ただその時を待つ
とはいえ俺の本気とは何ぞや。
毒霧撒き散らす程度の能力しかない俺。
時々天気を変えたり、川の水をごっそり抜いたりする程度。
うん。
俺、結構ヤバいことしてた。
うん。このしでかしは覚えてる。
いや、まだ海の海水全部抜いてみたなんて挑戦しなかっただけましだろうか。
大学ダンジョン13階の海水を同12階でぶちまけてみる。
淡水の地域で海水をぶちまけたらどうなるだろうか。想像しただけでやらないけど。
大学ダンジョンの蟹もっと食べたかったな……
むくむくと溢れあがる好奇心と欲望。
とても戦闘中の思考ではない。
「千賀さん、相沢が悪いこと考えてまーす」
「岳、お前ほんと良く見てるな」
「あの家にいると他に見る物もないので」
さりげなく酷い。
もうちょっと友情的な物が欲しかったけどネットとご飯の時しか交流がなかったことを思えば仕方がないだろう。
DIYも畑も何でも言えばやってくれるから任せっきりだしね。
友情サイコー!
うん。それを友情と言うのかと聞くないでくれ。
雑念終了。
とはいえやや暴走気味の羽無しさん。
あんたは俺の大切なものに手を出した。
もう一度手を横に振るってクズの角を壁や天井にもぶっさす。
こんな戦い方は見た事ないだろう羽無し様は何をしているという様に不安そうにきょろきょろする。
今から何が始まるのだろうか。
それは俺にもわからない。
ただ言えるのはマゾシューズゲットするためにマゾ部屋でマゾをなぶり続けていたことに起因する。
どんな変態とか突っ込まないように。
まあ、マゾは防御力が高くてみんなの練習になったのはいいがなにぶん防御力高すぎて武器が壊れすぎた。
そのためにどの位置に立っても武器が手に取れるようにクズの角の先を少しだけぶっさすように収納から排出する俺、器用じゃね?
ぶっさすのも出来るけどぶっさしすぎたり調整が難しくって結局辿り着いたのがこれ。
今日もいい感じに先端をチョンとぶっさしてすぐとれるようになっています。とはいっても相手はマゾ様ではなく羽無し様。
もしこのクズの角の使い方がばれたら速攻で収納すればいいかと割り切って
「行くぞ」
誰でもない自分への言葉。
もう一瞬でもあんな悲しい思いはしたくないと込める決意。
踏み出した一歩。
警戒するように一歩下がる羽無し様。
まるでダンスをするかのように一歩、二歩と詰め寄るように足を出して床を踏みしめて
キィンっ!
なぜかクズ角と天使の羽製の剣で響く金属音。
やっぱり剣に関しては羽無し様の方が慣れてらっしゃる。
剣を交えて少し力勝負しても俺の方が負けている。
さすが蝙蝠様と戦い続けてきたという所だろうか。
力負けしてすぐ引き下がる俺の代わりに雪と工藤がすかさず畳みかける。
スピードで雪が視線を奪い、その隙に工藤が背後から襲い掛かるという連携。
って言うかいつの間にそんな連携を……
ちょっとジェラシーなんて着地しながら眺めてしまうほんのわずかな時間の出来事。
着地してすぐ踏み込んで襲い掛かる、その前にすでに攻撃態勢に入っていた雪による視界を奪う爪と尻尾による攻撃、直後俺も攻撃を与える。だけどさすがは百戦錬磨と言った所。両手で俺の攻撃を受け止めればクズの角が砕けてしまった。
にやり、笑う顔にすぐ飛びのけばそこにはクズの角。そこでやっとなるほどとこの乱立するクズの角の使い方を理解したという顔をするも雪に鍛えてもらった工藤がそんな余裕は与えない。
「くらえっ!!!」
クズの角に見立てたマゾの牙という贅沢な一本で背中から襲い掛かかって背中にぶち当たればのけぞる羽無し様。やっと一撃与えられたという所だろう。
「さすがバカ力」
痛々しそうに床に転がる羽無し様。こういった痛みを知らないとは羨ましい。だからあんな派手な攻撃で戦ってるわりには翼を失う程度で生き残ってるのかと理解して
「さあ、畳みかけるぞ」
時間はかかるだろうがこのまま削っていこうと光の玉の攻撃は岳たちに任せてさすがの羽無し様でも3対1ならいけると容赦なく襲い掛かる。
まあ、おれのしょぼい攻撃は全く当たらないけど雪と工藤のコンビネーションに翻弄されて前や後ろからどつかれて足元はフラフラだ。
俺的には何のお役にも立ってないのでとりあえず
「毒霧!」
ぼそっと小さな声で毒霧をまき散らす。
じゃないとお前何をやってるという皆様の冷たい視線に耐えきれないので特に林さんの前では聞こえるように言ってみるだけ。
側にいる千賀さんの苦笑いが印象的だけどそこは今は構ってられない。
まあ、効いてるかどうかは分からないけど……
俺の目には少しずつスピードが落ちている。何らかの影響はあるはずだとにらんでいる。
林さんに言わせれば雪のスピードに翻弄されて狂わされただけだろと調子乗るなと言われるのは聞かなくてもわかるから言葉にしないけど。
とはいえ雪のスピードと工藤のパワーにも限界はある。
ちょこちょこ水分補給と言う名の源泉水を飲ませているけど精神的な疲れだけは直すことはできないのでここからが俺の踏ん張りどころ。
雪と工藤の攻撃の合間に大半のクズの角は折られてしまった。
羽無し様が翻弄される合間にもクズの角を折っているのは理解していた。
そしてさりげなく花梨たちにも攻撃しようとするモーションに俺も必要以上にクズの角を使って攻撃していた。
目減りしていくクズ角に羽無し様も笑っている。
そうか、こいつ
「俺達を追い詰めて楽しんでるみたいだな」
そこら中に突き刺したクズの角。いくら消耗品としてストックしてあるとはいえ有限だ。圧倒的数の少ない蝙蝠様の剣は早々消費させるわけにはいかない。
なんたって腐っても羽無し様の剣の方が格上だ。勝てるわけがない。
だとしたら狙うは一つ。
俺はクズの角の中にさりげなくマゾの牙を混ぜた。
久野さんに頼んで皆さんの練習に作ってもらったフェイク品。いや、そっちの方が上物ってどうよと思うけど、ここにきて目につくようになった刃こぼれにそれがちゃんと効果がある事がわかる。
さらりと混ぜた高品質のフェイク品に気が付いた工藤の視線が少しだけ大きく開く。
羽無し様もクズの角を次々に壊していくけど数なんてわからない中にさらりと混ぜたそれ。クズを右手にフェイクを左手にして襲い掛かればあっさりと弾き飛ばすしたり顔の羽無し様。
そんな刷り込み。
俺が仕掛けることに気付いた工藤と雪。
単調になりがちとはわかってても今までと同じように襲い掛かるその曖昧俺は声を張り上げる。
「花梨!俺のかっこいいところちゃんと動画に撮ってて!」
「はーい、まかせて!遥も頑張ってね!」
「はーい!」
なんて相手をイラっとさせるためのイチャイチャ作戦。
俺は面白いけどみんなの視線が本当に痛い。
だけどこんな楽しい事俺は止めないよ。
花梨のどんどんクズを見る視線、さすが女王様と言う所だろうか。
ぞくぞくするというスリルも味わいながらも俺は時が満ちるのを密かに待つ。たとえすでに満ちていてもねと言うのは内緒だ。
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