人気職って些細な所にもあるのですね
「これから東京?ご飯食べたらすぐ?」
朝からと言うか一晩中賑やかだった庭の一角にキャンプ用のテーブルを並べてみそ汁をすする朝食の場での連絡となった。
水井さん一行も久しぶりの花梨が作る謎肉を使ったご飯にお替りは止まらない。セルフサービスだけど。
俺達は慣れていたけど結城さんはこんな生活をしていたのかと顔に出ていても無言で朝食を食べる理由は花梨の朝ご飯が美味しいからだろ。文句を言うのならプレハブハウスで自分でご飯作って食べればと言われることを回避する能力、さすが一佐にまで上り詰めた人。一応胃袋を掴まれた人とは言わないでおく。
「結城さん、それでよかったですよね」
ちゃんと話を聞いているのか分からない岳に今更不安なんて覚えないけど一応聞けば
「ここの工事は水井たちに任せる事になるが相沢こそ問題ないか?」
「いいっすよ。イチゴチョコ大福達の世話もしてもらえればいいし、納屋の冷蔵庫の食材使ってもらっても構いませんので俺達の帰宅までに葱と白菜の植え付けをしていただければと思います」
分かった、分かったと苦笑塗れの笑い声。そこに子猫の世話はあるのかと言う結城さんの突っ込みは全無視だ。
謎の統率の取れたぬっこ達を含めてのお世話のお礼は冷凍庫の肉類に冷蔵庫の野菜たち。そういえば
「ダンジョン潜ってる間に頼んでいたサツマイモとかは?」
「ああ、言われた通り段ボールに入れて冷蔵庫に入ってるぞ」
「あざーっす」
水井さんの言葉に結城さんが
「冷蔵庫に入れるのか?」
少し驚いた顔での質問。
「外に置いておくとネズミやリスが齧るので。プラ箱も齧って穴を開けるから冷蔵庫内で保存です」
「それね。ほんとリスとか絶滅すればいいのにって思うよね」
水井さん達も聞いていた花梨がまだ蕎麦屋の娘だった頃の沢田家の大災害。リスに保存していたそばの実を食べられた大事件。一度でも体験すればトラウマだよなと結城さんは千賀さんから説明を受けて顔を引きつらせていた。
ここがダンジョンなら確実にこの料理に毒が付与されていたよなと思いながら美味しい朝食を食べ
「で、今度は何処に行くの?」
いつの間にか朝食を食べ終えた岳のたぶん誰でもするような質問。
「そういや、一緒に言うから俺も聞かされてなかったんだけど……」
聞けば結城さんは視線を俺達に一切合わせないようにする始末。
うん。これはあれ確定だ。
「今度は何処のダンジョン?」
「それは、着くまで秘密という奴だ。
正直私も聞かされてないから答えようがない」
んなことあるか、と思うもそれがあるのが自衛隊だろう。
あるか?
めんどくさいからそれで納得するけど
「変な所だったら花梨と岳と雪を連れて帰るからな」
「それは大丈夫だ!極どこにでもある普通のダンジョンだからな!」
「ダンジョン自体普通じゃない気がするんだけどー」
花梨の指摘に皆さん頷かないのはその職務と階級と言うものがあるからだろうか。黙々とお替りをしてご飯を食べている様子が憎たらしい。
「ともかくご飯食べたら行くからお泊りの準備頼むな」
「りょー」
「にゃっっっ!」
そこでなんでか雪が必死に俺に訴えかけてきた。
この戦闘狂め、ここのダンジョンが無くなったから連れて行けと言いたいのだろうが
「雪しゃんももちろん着いてきてくれるよね?!
ダンジョンで知らない魔物にシャーってされたらニャーってやりたいよね!」
「にゃ!」
そんないい返事。
俺の平和の為に敵に立ち向かう雪、素敵だ……
そもそも雪を戦力外になんて考えた事はないけど、ここまでノリノリで返事をされると本当に連れて行っていいのか躊躇ってしまう。
どっちが侵略者なのか考えるのは当然か?
とりあえず俺は俺が愛用することになるだろうトイレを取り戻す事にめどがついたので後は雪が喜ぶのならお散歩に連れて行ってあげる程度には考えている。
それが敷地外で他県だとしてもだ。
もう我が家のアトラクションはない。だったらストレス発散をしながらゆっくりと時間をかけてダンジョンの事を忘れてもらう作戦。有効かどうかなんて考えないけどね!
とりあえずダンジョンにいくのはうんざりするほどめんどくさいという事を雪に刷り込ませねばと食後のお片付けは水井さん達にお願いして準備をする。
まずはお風呂に入る所から。
「お前らなんか生臭くないか?
布団のシーツとかは水井たちに任せてとりあえず風呂に入れ」
食後の結城さんからのお言葉。
お魚戦争の結末を知らない結城さんの言葉に俺達が寝落ちする前にお風呂に入った千賀さんの気まずそうな顔。
「悪いな、さすがに臭いに耐えれなかった」
つまり今の俺と岳、そして花梨は……
「先お風呂いただきます!」
真っ先に風呂場に駆け込んだのは花梨。
家風呂に向かうついでに雪も拉致って風呂場に直行。
風呂場から壮絶な雪の鳴き声が聞こえてくるけど……
「外のふろの方はすぐ使えるようにしてある」
「あざっす」
そういって食べ終えたまま行こうとしたらすでに岳がぴゅーっと走り出していて服を着たまま風呂に飛び込んでいた。
「あ、こら!服着たまま風呂に入るな!」
「ごめん!マヒしてたけどやっぱりこの臭いムリ!」
「急に現実に帰るなー!」
そんなバタバタとする俺達と結城さんを他所に慣れている水井さん達は
「片付けが済んだらトイレと白菜、葱の作付けチームに分けるぞ。希望があれば聞くぞ。まずは作付け!」
みんな一斉に手を上げた事を結城さんは墓場まで持って行ってくれる、そんな勇者になってくれた。
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