白い砂浜、エメラルドグリーンの海に漂う…アレ

 しばらく走って12階へと到着。

 初見の通りじめじめとした空気と薄暗く重い空。

 何より鼻につく悪臭と……


「あの蚊がいないだと……」

 

 巨大な蚊の歓迎に一度は逃げ出したけどふと見れば地面には大量のソレ……

「マジか?蚊取り線香有能すぎじゃね?」

 正直本当に効果あるのかわからない蚊取り線香だというのにふと地面を見れば一面の……

「ちょ、キモ!」

 思わず情けない悲鳴を上げたくなったけどそれよりも先に蚊取り線香を取り出して火をつける。

 ゆっくりと白い煙が立ち上って風に流されていく様子を見ながら

「よし、これで大丈夫だ。

 雪、一応虫に刺されないように俺のそばに居ろよ」

 なんて心配をして言うも

「なー」

 なんて不満げな声。

 基本野良育ちだから束縛を嫌がるも俺と雪はマゾシューズを履いて沼の上を走っていく。

 蚊取り線香の効果か知らないけど俺たちに向かってくる蚊は俺たちにたどり着く前にポトリポトリと落ちていく。

 というか一定の距離に入ると落ちていくとは是如何となんかまた怪しいスキルが生まれてるんじゃなかろうかと走りながら確認すれば……


 スキル:結界(小)


 はい!やっぱりありましたー!!!

 って言うか結界ってなんだよwww

 まさか蚊取り線香の効能とかいうんじゃなかろうな?!そして効能範囲で(小)なんてことになっているのか?!

 ダンジョンのスキルの発生がお安いのは分かっていたけどこんなものもありなのかと思うのは7時間以上効果のある蚊取り線香の粘り勝ちだと思う事にして、ひょっとしてバルサンよりすごんじゃね?なんて使用条件のちがうもの同士比べるのはやめておいた。

「結界!」

 とりあえずという様に叫んでみても何の効果もエフェクトもないこの状態。

 とりあえず調べるために防護服を脱いで片付けてみる。

 一人じゃ危険かもしれないけど、実験の為にここに何度も足を運ぶのは勘弁してほしいのでさっさと実証するために身軽になった所で周囲を見渡せば、襲い掛かってくる蚊が一定の距離に近づくとポトリ、ポトリと落ちて俺を中心に半径5Mほどだろうか。円を描くように落ちた蚊が積もっていく。

 これは何とも言えない嫌な光景だなと思うもなかなかにして有能なスキル。

 俺の持つ魔法の中でかなり魔力を持っていく魔法に分類されるものの天気を操るスキルほどではない。

 魔法特化しかけている俺だからできるけど、これが沢田や岳だとちょっときついだろう。

 とりあえず実験はここまでにして身軽になった体。クズ狩りに出かけた岳も当分帰ってこないだろうしと考えれば

「雪、15階まで全力で行くぞ」

「にゃー!」

 言えば待ってましたと言わんばかりの返事に俺たちは駆けだしていく。

 12階はひたすら沼地の死んだ水の悪臭が立ち込める世界。

 そんな中襲い掛かってくるのは蚊と手足の生えた魚たち。

 いつものように基本毒霧を使うもその前に結界が俺たちに触れることなく敵を押しのけてくれる。いや、結界に触れた魔物が勝手にどんどんくたばっているようにも思えたが……

それも併せてビデオをとって結城さんに報告して自衛隊の人たちに検証してもらおう。うちのダンジョンには必要ない情報だしね。

 そんなうちのダンジョン同様12階の入り口のほぼ直線上に13階の入り口はあり、次はどんな所かとうきうきしながら階段を下りればそこは亜熱帯の世界だった。


「やだ、今度はものすごいリゾート地」


 なんて当たりはずれの落差が激しいダンジョンだろうか。

 エメラルドグリーンの海に白い砂浜。マングローブにも似た木が水面を覆う様に枝葉を伸ばす木々。

 天気は良好、波も穏やかで少し蒸し暑いものの木陰の中は涼しく……

「遊びてえ……」

 思い描くのは水着を着てみんなでビーチバレー!なんて発想はないけど。

 普通に綺麗な海で泳ぎたいと思うのは俺が知る海の方が大概死んだ海だからだろう。

 だけどその海を何かが通り過ぎていく。

 思わずという様に警戒してマングローブのような木の根っこの上に上がれば集まりだしたのは長いにょろにょろの


「蛇……じゃなくって、鰻かよ!!!


 うわあああぁぁぁ!!!

 似合わねえええぇぇぇ!!!

 だけどキモイから一瞬にして美味そうに変換された脳内の認識に思わず涎が垂れる。

 前に岳が川で捕まえてきた鰻をさばいてくれて市販のタレをつけて焼いて食べたあれ、美味かった。

 岳の実家の店でも売ってるパックの鰻とは比べ物にならなくて感動したことを思い出せばこれは乱獲するしかない。

 たとえ俺と同じ身長、いやそれより大きくても気にならない。

 気にしようよ?

 一瞬沢田の声が聞こえたような気もしたが、沢田だってこのお土産を見れば喜んでくれるはずだ。

 雪は海ステージのこの階層に辟易とした顔でささっと木に登って太い枝の上から俺を眺めていたが

「少し狩ったら次行こうな?」

 そんな言葉でちょっと待っててとごまかしておく。

 もちろんこんなリゾート地(?)なので鰻のほかにも

「やだ!ヤシガニ?人様サイズのヤシガニってちょー怖いんだけどwww

 ハサミで俺の首飛ばされそうだけど、どうして?」!どうしてお前もおいしそうなんだよwww」

 やっほーっっっ!なんて気合を入れて叫びながら襲い掛かってしまうのはここ数年カニカマしか食べたことがないからだろう。

 毒霧を使わずに雷魔法で感電死させたヤシガニのヤッシーと鰻のうなさんの乱獲に精を出す。ついでに一緒に浮いてるおさかなさん達もお持ち帰りをする。

 こんな漁の仕方をしちゃダメだってわかっていても俺には時間がない。許せとせっせと拾って取りこぼしがないのを確認して

「じゃあ、雪。次行こうか」

 雪が言葉をしゃべる事が出来たらきっとこう言っていただろう。

 おま、そのものすごくいい笑顔やめろ、と……


 そういって名残惜しいけど海産物パラダイスの13階を潜り抜けて次はジャングルゾーン。

 これは、まあ、なんというかうちと大差ないなとスルーする。鰻とかは美味しいけど10M級の蛇とか絶対美味しくなさそうだからね。

 サクッと通り過ぎて15階の扉の前に立つのだった。

 



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