサッキー以外出しません」

「でしたらミネストローネのお替わりを!」

「セルフだけど食べ過ぎ禁止だからね!」

 

 なんて腹が満たされればいつもみたいに賑やかになり、思わず食べ過ぎてしまう沢田の料理にやがて眠気が襲い掛かり


「相沢も沢田も少し寝れば?

 俺はさっき寝たから体が楽だし、雪もいるしなー?」

「なー」


 猫ちぐらから出てきた雪が体を伸ばしながら食事を終えた俺達を見て沢田の足にすり寄りながらのお返事。

 沢田にご飯をねだりながらの岳の言葉のお返事。

 ツータスク出来る雪って天才じゃん!

 思わずちゅーるを取り出し「雪しゃん頼もしいねー」なんてご機嫌でちゅーるを食べている間の至福のお触りタイム。

究極の癒しですが残念とは何ですか?

 チュールとお触りの等価交換、50:50だと思いますが何か?


 残念なんて言う声は無視して洗い物は帰ってからで十分だからと小屋を収納から出せば


「じゃあ、先休ませてもらうねー」


 あくびをしながら小屋の中に入っていく沢田を見送る。

 ちなみに沢田の部屋は小さいながらもロフトがあるのでそこになっている。

 岳がカーテンを取り付けてくれたので壁の代わりとなって完全個室になったけどあの件があったからか何とか自衛が出来るように個室にしようと模索中。

 ちょうど水井さんがいるから相談しようとした所で居ないなんて……

 あの人なんで大学のトップの人達と最下位の人達の面倒を見ているのかと疑問を覚えながらも満たされた腹からの眠気には逆らえず


「岳、悪いけど俺も寝させて」

「相沢、凄い顔だけど大丈夫?」

「どんな顔だよ」

 

 まあ、寝不足な顔なんだろうけど。それが岳にも分かるぐらいだからよっぽど酷いのだろう。

 常に先回りして安全を確保した雪に沢田と岳を置いて行かないように気を配ったペース配分。

それはレベルアップ時に確実にプラスになるようにと願って休ませず走り続けた結果はマゾを超えた先で結果が出してくれるはず。


 決してマゾを超えたマゾと言わないように。


 この訳の分からんダンジョンシステムが何を判断基準にするか分からないから油断ならんと俺は口数少なくしているけど……


 違う。

 水井さんだ。

 あの人何か企んでいるけど何をしようとしているかなんて……


 水井さんの事だからきっと面白い結果を出すのだろう。

 だけど、今の俺にはその企みを裏から協力できるほど頭が働いてなく……


「うをっ!相沢!立ちながら寝るな!!!」

 

 なんか岳が満員電車必須スキルを否定しているけど俺はふわふわと気持ちよくなった頭と体で岳に運ばれて小屋の中のソファー件ベッドに寝かされるのを起きた時に気付くのだった。


 

 

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