代償の方が痛い遺言

 帰宅途中、あまりに俺の様子がおかしかったので、二人はと言うより、沢田によって上手く俺から両親の話しを聞きだして、うっかりと俺は総てを話してしまい、その事に激怒した二人によってばあさんに話さなくてはいけない強制イベントが発生した。

 おまけに、一緒にバスに乗っていたじいさんばあさんたちによってあっという間に村中に知れ渡ると言うおまけつき。

 田舎の田舎の娯楽のなさを舐めていた。

 近くに住む叔父さん達が噂をきいて慌ててやって来た時には叔父たちはもう二度と村に来る事が出来ないだろうと言うくらいの冷遇を受けていた。実際はちゃんと来たが。

 田舎謎の連携超怖い。

 狭い田舎はほんと噂好きで困ると言うか、いつまでたっても消えない話題に俺は完全に放置子として認知されてしまった。当時義務教育を終えた16歳なのに皆様の中ではまだまだ幼い子供らしい。


 知れ渡ったのが良かったと言えばいいのか悪かったと言えばいいのかわからないが、この事は何故か母さんと親父の耳に入らなかったと言う事だろうか。

 横の繋がりの強い田舎ならではの嫌がらせだろうかと考えると失礼なと言われても仕方がない偏見だ。

 だけど親父と母さんを抜いて集まった一族を前にしてばあさんは俺を含めて遺言状を書き認めてくれた。

 病院で知り合ったという弁護士さんを召喚して公正証書とかなんとかあまり興味のない分野の呪文を唱えながら、ばあさんの遺産を統べて俺が受け継ぐと言う内容を叔父さん達に言い聞かせていた。

 能力があるのに田舎に来る事になって未来が閉ざされ、揚句にこの田舎に溶け込めずいじめを受け(この辺は岳たちが暴露していきやがった)親父と母さんに放置され、せめて学校卒業した時に自分で自分の身を立てれるようにわずかな財産を譲りたいと言ってくれた。

 叔父達は納得したけどだけど反論したのは叔父達の嫁さん。

 私達もおじいさんとおばあさんの面倒を見てきたのに何もないなんて!

 いやいや、実の子でもない嫁さん達には財産分与の権利はないよと中学生でも知ってる法律を言えば子供のくせに生意気と喚き散らすも、弁護士さんがばあさんの持ってる資産の金額を見せたら叔母さん達は黙ってしまった。

 それもそのはず。

 家の庭から見える山々一体がこの相沢家の土地だが、この家含めても一千万すら全く届かないのだ。

 三兄弟三人分かき集めても国産自動車が買えるか買えないかの金額。

 三人分集めてマンション購入の頭金ぐらいにしかならない。いや、今時その程度にもならならない。

 三等分したら一番ベーシックな軽自動車が買えるかどうか。

 借金みたいな負の遺産も遺産なんだよなと、数少ない知識を思い出していれば叔父達は遺産放棄の書類に署名を始めた。

 買い手がいてこその金額だ。

 買い手がつくまで面倒見る事を考えれば放棄する方が安くつくだろう。

 税金だって払わなくてはいけない。

 たとえ買い手が付いたとしても出費の方が大きいのは目に見にえた物で。

 叔父さん達の署名を満足そうに眺めた弁護士さんはこれは一つの提案として……

 そう言って残りの貯金などは葬式代と病院代をこの当たりの平均で見繕い、家系的な寿命を考慮すると貯金の残高ととんとんだと言う頃には、叔父さん達の嫁はばあさんの遺産への興味を一切失くしていた。

 寧ろ病院代や介護代を支払わなくて済むと言うようにさっさと帰って行くのだった。

 黙って見送った後ここからが本番と、ばあさんと弁護士さんと俺はさらに話し合いをし、先ほどうっかり提示し忘れていた駅前の駐車場経営、その他の土地収入を俺の名義へと変更の手続きをし、少なくとも毎月食うに困らない金額……と言うか、一人暮らしには十分すぎる収益を得る事になった。

 この家の名義も土地の名義もさっさと俺へと変更し……


 俺が20歳を迎えてすぐに体調不良を訴え病院に数日のみ御厄介になってころっと亡くなってしまったばあさんは最後まで俺に詫び続け、俺はばあさんのおかげでもう大丈夫だからと根拠のない言葉の慰めを続けていたのだった。


 その後親父と母さんが遺産相続について半狂乱になったと言う事さえなければいい葬式だったよなと、弁護士さんと共に茶をすするのだったが、弁護士さんとは未だにその御縁もあり繋がっている。


「そういやダンジョン発見したらどうするんだっけ?」


 時間も時間だから明日の営業時間始まった頃にでも電話するかとカレンダーにメモ書きを残し、岳推薦のラノベのご都合主義にもっと現実に沿った内容の本はないのかと呪いながらも読み続けるのだった。









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