反省はしないが反省会をしよう

 一週間前に本物のスタンピードが起きた。

 その二週間前のは何だったんだと言う規模だったらしい。

 今までのスタンピードは低階層の昆虫系の魔物があふれ出すと言うものだったが、今回全魔物が低階層にまで這い上がって来たと後に回収された魔物がお披露目されてその数に信じるしかなかった。

 さらにそれまでそのダンジョンを不法占拠していた若者達が落とした中継中のカメラに写された10階の魔物魔狼がついに地上に姿を現したことは世界中を震撼させた。

 だけどそれもすぐにジープでまた地下に押しやられた中とどめと言わんばかりに手榴弾で爆発までしたのに、爆発の炎に巻かれながらも再び姿を現した魔狼が炎を吐き出す瞬間、口の中に投げ込まれた手榴弾によって頭を吹き飛ばされて人類史上初の公式で魔狼が退治された事を証明した。

 その動画再生はあっという間に記録的な視聴回数を獲得し、そこで得られる事になる報酬は彼らが起こした今回の事件に対する賠償金として没収される事になった。

 占拠した若者たち五十余名の大半はダンジョン内で亡くなってしまったのだ。

 外で中継役をしていた残りのメンバーも全員が重度な怪我をして生涯普通に生活をするのが肉体的、精神的にも困難な状態になっていた。

 さらに国は彼ら彼女らを見せ締めに使い、国家反逆罪として刑期を終えても公安に監視される生活となり、その上ネット上で身バレをされて一家離散となったのは珍しくもなかった。

 厳しい、という意見は魔狼の姿に誰もが口を閉ざすも圧倒的強者だった魔狼に体の内側からの攻撃が有効という情報は各国でもさっそく実験をするダンジョンがあったとかなかったとか。

 結果が公表される事はなかったのだから失敗に終わったのだろう。

 仕方がないと言ってすまされる問題ではない。だが俺達だけでは持て余してしまうこの事実に知らないふりをするのが精いっぱいの出来る事だった。

 投げ込んだ時の画像が埃でほとんど見えていない挙句に熱で映像もノイズが走る合間に見えた程度のもの。いくら画像解析をしても鮮明な画像に修正は出来なかったのだから知らないままでいいとひょっこり事実が判明されるまで墓場まで持って行く決意をすれば……


 バルサンの件を知る俺たち全員それが手榴弾ではない事は箝口令を布かなくても誰も口にしなかった。


 出来る分けがない。


 一般的なドラッグストアーやスーパーで売っているただの家庭用空間処理殺虫剤がここまでしでかすなんて誰が想像する。


 そしてどうやって証明をする。

 

 この国ではそれが許されるはずがなく、そして唯一その全貌を知る者達が拠点とするダンジョンで密かにデータを取る事を決めた千賀は斎藤に密かに買い集めておけ何て耳打ちしていたが……

 最も利用者の斎藤の家には今もいくつかのバルサンが用意してあり、任せておいてくださいと良い笑顔で言われた事には不安しかなかった。

 高度成長期に建てられた自衛隊員の官舎に住む斎藤は昔ながらの床下が繋がっている当時よくある仕様の為どこかでバルサンを焚けば逃げ込んでくるGを撃退するためにバルサンを焚くと言う鼬ごっこをするためにいくつも用意するガタイが良いのにGが苦手な男だった。


 そんなダンジョン対策課の旧千賀班で秘匿された情報は隊員の各家庭で自発的に購入しておくと言う謎の行動が見られるようになったがそれぐらいの対策位目を瞑っておいた。




 そんな訳の分からない情報源の人物と千賀達はついに対面していた。


 病院を退院して一週間ほどの移動の為の事務手続き後に三輪が初めて来たとき同様客間の上座に座らされ、家主の男、相沢と一緒にダンジョンに潜る岳、そして紅一点の沢田と対面して面食らっていた。

 こんなどこにでもいる青年たちがかの魔狼を単身討伐し、さらにはその先の世界を切り開いているのかと今まで鍛えてきた俺達は一体何だったのかと机の下で握りしめられた拳を足に押し付けてその理不尽に耐えていた。

 しばし無言の間の中お茶を出してくれた沢田に千賀たちは大人のマナーとしてありがとうございますと頭を下げる中開け広げられた窓の向こうでこれから住む事になる宿舎が急ピッチで仕上がっていく様子を眺めてその衝動を凌いでいた。

 この無言に耐えれなかったのかこの呆れるほどの土地の所有者だと言う男、相沢は少し視線を彷徨わせながらも


「ネットで見ていました。それにしても怪我とか大丈夫ですか?

 この辺だとその怪我の処置を出来る所は隣町の病院まで行かないとないので、因みに車で30分ほどかかります」

「想像以上に田舎ですね」


 ポツンと一軒家、ほぼ原生林に囲まれた中にわずかに切り開かれた農家仕様の家にはさすがに戸惑った。

 挙句の果てに三輪にも聞かされていたかのダンジョンの入り口を見せてもらったのだが……


「本当にトイレにダンジョンが出来ていたのですね」


 そしてダンジョンの入り口が余裕をもって収まるサイズの謎なくらい大きなトイレにも驚かされたが家主はもう開き直ったと言わんばかりの顔で


「はい。

 折角なので泊まり込みで作業している土木課の皆さんに業務時間後にダンジョンでランニングをしていただき、遭遇時討伐と言うトレーニング場になってます。こんな山奥でもダンジョンの明るさは昼夜関係ないので本当にありがたいです。

 そして先に言いますがすみません。

 岳が皆さんを引き連れて魔狼退治をレクチャーさせていました」


 ばっと頭を下げる三人にさすがに俺達も何も言えなかった。

 

「橘、一体どうなっている……」


 千賀は苦々しそうな顔で問えばさっと目を背けながらも


「沢田さんが何か実験がいい感じかもと言って我々にお守りを配布した後試しにと言いまして……」

 なんて橘も援護に加われば相沢がかばうように

「すみません。岳が脳筋ですみません!

 土木課の皆さんを危険な目に合わせてしまいましてすみませんでした!」

「えー?俺のせいな……」

「岳がダンジョン大好きですみませんでした!」

 再度相沢が頭を下げれば思いっきり机にぶち当てていた。

 茶器が少し騒がしい音を上げるくらいの勢いだったがゆっくりと上げた額がほんのり赤くして迄の謝罪は受け取っておく事にした。


「土木課の皆さんとは言え一応戦闘訓練を受けていると聞いたのでダンジョンで怪我をしないようになんて娯楽がない場所なだけに楽しんでもらえたらと思ったのですが……」

「橘、土木課の責任者呼んで来い!」


「あ、責任者の水井さん本日休日なので他の休日の人と一緒に雪にダンジョンを案内してもらってます」

 

 なんて橘もほんのニ週間ほど会わなかっただけですでにここの生活に染まっていた。








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