欲望にまみれながらひと休み
「「「ただいまー!!!」」」
「にゃー!」
帰宅して元気に挨拶をすれば
「あ、おかえりなさい。
15階まで行きそうな雰囲気でしたのでご飯は作っておきました」
なんて橘さんがうちの台所でご飯を用意してくれていた。
「橘さんありがとう!後は私が……」
なんて沢田が言いかけた所で
「まずはお風呂をどうぞ。
あとから揚げを揚げるだけなので」
「だったらシャワー浴びてくるだけにするし!
雪!一緒にシャワーの刑だぁ!」
「んにゃー!」
なんてダンジョンから出ればただの猫になった雪をひょいと抱き上げて風呂場へと向かって行った。
一応風呂の隣にある洗面所には鍵付きのロッカーがある。
沢田専用の。
単にニトリのカラーボックスに扉を付けて鍵を付けただけだけど。
何時の間にかここは沢田専用にされてしまったから今さら文句も言わせてもらえないけど……
「ん、にゃあああぁぁぁ……!!!」
風呂場に響く雪の絶叫を聞けば
「楽しそうだな?」
「雪もこれがなければ完璧なんだけどな」
岳と相沢が残念というような背中を橘に向けながら風呂場の出口から離れた居間へと移動していった。
「それはどうかな?」
いろいろデリケートな問題を抱えている沢田の為に二人が気遣う様子を見守っていた橘だが雪に関しては猫にどこまで求めているのだろうかとつぶやきながらお肉を揚げていく。
ダンジョン産の鶏(?)の美味さの虜になったものの食材を管理する沢田によって手出しが出せないのでこんな時じゃないと食べたい放題が出来ないじゃないか。だけど巡り巡ってやってきたチャンス。沢田達が帰ってくる前に食材をゲット、そして今は風呂場に押し込んだから後は欲望を爆発させようと新たに油の中に鶏肉を投入する。
じゅわ~!っと勢いよく揚って行く様子にニンマリと笑みを浮かべながら基本の醤油味のから揚げに塩だれのから揚げ。さらには謎なまでにそろっているハーブを使ってのケンタッキーフライドチキン風。そんな欲望あふれる所にさらに欲望をぶち込んで油淋鶏風のタレにお手軽にらっきょを刻んだタルタルソース、気合を入れてタンドリーチキンも作ってみた。これはフライパンでじっくりと焼いたけど。
一種類ずつ食べてもおなかいっぱいになるのにここに白米を用意するのだ。
ご飯どれだけ食べれるだろう……
それもまた楽しみでしかない。
一応キャベツの千切りと鶏ガラを使ってとった出汁のスープもある。これは普通に中華風スープにしただけのかきたま風。
皆さんがダンジョンに潜ってから仕込んだだけあってしっかりと味は染み染みと揚げてる側からニンマリと笑ってしまう。
完璧だ。
味見もちゃんと確認済み。
笑ってる間に沢田がシャワーを済ませて雪をタオルで包んでやって来たこの瞬間
「ちょうどご飯の用意が出来ました」
「わあー!ありがとうございます!
