千賀よりも林の対応マニュアルを下さい
「くうっ! ありがてえっっっ!!!」
「このただの白いご飯がこんなにも美味いなんて!
「お替わりあるからゆっくり食べてください」
美味くて感涙、そんな顔でお替わりに差し出されたお茶碗にご飯を足す橘さんはなんか給食当番と言う感じだ。
涙ながらご飯を食べる千賀さんと三輪さんはご飯をお茶碗三杯ほどのお替わりとから揚げのノルマ分と俺達が食べきれなかった分のから揚げを全部平らげて満足げにお茶をすすっていた。
「そんなにもご飯酷かったのですか?」
心配げな視線を沢田が三輪に向ければ
「まあ、学生あるあるですよ。なんせ初めてではないですけど電気調理器を使わずに料理するの、結構難しいんだよ」
「そうですか?」
きょとんと小首を傾げる沢田と同じように小首を傾げる岳に
「沢田君と岳は少し黙っていようね」
林がまとめて会話の邪魔しないように注意した。
さすが千賀さんの補佐をしていた人だけある。
だけどただの猫ですよ~とさりげなく岳の膝の上に乗った雪に俺は密かに嫉妬の視線を岳に向けるもどこから取り出したネコ用ブラシでブラッシングをする岳に俺に代われと視線を向けてもさらにどこからか取り出したちゅーるに雪はもう俺の事なんてどうでもいいらしい。
しくしくしく……
心の中で大泣きだし親友の岳にも嫉妬する俺の醜さにも泣きたくなる。
岳の場合この場は任せた。代わりに雪のお世話は任せろと言う所なのは分かっているのに!!!
分かっているからこそ!!!
「俺は俺の醜ささに絶望している!!!」
「相沢は唐突に何を……」
「んんっ!!」
林はそれこそ意味が分からないと言う顔で俺を見ていたが、それは千賀の咳払いで終わらせることになった。
「では今日のダンジョンの成果の報告を」
「マゾはもちろんダンジョンで形成されている魔物はどこからか召喚されている可能性が高くなりました。
マゾが自身で使う魔法をキャンセルできる可能性が高いです。
実際に普通に発動を邪魔したつもりが発動していたし、濁流はマゾの腹の下。15階のフロアだと俺達の身長ぐらいまである事が確認できました」
「ちょっとまて」
そう言って千賀さんが報告する俺に向って手を伸ばして待ったをかけた。
素晴らしい事に書記ではないが林さんがPCのキーボードを叩く音だけが静かな空間に響くが追い付くのをそれを待つかのようにして千賀は口を開けた。
「そうなると今までの仮定がかなり覆るぞ」
難しい顔で呟く千賀さんに俺はやっぱり隊長になった人だからそれなりに詳しく知っているんだなと思う俺の隣ではへそ天になった雪がおなかのブラッシングまで要求している事に愕然としてしまう。
俺にはそこまで許してくれていないのに……
再び嫉妬にまみれながら岳を睨みつけてしまうも再び千賀さんの咳払いで俺は不貞腐れながらも報告会に集中するのだった。
「俺がいつもオーバーキルで倒していたから気付かなかったのですが、雪と沢田はいつもあっさりと倒せるパターンに嵌ったのに岳の時にマゾがそんな事をして」
「それで君たちは大丈夫だったのか?!」
大丈夫だから揃って今この会議に参加しているって言うのに、千賀さんの人の好さって言うか慕われる理由、むしろ放っておけないと言うか目を離してはいけないって言うか油断したら周囲に大損害が発生する…… なんて事まで言わないけどそんな優しさからの見当違いを発生しそうなことをなんとなく理解した。
そんな千賀さんの感情を落ち着けようと沢田がお茶と漬物をだしながら少し時間を稼いでくれたので林さんに足を踏まれたこともあり冷静になってくれたけど……
林さんなのに、林さんのくせに千賀さんをコントロールできる存在の価値が大きすぎて涙が出てきた……
あんたしか千賀対応できないッて……
「とりあえず持っていたクズの角で足場を作って難を逃れたけど、そのうち刺さりの甘かった角を足掛かりにしていた沢田が落ちて……」
「それで沢田君は大丈夫だったのか?!」
対面の沢田を無視して俺に詰め寄る千賀さんに足音がするくらい千賀さんの足を踏む林さんとそれが判っていて脅えている三輪さんと橘さん。こうやって恐怖支配をしていくのかと知りたくなかったテクニックを最後まで気付かないふりをしながら
「そこで知ったのですが、マゾ討伐報酬で手に入れる事が出来るマゾシューズ。
これが濁流の上でも沈まずに歩けることが出来て……」
「そうですか」
小指をピンポイントで踏まれたらしく足事抱えながら小指を手で包んでいる千賀さんの代わりに返答をする林さんのフラットな感情の表情にこそ俺達、ではなく俺は恐怖を覚えながら千賀さんを見ないようにして報告を続けるのだった。
何せいつの間にか沢田もへそ天の雪の喉元を撫でながら俺達の話を聞く気のない態度で和んでいたから……
俺もそっちの仲間に入れて!!!
心からの吐露なのに声に出せなかったのはなぜか正面に座る林さんの視線が声のトーンとは反してにこやかな顔に反して全く感情がない所なのだろう。
そんな林さんと目が合えば声も出さずに言った。
『学生を沢田君の側に寄せない代わりにね?』
現実逃避していないでしっかり情報を落とせという事なのだろう。
はい、そうですね。
なんて頷きながら本音ではあんたが一番怖いですよ!
叫びながらもこんな人だから沢田を囮にしてでも工藤と言う悪の大元を確実に捕まえるための逃がさない作戦に乗りたくなくても乗る状況にさせたのだろうとあの時の了承できなくても頷くしかない俺達の人生の経験不足がまさかのこの日常的な躾からくるなんて……
改めて林さん怖いと思いながらもよくよく考えればこの四人の中で圧倒的頭が良いのは林さんだから仕方がないかと思えばもうどうにも良くなって
「とりあえずマゾの攻略には靴集めですね。
12階からも役に立つので一人一足、確実に確保しましょう」
「いや、その前にマゾを落とす方法を……」
俺と林さんの間に根本的な問題があるのを俺はただ一言
「レベル30まで上げればあとはマゾグッズさえちゃんと装備出来れば乗り切れますよ」
あまりこの人と話すのは精神的に良くないと手早く終わらせて岳から雪を抱き上げて会議は終わりましたと俺は二階の自室へと逃げるのだった。
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