現実なんて目を向けたくない
トイレ、もとい。
ダンジョンから戻り、居間の座椅子に背中を預けて岳推薦のラノベを読む。
どこにでもあるヒエラルキーの最下層に居るひ弱な男の子が戦闘能力ではなく革命的(?)な事に称号を会得するためのステータスを読み解く能力を手に入れ、ご都合…… ではなく効率よく力を開花し、何でそんなに簡単にスキル発生させるのwww と言うチートを繰り返しながら、流通崩壊するようなアイテムを簡単に作りだし、金と能力に発情した女の子達とハーレムを形成していくありきたりのパターンだが、どう見てもこの管理社会の現代では無理のある脳内お花畑の内容だし、小説とは異なりステータスの詳細何て都合よく見る事は出来ない。
サービス悪いなと思いつつも確かに、教本から得られる情報と比べても本の大まかな称号のランクの上げ方とかダンジョンの仕組みはたぶん本と同じ、教本よりも判りやすいのは頷く所なのだが、如何せん。
小説と言う娯楽の前では夢と妄想が詰め込みのてんこ盛りに胸やけすらしだしてこれではただのギャグにしか思えなく途中で辟易。
実際こんな主人公なんて現実に居ないし、居たら距離を置きたくなる。
近寄ってはいけません。
実際そこそこ人とコミュニケーション取れていればこんな妄想なんて産まないだろうし、思考が早熟なのか残念なのか知らないが…… 女はこんな単純な生き物じゃねえって言うか、もっと計算高いと言うか……
この本に出てくる女共はなんて言う伝説の生き物なのか是非とも名前を教えてほしい。
小説読みながら我が家に関る現実の女性達からなる現状を考えずにはいられなかった。
中学の受験戦争を戦い抜いて希望の学校へと推薦がもらえた。
理工系大学に進むための条件を兼ね備えた授業内容に、将来モノづくりの仕事に就きたい身としては避けては通れない進学先だ。
それなのに進学して一年が過ぎようとした所で親父がばあさんの面倒を見ようなどいきなりわけわからない事を言い出した。
いや、あんな山奥に一人きりと考えると判らないでもないんだけどね……
三年ほど前にじいさんが死んで、故郷で一人暮らしをしているばあさんも半年ほど前にちょっとだけ入院する事になった。
その時は隣町に住んでいる親父の弟一家に面倒を見させていたのに、何故かいきなり親父の実家のあるN県の山奥まで引っ越す事になった。
俺は一人暮らししても残ると言ったのだが、
『子供を一人暮らしさせられるか!大体その金はどうする!
大学を行かせるくらいは貯めているがそれ以上の余裕なんて家にはない!』
なんて、子供からすればぐうの音も出ない正論に仕方がなく学校を変更する事になった。
母さんも最初は俺の為に抵抗していたが、親父の実家の隣町に母さんの実家もあるのだ。
逆に実家も近くなった事でそこまで反論する理由のない母さんは俺をなだめながら引っ越し作業を手伝ってくれたのだった。
だけど親父は別に会社を辞めてまでばあさんの面倒を見ると言う事はしなかった。
介護で仕事を辞めれば生活困難になってどうするんだと母さんと俺にばあさんの面倒を見せさせて単身赴任すると言う。
少しでも節約しようと当時住んでいたマンションを引き払い、会社の寮に入ると言っていたがいつまでたっても引き払う様子はない。
寧ろ今は開き直って堂々と財産だと言う物のバブル当時のマンションに今更価値はあるのかと頭を捻ってしまう。
とならばちょうどいいと考えてそこを拠点に学校の友達に長期休暇の時に会いに行こうとマンションへと訪れば、その扉から親父と俺より十歳年上だろう小さな子供を抱きかかえた女の人が朝っぱらから一緒に出てきたのだった。
考えるまでもない。
不倫。
50ちょいすぎの役職のおっさんの権力と財力と実家は地主と言うステータスと剥げてない頭に食らいつく女はいないとも限らなかったようだ。
玄関先でキスをする光景に目の前が真っ暗になった。
突如正月と盆以外に今まであまり会いにも行こうとしなかった親父が
『俺は長男だ!跡取り息子だから母さんの面倒を見るのは当然だ!うちは代々云々……』
なんてわけわからん長男脳理論で引っ越しされたかと思えば、堂々と愛人さんといちゃこらする為の場所の確保だったんかいと人の人生狂わせといて、親父の鼻の下は伸びっ放しで……
気が付けば友人に会う事無く山奥のばあさんの家に戻っていた。
そして母さんと言えば実家の近くでパートが見つかって働きだしたのは良いものの、だんだんと帰ってくる時間が遅くなってきた。
親父が親父だったからまさかとは思ったが、ある日駅前の喫茶店でバスの時間までの時間つぶしにだらついていれば聞き慣れた声が飛び込んできた。
『おまたせ。遅くなってごめん』
『いや、こっちも営業回り終わった所でこのまま直帰予定だから。
それより今からでもいいのか?
義母さんの介護をしなくて』
『主人の母であって私の母じゃないわ。
それに、いざとなったら息子が救急車ぐらい呼べるわよ。高校生だもの』
『じゃあ、安心だな』
『ええ、今夜は給料日だし腕を振るうわよ』
『お前さえいればいいよ』
50前後のカップルの気味の悪い会話から自然に腕を組んで去って行く後ろ姿しか見えなかった男の会社の社用車だろうかに乗り込み、どこかへと走り去って行った。
こっちもこっちで不倫を楽しんでいたようだった。
さすがに両親のW不倫現場の目撃と言うイベントはかなりの心労を伴い、やっと来た二時間に一本のバスをうなだれて待つ俺を見つけた岳と今は東京の専門学校を卒業して向こうで働いている岳の幼馴染の沢田に捕獲されるように乗せられて帰るのだった。
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