アップデートに期待する!

 とりあえず10階をクリアした所でいつの間にかちゃっかりついてきていた雪がズボンのすそをカリカリとひっかいてきたのでお茶の時間になった。

 ここに来たらちゅーるタイムと言うのが癖になってしまったと言わんばかりにねだられてしまうが、そこで俺達も同じタイミングでしっかりと水分補給と軽食を取る。まだダンジョンに入って二時間も経ってないけどこの先安全でゆっくりできる場所はあまり多くはないのでここでしっかりと休んでおく。


「それでマゾの所まで行ったら誰からやるの?」


 なんてご飯を炊飯器に入れてそれ事持ってきた沢田は簡単におにぎりを作ってくれた。

 具はもちろん(?)岳の家で死蔵しかけている梅干し。

 おばさんが趣味で作るもののそのまま食べずに放置している物が物置の中に並んでいる物を岳がせっせと俺の家に運び込んでいたものだ。

 いや、嫌いじゃないけどうちに運び込まれても……なんて思ってたのもつかの間。沢田がおにぎりにしてくれたりお茶づけにしてくれたり焼酎のお湯割りに入れてくれたりとなんだか俺に強制的に食べさせてくれていた。

 料理じゃないじゃんと言われそうだけどちゃんと裏ごしをしてささみに挟んでカツにしてくれたり白身魚にぬって焼いたり和え物の味付けとかサラダのドレッシングとかではないメインに使ってくれるから消費も激しい、と思う。ほら、俺は食べる専門だから。沢田が料理している間下手に手伝うと怒られるから。

 料理に使うように野菜を茹でて下ごしらえしていた奴をつまみ食いしてたら食べ過ぎていたのがばれて以来俺が沢田の料理中に台所に入るとすごく警戒される所から始まるから中々に調理している所に足を運ぶのはなるべく控えている。

 いくら長い事使っていなかった納屋の台所とは母屋の台所に関しては何も言わないから俺が文句言う筋合いもないんだけどな。

 納屋の台所は治外法権と言った所だろう。

  そんな事を思い出している間に作ってもらったおにぎりとインスタントの味噌汁を飲みながら


「とりあえず一回目は俺から行く。雪じゃあまり参考にならないだろうし、そのあと岳、沢田って順番にするか」

「にゃ?!」


 雪が俺の出番がないんだけどと言うように目を見開いてにゃーにゃ―と抗議をしてくる。

 うちの雪さんほんとダンジョンの中だと俺達の言葉をちゃんと理解して賢い子ねと頬ずりしたくなるけど返ってくるのが爪を伸ばしてのニャンパンチなのでそこは自重。

「じゃあ、最後は雪だね」

 そんな妥協案に満足げににゃーと鳴く雪のかわいさににこにことしながら

「じゃあ相沢、これみんなの非常食だから一応持ってて」

 いくつものおにぎりをラップで巻いたものを受け取って収納していく。

 もちろんちゃんと食べたものも炊飯器も片づけて

「いざ15階へ!」

「なんて気合入れてるところ悪いけど」

「ここから先のダンジョンってほぼ道筋が真っすぐってどういうこと?って思うよね」

 言いながらあまり履きたくないけど魔象のお宝のブーツをはく。

 もちろん雪も前足と後ろ足にも履いてもらう。

 どんなサイズにも合わせてしまう高性能なブーツ、実はすごい機能がある事が発見されたのだ。

 なんと雪の爪の攻撃が出来ないからと前足は履かないようにしていたけど酷いぬかるみの中を通る時履かせてみたらブーツから爪が生えたのですよ!

 やだ、高性能すぎる!

 とは言っても初期の頃のブーツには実装されてなかったものだけど比較的最近ゲットしたブーツにはこの訳分らん機能が着いて来たのだ。

 このチョロすぎるダンジョンで確かに雪の爪攻撃を封じるアイテムなんて役に立たなくて必要ないななんて言った事もあったけど。

 迂闊な事を言っていろいろ酷い目にあった事もあったけど、主に沢田が。

 だけどここに来てアイテムにまで改良を加えて来るなんて誰が思うだろうか。

 人間様には一切役に立たない仕様だけど

「真っ白な雪さんに淡いグレーのマゾカラーブーツ、かわいい」

「おーい相沢戻ってこーい」

「確かに雪はかわいいけど相変わらず飼い主馬鹿ね」

「洋服とか絶対来てくれないからこの姿が尊すぎて……」

「あ、雪が逃げた」

「まあ、なかなかどうして雪に対してはきしょいよな」

「なー……」

 うんざりと言うような鳴き声の雪が可哀そうすぎて

「じゃあ、先に行こうか」

 なぜか雪を写メりだした相沢を無視して11階へと足を運び、サバンナを駆け抜けて森林地帯に隠された12階の入り口に潜り込んで水郷と言うべきフロアのぬかるみに足を取られないように山岳地帯を歩き……


 11階からは距離があれどほぼまっすぐ進めば次の階層の入り口が待っている。

 俺的考察だけどたぶんスタンピードが起きた時まっすぐ突き進んできた奴らが次の階層に向かう一番の確立からと考えると納得の立地だと思う。

 ただ一階からも思ったけどある程度の距離がどれにもあるのでこれはダンジョンを構成するためのルールなのだろうと考えて置く。


「だけどさあ、このダンジョンほんと不親切だよね。

 普通ゲームのダンジョンとかマンガのダンジョンとかその階をクリアしたら地上に戻れるようになるじゃない」

「それー。だけどよく考えろよ。このダンジョンはスーファミレベルなんだからさ。昔のゲームってそう言う脱出システム無かったじゃん」

「知らないよそんな古いゲームなんて!」

 自分でゲームの話題を振っておいて切れる沢田にそろそろ休憩入れようかと思うもちょうど足場の悪い場所ばかり。

 時々ちょっかいかけてくる魔物に関しては雪が誰よりも先に察知して倒してくれるから安全に進むことが出来るけど……

「そういや昔のゲームで50階のボスまでダンジョンに潜ってボスを倒すとなんかバグるとか言うのがあったな」

「やめてー!」

「まあ階段をひたすら降りて上がってこないといけないって言うほんとクソだったけどやりがいはあった」

 岳の説明に何かを感じ取って悲鳴を上げる沢田だが


「だけど今はボスを倒せばちゃんと地上まで帰れるのがスタンダードで一般的だから。きっとこの定番にこのダンジョンもアップデートできるに決まってるさ」


 なんてさわやかな笑顔で沢田と岳のいらん情報を打ち消しておく。

 そんなクソゲーな世界になったら俺達帰れないじゃん的な不安を払しょくするためにダンジョンやればできる事言うように言い聞かせるように声を張り上げるのだった。

 

 


 

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