猫ちゃ~ん、ともっと言わせてみたい件
ある晴れた昼下がり……ではなく朝一で俺達は東京に向かう団体さん移動用の小型バスに詰め込まれた。
少し前に東京から帰って来たばっかりなのにまた行くのか……
なんだかずいぶん前の話しのようだけどそれはほんの数日前の話し。
頭の中はまだまだ太ももがセクシーなお魚でいっぱいなのが原因だろう。
今回は前に用意してもらった所に宿泊の予定。
工藤にハンドルを握らせるのは不安だったけどとりあえずまだ眠いから移動の間爆睡してその心配を無視する。代わりに雪しゃんがダッシュボードの部分を独占して日向ぼっこを満喫してご満悦だったというこの世界の天使が降臨していたという。
工藤が変なことしないように監視していたのかもと思うもさすがにそんな馬鹿な真似はしないだろう。と言うかそんな狭いダッシュボードでほんと器用に寝るのねと花梨から見せてもらった写真の雪のかわいさ。当然その写真をもらう一択に決まっている。
そして前回もだったけど気が付いたら到着していた。
「今度こそサービスエリアでしょうゆ味しかしないラーメンとかちょっと油臭いアメリカンドッグ食べるつもりだったのに」
しくしくと泣く俺に
「ほら、こんな事だと思って買っておきましたよ。そこのコンビニで」
「これじゃない、だけどありがとう林さん」
「どう違うかわからんが温かいうちに食え」
これじゃないと言いながらも黙々と食べだす俺の隣では幸せそうに肉まんを食べる岳。しっかり満喫しているようで何より。そして雪は……
花梨にちゅーるを食べさせてもらっていた。俺もあーんしてもらいたい。今言うとちゅーるを口の中に突っ込んでくるのは分かっているので言わないけど、そこが花梨のかわいい所だよねとニヤニヤしてしまえば二人そろって背中を向けられてしまった。それもまたかわいい。うん。
「ところで結城さん、これから俺達どこ行くの?予定通り大学にちょっこーとか面白み無いんだけど」
「なら荷物を置いてから大学だ」
「えー、大学ダンジョン潰しに行くの?もっと蟹とか取りたいんだけど」
「大学ダンジョンは貴重な訓練の場所だ。潰さないぞ」
そんな結城さんのお言葉。
「やだねー大人って。自己中すぎるよね」
「だねー。みんなの娯楽を奪っておいて自分たちだけ楽しむなんてサイテー」
岳も俺と同じ意見らしい。
「それよりもこっちに来てダンジョン攻略しないか?
それこそ希望があれば海外にも連れてってやるぞ」
「あ、俺英語全くダメなので海外は無理です」
絶対行きたくないという様な拒絶するその顔。皆さんから小さな笑いを誘う岳の隣で
「俺も雑草と家のメンテナンスもあるので海外は無理です」
俺だって現実的に数日の留守ならともかく海外まで行ってとかまでの留守を考えると無理だなと判断。
だけどそこは結城さん。
「なに、その時は水井たちをお前の家に派遣させる。
あいつらなら猫ちゃんたちのお世話もこなすだろう」
「……」
結城さんの口から出た猫ちゃんと言う言葉、その顔で猫ちゃんとかインパクトしかなくって水井さん達の事は綺麗に消えた。
しかも背後で
「一佐、猫ちゃんって……」
「しっ、黙れ工藤」
「だけど先輩、あの顔で猫ちゃん……
聞かれて恥ずかしそうにする一佐とか、腹痛ぇ」
「気持ちは分かるが頼むから今は黙れ」
少し離れた所での工藤と千賀さんの会話。俺の意見は間違いではなかったことを確信した。って言うかはやっさん。笑いたければ笑えだけど大人なんだからもうちょっと隠そうとか考えようよ。思いっきり噴き出してうずくまっていたらいくら結城さんでも気まずそうな顔してるよ?!