誰かにご飯を用意してもらったの久しぶりで嬉しいです!」
なんて至る所に生々しいひっかき傷を作って出来上がった料理を見に来た沢田は問答無用にあのなんちゃってポーションと呼んでる源泉のお水を勢いよく飲んで傷を消していた。
うん、たくましい。
そんな元気な沢田の声に相沢と岳もやってきた。
いつもの三人一緒の光景に幸せを覚えながら俺の料理を見て騒ぐ様子につまみ食いはだめですよと視線で訴えれば三人はそれじゃあ準備を早めようと沢田が手伝うというようにお茶の準備を始め、相沢はまだご機嫌斜めな雪のチュールタイムに入るのだった。
「おー、良い匂いがするな」
「林さんおはようございます。ちょうど呼びに行こうかと思ってました」
「いや、そこは岳が起こしに来てくれたよ」
なんてスマホの画面にはアラームのごとく何度も連絡を入れていた様子に笑ってしまう。
「だってこれだけニンニクの匂い充満させておいて出来立てが食べれないのってただの罰ゲームじゃん!」
なんて力説に思わず頷いてしまう。
「だけどよく見たらどれだけわんぱくセットなのよ」
ひたすらから揚げばかりに苦笑する沢田はそれでもご飯の盛り付けは手伝ってくれた。
「一応喧嘩しないように全員一種類ずつからのスタートです。食べ終わったらお替わりがあるのでどうぞ」
なんてまだ別のお皿に一種類ずつ山盛りの状態を見せれば林さんは笑って
「あとで千賀と三輪に差し入れするから先に取り分けておくか。
今日はあいつらが学生の晩飯の監督係だから。何食わされるか分からないから差し入れに貰うぞ」
しみじみと言う林にみんなで苦笑。
まるで経験があるとでも言わんばかりの言動に相沢は耳を澄ませてその様子に集中すれば
『うわっ、辛っ!
どんだけ塩入れたんだよ!』
『あー、野菜生煮えだぞ。人参がゴリゴリ言ってるしw』
『ご飯の水加減間違えたかも。少し柔らかすぎてごめん!』
『このカレー、なんか甘くない?』
『隠し味にチョコレート入れて見ただけだよ』
『隠し味になってねえw 思いっきりチョコ味だしwww』
『しょっぱくて甘くてチョコ味のするカレーって初めてだな』
『千賀隊長は他に何か経験でもあるのですか?』
『んー?昔にもカレーの隠し味にマーマレードを瓶の中身全部入れたお前らの先輩がいてな。
まあ、数年に一度の珍事件はあるもんだぞ』
『あ、それ知ってます。水井でしたよね!有名です』
三輪さんの容赦ない暴露に思わず吹き出してしまってこの件はこれ以上聞くのをやめておいた。
「ちょ、いきなり何笑い出して……」
沢田が隣りに座る俺から距離を取りつつ塩だれのから揚げを食べて美味しいと顔をほころばせていた。
「いや、今日向こうカレーみたいでして、なんか水井さんの伝説を聞きました」
「水井さんの伝説って言うとあのカレー事件ですか?マーマレードか?コーヒーか?」
「いや、水井ならシチュー事件もあるし、どれだ?」
「寧ろシチュー事件が気になります」
料理と言えば沢田。はい、はーいと手を上げて興味深々という様子に俺達も耳を傾ければ
「まあ、休日に家でビーフシチューを作ったらしくて、市販のルウを使うまでは普通だったんだけどコクが足りないとか言ってソースを足したらしい」
ケチャップを入れて整えれば問題ないのでは?と俺でもそう思ったのだが
「テレビを見ながら作っていたみたいで、推しのアイドルの引退発表にショックを受けてるその合間に大量にソースをぶち込んで、当時近くに部屋を借りていた千賀に沢山出来たから食べに来いって他にも何人か呼んだと言う二次被害が酷い話だったはず」
「あ、俺も聞いた事あります」
自衛隊内にかなり広まってる様子にこれは悪意を持って広めてるのかと笑ってしまえば林さんもニヤニヤと笑っていた。
「だけど橘さんが料理上手で本当によかったです!」
すでに一通り食べた岳はお替わりに手を伸ばしていた。っていつの間に食べたんだと驚きもあったが橘さんも同じようにお替わりをしていた。
「やばい!林さんの話聞いてたら俺完全に出遅れた?!
今ビール取りに行ったら完全に俺のお替わり分がなくなりそうなんだけど?!」
なんて慌てる俺の目の前で話をしていた林もお替わりをする様子に動揺するのは仕方がない。
「相沢はしっかり食べないと食べ損ねるわよ?
それにしてもこのフライドチキン美味し~!
後でハーブの配合教えてください!」
「ここにあるハーブだけで合わせただけですよ」
なんて俺達は橘さんの欲望まみれのご飯に大満足した後今回ダンジョンで感じた違和感を報告するのだった、。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます