同年代の格差に少しいじけてみた

片腕を失ってもその前よりがっしりとした体格の千賀さんを始めとした方達と比べたらまだ線の細いどこか若さ漂う皆さん……


 俺達と同学年の皆様の規律のとれた姿勢と表情に対してジャージにスリッパの俺、ご飯を作ってる最中の沢田、ダンジョン帰りの岳と対面する事になった。


 なんて言うか、もう見た目で俺達負けていた……


 そんな俺達とは反対に初めて入るダンジョンを目の前に生き生きとしている若者と、冒険者という職業がなければ家事手伝いやニートと言う肩書の俺達の間に漂う微妙な空気を読まない可愛い奴らがやって来た。

 

「ワンワン!」

「はっ、はっ……」

「スンスン、くう~……」


 イチゴチョコ大福が一生懸命水井さんの匂いを嗅いでは前足で遊ぼうよと催促しております。

 久しぶりの再会が嬉しいのか三匹にぐるぐると絡まれたり、前足をお腹にあてて後ろ足でぴょんぴょんとジャンプしたりの大歓迎ぶり。

 もちろんジャンプするたびに顔をべろべろと舐めるのでどこからか笑い声まで聞こえてきた。大福いいぞもっとやれー。

 そういや橘さんと一緒にお散歩したり、ご飯を分けてあげたりしてたなこの人……

 すっかりお仲間認定されてしまっている水井さんにイチゴがお散歩に行こうとお散歩紐まで持ってくる始末。

 さすがに結城さんもお前たちは何やっていたんだと呆れていたが、選抜隊の人たちはちょっとうらやましそうに水井さんを眺めていた。

 まあ、これはこれで水井さんは皆さんといい関係を作っていたのかと思うも千賀さんの小さな咳払い一つでまたぴしりとした姿勢とイチゴチョコ大福を見ない視線はまっすぐ俺達の後ろの何かを見ていた。

 統率が取れすぎていて正直怖いなと思うも目の前ではイチゴチョコ大福の三匹が早く散歩に行こうと水井さんの服の袖やズボンを咥えて強引に引っ張って行こうとしているし、秋田犬系雑種でも三匹の力に人間が勝てるわけもなく……


「イチゴチョコ大福、お座り」


 この事態を終わらせるためにも言えばものすごく寂しそうな顔で俺になんでダメなの?と訴えてきた。

 久しぶりに会ったのだから遊びたい、散歩に行きたいと言うようにきゅ~ん、きゅ~んなんて鳴く様。思いっきり動揺している水井さんとそれでもちらりちらりと視線を向ける選抜隊の皆さん。

 どんな我慢比べだと思うも俺は飼い主として躾けなければいけない。


「雪さん、イチゴチョコ大福と遊んであげて!」


 どこに居るか分からない雪に声を掛ければ母屋の方からととと……と軽い足取りでやって来た真っ白な猫に皆さん猫もいるんだと言うようにほんわりとした視線を向けたものの


「シャーッッッ!!!」


 我が家の守護猫雪様の突然のシャーの一言でイチゴチョコ大福は慌てて逃げ出していった。


 あまりにもあっけない結末に皆さん目が点になりながらも

「相沢君、助かりました」

 よだれでべとべとになっている水井さんに笑いながらも

「あとで顔を洗ってください。

 それと皆さん来たばかりですが今日の予定はどうなってるのですか?」

 聞けば

「本日は荷解きを終えてダンジョン探索になっている。

 基本まだ学生だから食料も俺と一緒に購入になる。料理をすること自体も勉強なのでなるべくこの点に関しては協力を頂かない事が一番の協力になるのでよろしく頼む。

 ダンジョン課は普通科の中に含まれるから戦闘が主な訓練になるから。

 卒業後すぐに11階以降の探索に向かう事になるから魔狼の単独討伐、その先のサバイバルスキルを上げていく事になる」

 そんな説明に

「それってうちが一番縁遠い所じゃ……」

 特にサバイバルスキルと言う所。

 半ば俺の収納スキルでキャンプを楽しんでるくらいだし。

 さらに岳に頼んでログハウスを作ってもらった。

 岳の家で荷物を受け取り、俺の収納で納屋の中で俺を重機がわりに組み立て岳がDIYを装いながら組み立てて俺の収納に格納。

 もちろんログハウスの中にはちゃんとベッドもあるし水のストックやバーベキューセットもある。雨の日の為にカセットコンロも用意してある。

 グランピングなんてレベルまでいけてないけど缶詰やレンチンご飯も用意してある。いざという時ご飯が炊けれるのが待てない時はボイルすればいいからね。めんどくさい時はそれで済まして沢田に怒られるまでがお約束だ。

 だから対抗策としてカップラーメンをいろいろ置いてあるけど……

 折角俺の能力がばれたんだから悠々自適に使えると思ったけどこれじゃまた使えないじゃんと唸ってしまう。

 もちろん俺のスキルの事を知らなくても地道に11階にまでいろいろ荷物を運び込んで快適にキャンプの拠点を作って謎の補強をしてくれた皆様のおかげで移動式ログハウスではなく現地の木材と土を利用した拠点が出来ていた時はさすがに驚きを超えて引いたけど……

 そんなダンジョンで輝かしい未来が待ち受けている皆さんのバックアップする意味がもう間違っているしかないと思いながらもだ。


「相沢君が心配する事は理解している。

 だが心配ない。それを含めての研修だからな!」

「つまり長期攻略の為の対策ですか?」


 一瞬空気に緊張が孕むも

「話が早くて助かるよ。

 とりあえず卒業までに15階を単独でクリアできるようにしてから彼らを各ダンジョン、そして優秀な者は海外に派遣という形を取れる事を目標にしている」


 そんな無謀ともいえる発言。だが期間的にはまだ十分行ける。


「でしたらレベル30目指してゴリゴリ鍛えましょう!」

「は?」


 そこで俺は失念していた事を思い出した。

 意味を理解できない水井さんを始めとした結城さんを含めた皆さんの困惑した顔に向って俺は笑顔で説明をする。


「階層≠レベルって言うのは俺達の思い込みで15階の魔象そのものがレベル25で攻略推奨レベルは30です。

 戦闘特化した雪でさえ当時レベル25をクリアしていたのにかすり傷程度しか与えることが出来ないほどに防御に特化していました。

 見た感じ皆さん魔狼を攻略できるレベル20辺りだと思いますが……」


 ここまで言えば本当にそうらしく青ざめていく顔色で頷く相手に現実を教える。


「確実に死にます。

 まずは焦らずレベル30まで上げましょう。約一か月もいらないと思いますので確実に安全に行きましょう」


 どこか脅えたような顔色の皆さんに言えば


「相沢、普通一ヶ月でレベル20から30まで上げることが出来ないんだ」

「そうですよ。彼らも私がアメリカから帰ってきて毎日11階以降を連れまわしてやっと20まで上げたのですから。

 自分を基準に言うのは酷と言うものです」


 千賀さんと水井さんにダメ出しを食らってしまった。

 




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