魚の煮つけのようにして食べてみようとしただけです
お昼寝としては長いだろうが二時間ほどして目が覚めた。
岳も寝ていたのかいつの間にか寝袋だけが床に転がっていて、足を引っかけないように片づけようとすればさっきまで居たと言うようにぬくもりが残っていた。
二階はまだカーテンが閉まってるから沢田は起きてないのだろう。
レベルこそ岳と一緒だけどパラメーター的にはレベル30ぐらいだった時の俺よりも数値は低い。
家で料理をしているから岳ほどダンジョンに潜ってないのがここにきて差が出てきた。
まあ、沢田には必殺の『女王様』って称号があるから何とかしのげるだろうけど……
あれ、ちょっと性格まで変わるの何とかしてほしいよなと思うもそれも称号の影響なのだろう。ちゃんと沢田も理解していて闇歴史と言うようにクッションに顔をうずめて吠えていたのを知らないふりはしたけど。
万が一の時は『女王様』だよな。通常は使い慣れてる闇魔法使いが良いだろうけど。
マゾの防御力は物理的な攻撃には高いけど魔法耐性ってどうだろうかそれも実験だ。
俺とじゃレベル差があって参考にならないしね。
岳はマゾの牙で切り出した剣とバットで挑むつもりらしい。
なんて高価なバットだろう。
いや、装備は揃えたい派だから使っていいよとはいったものの誰がバットを作ると思うのか……
武器を作ってもらう依頼先がダンジョン対策課内にある武器の開発部的な所にお願いしているから林さん経由で依頼する事になるのだけど……
ちょうどその時俺はよそ事をしながらその様子を見守っていただけだけど、林さんに何度も「これでいいの?」「本当に良いの?」なんて何度も確認していた事を納品されて見た時もっとちゃんと確認しておけばよかったと後悔と笑いがあふれ出した。
結局の所岳は使い慣れたバットに代わるものが欲しかっただけで、せっかくならと言ってマゾの牙でお願いしただけの話し。
所でマゾ牙って硬いのか?ぶん殴って一発で壊れたら話にならんと思って林さんに聞けば
「マゾの牙ね。うん。硬いらしいよ?
クズの牙より硬いから安心して?」
最後まで止めきれなかった林さんはちゃんとそこの所も調べてもらったらしい。
林さんって工藤の件以外に関してはほんと有能なんだけどなと複雑な気持ちになってしまうが、工藤を捕まえて以降何やらいろいろと連絡を取っているようだ。
俺の耳がデビルイヤー状態だからあまりお話はしないようにメールをしているようだからさすがに俺でも分んないけど、たまにかかってくる電話に
「もう捕まったから安心していいんだよ」
なんて会話を聞いてしまったらそれ以上工藤の件に関して突っ込めないじゃんと口を閉ざしてしまう。
多分俺達が知らないだけでずっと連絡を取りながら励まして来たんだろうなとそれだけの優しさがあるのなら沢田にもその優しさを少しでも向けてほしいともやもやした気持ちは今もくすぶっている。
そんな謎装備のデビュー戦となるはずなのに肝心の岳がいない。
どこに行ったと小屋を出ればこの15階のフロアのど真ん中にあった血だまりはいつのまにか消えていた。
まあ、ぼちぼち消える時間だよなとここまで起伏の激しいフィールドを歩いてきたからこのフラットな室内は見まわすだけですべてが見えて便利は便利なんだけど
「岳がいないとはどこぞに行った?」
なんて小首を傾げれば14階の階段から降りてくる足音が聞こえた。
一瞬魔物が降りてきたかと思ったものの聞き慣れた足音に警戒を解けば
「あー、相沢やっと起きた。良く寝てたな」
「おかえりーってどこ行ってたの?」
なんて聞けば雪も一緒に降りてきて二人でデート?ちょっと俺ジェラシー。
だけどそれもどうでもよくなる一言は当然
「トイレ!雪と一緒に14階でツレションw」
うん。ここでしなかったことを褒め称えたい。
一応小屋にもトイレあるけどそこは完全沢田専用。
もちろん自分で処理してもらうがやっぱり女の子がお外でと言うのは俺も岳も耐えられなかった。
「最悪一人用のテントでって考えていたんだけどね」
あまりのたくましさにその案は俺達が貰う事にして完全個室は沢田オンリーで使ってもらう事になった。
ついにボットンから屋外になったかと大切な何かがどんどんなくなって行くような気になったものの考えるとなんだか泣きたい気分になるので話を変える事にした。
「マゾ戦の準備は出来てる?」
「まあ、いつもの通りやるだけだから。
さっきトイレ行ったついでに近くにいた魔物で試して来たんだけどやっぱりクズより硬かったよ。
クズで殴り掛かった時は首が曲がっちゃいけない方に曲がっただけだったけどマゾでやったらちょー飛距離が出てさ……」
ちょっとだけ死んだ目にこれ以上は聞いちゃいけないとすぐに判断。
「そうかー、だけどマゾはタコ殴りしてくれって言うくらい防御力高いからどうだろうなー?
そういや沢田も新しい武器手に入れたんだってな?
何か聞いてる?」
「林さんと話し込んでたよね。
沢田の事だから巨大な包丁とかだったり?」
「いやいや、案外実用的に麺棒とか?」
本人がいないだけに言いたい放題だ。
だけど自衛隊の人が回収に来てくれるまで納屋に放置している素材はあまり減った感じがしなかったから一体何を作ったのかと気になっていれば
「おはよー。二人とも元気ね……」
よっぽど疲れていたのかまだまだ眠たそうな沢田だったけどそんな彼女に11階の温泉水をカップに入れて渡せば喉が渇いたと言うようにいっき飲み。
そして効果も合わさってシャキッとした沢田さんが出来上がったけど寝癖だけは直らなかったようだ。
「おはよう。少しは休めれた?」
一応今からマゾと対戦するのだ。コンディションを確認すれば
「自然に目が覚めたから大丈夫だと思う。
疲れもこれで吹っ飛んだしね」
「それなー。疲れは一瞬で吹っ飛ぶけど精神的な疲れには効かないから要注意だし」
「まあ、それで何とかなったら完全ヤバいよね」
なんて笑顔になる辺り状態は大丈夫なのだろう。
「そういや今沢田も武器を新調したって話ししてたんだけど?」
聞けば沢田は頷いてズボンのお尻のポケットに刺していた短い杖を俺達に見せてくれた。
「見て見て、綺麗でしょう?」
そうして出してくれたのは細く長い魔法の杖と言うにはぴったりの姿のモノ。しかも持ち手の所には何やら白い水晶体の石が埋め込まれるように飾られていてちょっとした工芸細工のようだった。
「この白い石なんだと思う?」
なんてにこにことする辺り珍しいものなのかと言うように考えれば
「魔石!」
「ブブ―!はずれ!」
定番な答えを言った岳だけど違うのかと俺はまじまじと綺麗な丸い球を眺めるだけ眺めて……
「降参」
素直にわからないと言うように言えば沢田は魅惑的な笑みを浮かべながら
「これね、マゾの目ん玉の水晶体なんだよ」
俺と岳の悲鳴にならない悲鳴とこれが闇魔法使いの真骨頂かと思わず一歩だけ逃げ足になってしまったのは言うまでもない。
「じゃあこれから使い心地試すから、相沢早く小屋を片付けて14階に戻るわよ!」
謎のやる気を見せてくれる沢田にせめて14階の魔物で試してから使おうよと提案する役目を岳に押し付けるのだった。
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