ボットンではなくポッツンです
いや、土木課の奴らも数週間前に来たと言うのに染まりすぎだろうと頭を抱えるが
「ところで雪、さん? とはこの後会えるのでしょうか」
「ええと、朝一に出かけたのでぼちぼち帰ってくるかと思いますが……」
なんて言った所でどこからか「にゃーん」なんてかわいらしい声が聞こえた。
この家は猫を飼っているのかとどんな子なのかなとそわそわしながら待つ千賀は圧倒的猫派だ。
イチゴチョコ大福を見て猫じゃないのかと少し残念な気持ちはあったものの人懐っこい犬も嫌いじゃないとじゃれつく三匹のいぬっころをなでなでした記憶は林が咳払いする間続いたことはすでに忘れてきょろきょろとその愛らしい鳴き声の主を探せば縁側をトコトコやってきて飼い主の相沢にすりすりと体をこすりつけていた。
真っ白な毛並みに淡いブルーの瞳。
どこまでも美しい猫だとご機嫌に伸びた尻尾に相沢はチュールを差し出せばゴロゴロと喉を鳴らしながら小さな前足で早く頂戴と強請っていた。
羨ましい!
俺もやりたい、いやここに住むからいつかは出来るかと思わず宙をモミモミしながら飼い主に抱っこされながらチュールを食べる様子を網膜に張り付けるようにガン見していれば
「雪軍曹、遅ればせながら今到着しました!」
「雪軍曹、本日も訓練ありがとうございました!」
「雪軍曹、キレッキレの空中殺法今日も眼福でした!」
「雪軍曹、次回もご教授宜しくお願いします!」
なんて血みどろな姿で縁側越しの庭に現れた男たちの中に見知った姿があった。
「水井お前!!!」
「せ、千賀?!
お前怪我したって言うのにまだ自衛隊に残ってたのか?!」
千賀と水井、まさかの同期と言う間柄の偶然の再会は着替えをした後に縁側で正座をさせると言うこの対応。
雪はいい座布団を見つけたと言うように水井の膝の上でくるりと丸まりダンジョン後の休息をとるように目を瞑るのだがそれでも約四㎏ほどの雪は水井の足にそれなりに苦痛を与えていたので千賀はそれ以上この場での追及は止める事にした。
「と言うか、ダンジョン満喫しているのか……」
「相沢君が言うようにここ本当にダンジョン以外の娯楽がないので……」
視線を反らしながらの言い訳に千賀は何かに気付いたと言うように顔を跳ね上げて
「お前、今レベルいくつになった?
千賀が聞けば視線はそらされたまま固まって身動きは取れない様子にまさかと思えば
「言え……」
地を這う声で問えばそっとステータス画面を開示してくれた。
水井 利治 (35才) 性別:男
称号:戦士
レベル:23
その数字に俺はない腕を振り上げて床にたたきつけると言う記憶からの動作にごろりと転がってしまった。
「千賀大丈夫か?!」
慌てて水井が駆け寄るも千賀は肘上から失った手で水井を振り払い
「俺はレベル19なんだ!
あれだけ訓練を繰り返したのに何で土木課のお前に……」
しくしくと泣きだした千賀に誰もがめんどくさそうに視線を反らせた。
その様子を無視して岳は出された茶菓子のお煎餅をバリバリと食べ、沢田はお茶を淹れてきますとこの場をエスケープをし、相沢も逃げ出そうとした所で一人で逃げるなんて許しませんと言うように橘に捕獲されていた。
その目には説明しろと語っているけど俺はめんどくさいと言うように溜息を吐いて
「千賀さん」
声をかけた。
「ダンジョン入る勇気ありますか?」
真剣な声に千賀は頷こうとしたのだろうけど、がたがたと体が震え出した。
ダンジョンで殺されそうになったトラウマだろうか。
顔を真っ青にして口を上げてハアハアと過呼吸だろうかその様子に林はすぐうごいた。こう見えても医科・歯科幹部自衛官と言う戦えるインテリ枠の人。
寧ろ何かあった時一番頼れる人が側にあったお土産を入れたビニール袋を口に当てて
「千賀さん、大丈夫です。落ち着いて、ゆっくり呼吸をしましょう」
視線を合わせるようにして声を掛ければやがてどこを見ているのかわからない視線は林の目を見るように定まって、呼吸が落ち着いて行く。
ゆっくりと二、三回深呼吸した後にその手を押しのけて
「見苦しい所を見せて悪い」
「何を言っているのです。ついこの間死にかけたんですよ?
いまだって二本の足で立っていること自体奇跡なのですから。
千賀さんの使命は今まで培ったダンジョンでの部隊の動かし方を教えていく事なのですよ」
なんて言い聞かせるように落ち着かせていた。
これは医療の中でも心療内科医の仕事ではないかと相沢は思ったけど残念ながら心療内科医なんて縁のない分野なので勝手にそう思う程度でしかない。
「大丈夫です。
すぐにまたいつもみたいに討伐が出来るようになるから今は少し休憩しましょう」
なんて治療法に……
相沢は怒りを覚えた。
こっちは待ったなしの恐怖に日々さらされていると言うのにだ。
助けを求める相手はたかが死にかけたぐらいでよしよしと頭を撫でられている。
実際は撫でられてないけど、常に待ち続けた緊張の日々。
待ちに待った自衛隊の人は橘さん一人とこれから来る人達を受け入れる家を作る人達。
これだけ助けを求めていると言うのに腹が立って腹が立って思わず土木班の人達をダンジョンに連れて行って鍛え上げてしまったが、この男の厚遇ともいえる環境に腹がって、腹が立って……
「休憩、良いですね!
だったらちょっと散歩に行きましょう!」
俺はあまりにもちょっと地位ある人間がちやほやされる環境にいら立って思わずと言うように林さんと千賀さんを掴んで持ち上げる。
「安心してください。うちでは安全に散歩が出来るコースがあるのですよ!」
素敵でしょうと言うような笑顔を浮かべながら俺よりガタイも身長も良い二人だけどその二人の首元を掴んで持ち上げればもう足が届かない、
慌てふためき暴れる二人をそのまま風通しが良いようにと開けきった襖の真ん中を通れば時々鴨居にぶつかる音が聞こえたけどそれを無視して常識的には閉められているけど我が家では開け放たれたままのドアを潜り抜けて
「ようこそポツンと一軒家のポッツンのダンジョンに!」
階段を下りて放り投げた二人は俺を失礼な事にまるで魔狼を見るような視線で俺を見上げていた。
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