確かに花梨もびっくりな子猫たちへの保父さんぶりだったけどこんなに変わるのかびっくりでしかない。
なので恐る恐ると提案。
「結城さん、生まれたてのあの猫たちの里親になりません?」
聞けばものすごく揺らぐような視線。
だけど一佐まで上り詰めた人。
「生活が不定期な私に動物を飼う資格はない」
固いなーなんて思うも命に対して誠実だと思い直して俺の方が失言だったことを理解する。
「すんません。春にも生まれたのにまた生まれて、避妊が追いつかなく……」
家に住み着いている猫が何匹いるのかも不明。うちの敷地が広いから気付かなかったけど完全に多頭崩壊している事は確実だ。
「里親なら実家の両親に聞いてみよう。
それなりに高齢だが弟夫婦が同居している。子供に恵まれない夫婦だから母も気にしていたが……
負担をかけないように母たちが育てるという名目で弟夫婦にも子供のように大切にしてもらえればいいとは思うがやっぱり兄弟はばらばらにならない方がいいだろうか。実は子猫は初めてだから少々不安でな」
めちゃ里親になる気じゃん。
あまりの展開に思考がついていかず、だけどその気持ちはありがたく思い
「山の獣たちに美味しく頂かれる前に帰ったら保護しましょう」
今まで多頭崩壊しなかった理由。ちゃんと自然の掟の中で間引かれていた事を言えば
「獣っ!! 今すぐ山へ向かおう! 猫ちゃんたちを迎えに行こう!」
まさかの愛猫家。しかも仕事を投げ捨てるくらいにの勢いに
「結城一佐、それよりも今は任務です」
そこは千賀さん。上司の暴走を止めてくれるようだ。
工藤に黙れという様に足を踏みながらもまじめな顔で話を戻せばさすがに結城さんも気まずそうな顔をしながら
「予定変更だ。荷物は後にする。相沢、しっかり収納しておきなさい」
「うぃーっす」
大学直行ルートが決定された。大学目の前だしね。
返事をしながら岳のホカホカの肉まんが入っているコンビニ袋や花梨のカバンなども預かる。
「便利だなー」
分かってたとはいえ目の前で見ればそう言わざるを得ないそんな三輪さんの感想。
「そう言えばダンジョン出た時の水草とかどうしてます?」
橘さんの疑問に
「うちの生態系を壊すわけにはいかないのでこちらで処分をお願いしてます」
「研究所に持っていきますよ。ダンジョンの影響を受けてないか調査は必要ですので」
至極当然のように言う林さん。
だけど林さんの専門分野ではないのであまり興味なさそう。
そこからまた車に乗り込んで大学へと移動。
ダンジョンのある体育館の手前で林さんの案内で降りればずらりと並ぶ制服を着た方々プラスアルファ。
そっとまた車に戻った俺はきっと正しい判断をしていると思う。
「なんか知らない人いっぱいいるんだけど!」
思いっきり力いっぱい叫んでしまえば
「寧ろここにお前が知っている人がいるのか紹介してほしい」
結城さんに押し出されてバスから降ろされてしまえば
「相沢見て!ハンターズだよ!すごい、ひょっとして全員そろってるとか?
サインお願いしたら書いてくれるかな?」
「お前は領収書以外サインするなよ」
「よくわかんないけど分かった」
ふわ~、ハンターズかっこいいなあ、なんて言う岳よ、お前ほんとかわいいよとこの会話が丸聞こえのようでハンターズの皆さんはどこか居心地悪そうだ。
「ちなみにどなたのサインが欲しいのですか?」
林さんが悪乗りするけどそれを聞くかと花梨はこの後の展開を知っているように耳をふさぐ。
「え?あきら一択じゃん」
なんて普通に答える岳。はやっさんよ、頼むからこの先を聞かないでくれなんて願いはあっさり無視されて
「ゆいちゃさんとかは?」
あ、それ聞いちゃう?なんて冷や汗が流れた瞬間
「あ、俺3Dは無理なので」
海外は無理と言ったとき同様真顔でのお断り。
視界のすみっこではゆいちゃが顔を引きつらせていた。こわーい。
だけど分かっていても言わせただろう林さん。少しだけ残念そうな顔をして
「普通に皆さんのサインをまとめてお願いしていただけばいいと思いますよ」
「はやっさん天才!」
「あとでお願いしてみましょうね」
なんて何十なんて数で収まらない場所でのこの会話。
「そこの二人、早く並びなさい」
こういった茶番にすっかり慣れ切ってしまった結城さんはこの空気を無視して任務を努める素晴らしいメンタルをお持ちで思わず褒め称えたくなる。
とても猫ちゃんと呼んだ時とは同一人物には見えなかった。
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