お願いだからもうちょっとオブラートに言ってよ

「雪、足止め頼む!」

「にゃ!」

「工藤も膝をどんどん攻撃してくれ!」

「はっ!お前もえげつない攻撃命令するな」

 飛べない羽無し様に向かって楽しそうに笑いながら利き足にどんどん蹴りを入れて痛めていく工藤は時々ほんの少しの間だけど関節技を決めてみせる。

 関節技なんて知らないだろう羽無し様はそこからの寝技に面白いように転がされて技を決められていく。それこそ立ってる暇がないという様にコロコロ転がしていく様はもう拍手を送るしかない。

「工藤!そこで肘をひねろ!」

 本来なら蹴り技よりも格闘術を得意とする千賀さんの指示に

「千賀さんこんな感じですか?!」

「いいぞー、そこで締め上げる。そう、その調子だ!」

「うわあああああっ!!!」

 悶絶する羽無し様の様子を見なくてもわかるなんてえげつない技。千賀さんの教師ぶりと子供の様な無邪気な工藤。

 そんな二人を見て

「二人ともものすごい悪人面をしてますよ」

と林さんも微笑んでいた。

 そのわずかな間に俺は折れたクズの角を収納。どう使われるかわからないし怖いからね。

 地味な作業なら任せろと時間を稼いでくれている工藤の為にも戦いの場は整える。

 タフな工藤だと思ってたけどずっと戦いを続けていた羽無し様。羽がなくてもタフだったのが予想外だった。

 いや、ラスボス様だけあって雪と工藤で体力をゴリゴリ削るも向こうもラスボス様。じわじわと回復していく素敵スキルをお持ちのようだ。

 厄介だな。

 工藤はともかく体力的に劣る雪の精神力が削られていくのはかわいそうでしかない。

 こんなにも小っちゃくてかわいいのにね!


「な、にゃ?!」

「先輩どうしました?急に毛を逆立てて」

「何だ、新手の敵でも来たか?!」

 

 攻撃の手を緩めて壁際まで下がった雪に合わせて工藤も下がっての会話。千賀さんも警戒する。

 きょろきょろと周囲を見回す雪もかんわいい~!なんて思ってニヤニヤしてしまえば

「相沢、顔! キモイよ!原因は相沢です!みんな落ち着いて!」

 何やら林さんが失礼な事を言ってくれた。

ともあれその隙を狙って工藤は雪に源泉水とちゅーるを与えていた。

 もちろん羽無し様も体力回復しているけどこうなるとじり貧になるのは俺達。

 ならボチボチやるか。

 上手くいきますようにと祈りながら


「雪!こっちに合流!」

「にゃ!」

「工藤も一緒にだ!」

「お、おう」

 急に気合を入れて声を張り上げる俺。

 羽無し様も俺が何か仕掛けてくるという様に刃こぼれをしている剣を構える。

 そう、羽無し様にはもう予備の羽はないからボロボロに刃こぼれしてもその剣を手放すわけにはいかない。。

 クズ角を拾って掃除をしていると見せかけてついでに飛び散っていた羽も回収。床には半分に切れた羽すらなく綺麗な物。

 さすが俺の収納。床に落ちているもの全部なんて指定でこんなにも綺麗になるんだからダ〇ソンもびっくりな吸引力だよ。

 いかにも仕掛ける、そんな様子に真剣な視線を見せる中俺は一気に詰め寄ってクズ角で襲い掛かる。

 もちろん砕け、俺はそのまま反対側の壁へと着地する合間に砕けたクズ角を収納、そして着地と同時に手を伸ばした先の角を取り壁を蹴る。

 またか、そんなパターンかと言う視線。

 背後から襲い掛かればその攻撃はもう見切ったという視線のまま俺の一撃を受け流す。

 すらり。

 角が交わった太刀筋に沿って真っ二つになった。

 そこは百戦錬磨の羽無し様。背後からの攻撃なんて余裕らしい。

だけどすぐに違和感を感じていただけたようで驚きに視線が俺の背中を追って来た。その時にはもう着地をするまでに角を収納、次の角に手をつけてからの渾身の一撃。


 キィィィン……


 まるで金属のような音に目を瞠る羽無し様。

 しかも今度の角は折れてない。

 訂正。

 角ではなく牙。

 ちゃんとばれないようにちびっ子たちの牙から使ってからの本命大人の牙を使ってみれば案の定防御力の高い牙は羽無し様の剣といい勝負をしてくれた。


「今度は折れないとか……」

 

 驚いたように声をこぼす橘さん。

 その驚きはもちろん俺もあった。

 半分賭けだったのもあって通用するとかラッキーすぎるだろうってね。

 みんなクズの角に似せた加工をしてあるから全部似すぎてどれがどれだかわからないけどそこは俺の鑑定で問題解決。

 そしてちらりとみんなを見た所で雪は源泉水を飲んでもやっぱりお疲れのようで花梨の腕の中でうとうととしている。

 うん。

 千賀さんの腕を直せなかったように流れた血は戻せないからね。

 頑張れとあとは雪の野性の本能を信じる事にしてマゾ牙で襲い掛かる。

 もちろん砕けない事を知った羽無し様の警戒はすごくてさっと身をひるがえしてよける始末。そこからの怒涛の光の球。

羽無し様は俺と接近戦を嫌がっているようだ。

光の球に関しては三輪さん達が張り切ってくれるから心配はない。

「三輪さんありがとう!」

「おう! 任せておけ!」

 そして飛び交う足付のお魚。足が真っ先にもげるのがものすごく嫌な光景だけど

「花梨、雪は頼むな!」

「了解って、ちょ、雪!」

「工藤、雪を何とかしろ」

「むり!先輩暴れて、って、いてっ!!!」

 エクスカリバー装備なのでみんなひっかきまくられているのが笑うしかない光景。腕を切り落とさないでねと願えば

 すぐに俺の足元にしゅたっと着地をしてピシリと尻尾で俺の足をはたいていた。

「怒るなよ。もうちょっと休憩させようと思っただけなんだから」

 さりげなく位置を変えようと移動しながら俺の足を踏んでいく。

 やだ、かわいいんですけど。

 婆ちゃんに踏まれて痛かった思い出のある雪。だから踏まれれば俺が痛がると思っているのか怒った時は良く踏んでいくけど

「くっ、なんというご褒美……」

 思わず嬉しさのあまりに鼻血が出そうになってしゃがみこんでうつむいてしまうも

「うわー、鼻血出るまでとかキモ……」

「でもやる気は上がってるよ?」

 林さんと岳の会話。

「だけどこれで相沢がヤル気になってくれたからよかったじゃないですか」

 そんなさわやかな笑顔で言うのは橘さん。

 俺は今まで一体どんな風に見られていたのかちょーっと皆さんにお話を聞きたくなった。





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